第29話 vsドラゴン
「…見かけない連中だな。何をしていた?」
ドラゴンは威嚇しつつ、俺たちがここにいる理由を聞く。
「俺たちはミスリルを取りにきただけだ!縄張りだったなら、勝手に入って済まない!今すぐ出ていくから見逃してほしい!」
刺激をすればどうなるかわかったものじゃない。
ドラゴンには謝罪をしつつ、逃げるための準備を進める。
このドラゴンは普通のドラゴンとはわけが違う。
ドラゴンの中でも最上位種に属する
普段の彼らは山岳の頂上や人知れない辺境を住処とし、その地にいる同族や他種族を総括している。
彼らはあらゆる魔法への耐性があるのはもちろんだが、その圧倒的な力で山すら吹き飛ばしてしまうといわれていることから。別名、『生きる災害』と呼ばれている。
もちろんランクはSの最強モンスターの一種。
もしかすれば、それ以上の可能性すらある。
「ほう。人間風情が俺に楯突くのか?誰が、お前らを生かして返すといった?」
どうやらドラゴンとの戦いは避けられないらしい。
隙を見て逃げるか?
それが生きる上では正しい選択だろう。
だが、俺たちが逃げたことでドラゴンの逆鱗に触れ、近くの村や森に被害が出るかもしれない。それは絶対に避けなくてはならない。
それに俺はここで逃げてどうする?
強大な敵に討ち勝って最強のパーティーに...。
そして、英雄になる...。
そうじゃないか!逃げる必要なんてない!
強い敵は倒す!勇者だってやることは同じはずだ!
腹を括れ、俺!
「二人とも。どうやらドラゴンは逃がしてくれなさそうだ。俺たちで倒すぞ!」
俺は必死に鼓舞する。
「だ、大丈夫だにゃ…。わ、私の最強魔法ならドラゴンくらい、い、一撃で…」
震えながらマオは、抵抗しようとしている。
彼女の肩に、クリスが手を乗せる。
「大丈夫よマオ。あなたの魔法ならあんなのイチコロよ」
まるで本物天使のような微笑みでマオを落ち着かせる。
「ドラゴン…、ちょっと伝説の生き物としてチヤホヤされたくらいで調子に乗ってるトカゲ種族。天使に牙を向けてタダで済むと思わないことよ!」
クリスはアヴァロンを身に着けて、戦闘に入る。
いつものクリスじゃないことに俺の思考が追い付いていないが。
「行くぞ!こいつを倒して、俺たちでドラゴンスレイヤーの称号をもらうぞ!」
ドラゴンスレイヤーという言葉を聞き、耳をひくひくさせたマオ。
「ドラゴンスレイヤー…、そうにゃ!ここでドラゴンを倒せばその二つ名が私のものに…、燃えてきたにゃー!」
やる気が漲るマオ。調子を取り戻したらしいな。
「俺に歯向かうか?やれるものならやってみろ!」
グオオオオ!!!!!
ドラゴンの咆哮が俺たちに向けられる。
「いくぞ、クリス!マオ!」
洞窟内は広い方ではない。ドラゴンも無闇に動けないはずだ。
地面にいるドラゴンの足元を崩して態勢を傾ける。
「ほう。洞窟内では飛べないと思ったのか?…甘いな」
ドラゴンは翼を水平にして空中に浮遊しつつ、地表にいる俺たちを尻尾で叩きつけようとする。
クリスも魔法で攻撃するが、ダメージが通っている感じではない。
やはり魔法の耐性が高いのだろう。
ならば・・・。
「マオ!準備はいいか?!」
「いつでもいいにゃ!」
「…何をするつもりだ?」
空中に浮くドラゴンは疑問を浮かべている。
「・・・くらえ!!!」
四方八方から洞窟内の壁を石槍に形成し、ドラゴンめがけて突き刺す。
だが、傷一つ付けられていない。
「そんなもので、俺に傷をつけられると思ったか?」
ドラゴンは余裕の笑みを浮かべる。
「あいにく俺の狙いはそれじゃない」
なに?とドラゴンが唸った時。ドラゴンの体を氷が覆いつくした。
重さに耐えかねてドラゴンは地表に落下した。
「クソッ!氷魔法か!いったいどこから・・・」
さっきの石槍に仕掛けられた魔道具を確認するドラゴン。
「なるほどな...。面白いなお前!」
嬉しそうに笑うドラゴンは、氷を内側から粉砕する。
「相変わらず図体だけは大きいのね!切り刻んであげる!」
クリスは短剣サイズの『エクセラ』でドラゴンの足元を切り刻む。
血潮が飛び出し、ドラゴンも思わず声を上げる。
「天使の分際で…」
「トカゲのくせに調子に乗りすぎよ!地に伏しなさい!」
上級光魔法の『天の矢』を繰り出したクリスの一撃を一切避けることなく受けきる。
「魔法は効かん。天使の魔法は大したことないな」
ドラゴンは尻尾や翼で攻撃をしかけてきたが全て避けきる。
やはり体が大きい分回避はしやすい。
それにしても、さっきからずっと気になっていたことがある。
「クリス。あのドラゴン一度も魔法を撃ってこないぞ。何かわけがあるのか?」
ここまでの攻撃で一切魔法を使っていない。
ドラゴンなら魔法でこの洞窟ごと焼き尽くしてしまいそうだが。
「そうね。普通なら考えられないけど魔法を使えないのか。或いはあのドラゴンの魔力量は尋常じゃないわ。もしかしたら、マオくらい強力な魔法を隠しているのかもしれないわね」
そんなことされたらこの山ごと消し飛ばされるんじゃないのか?
その前になんとかしてドラゴンを倒しきらないと。
「マオ!魔法はどうだ?」
「準備バッチリだにゃ!いつでも撃てるのにゃ!」
よし!
マオの準備が整ったところで俺はドラゴンを壁で格子を作り動けなくする。
「ふん!その攻撃は聞かないぞ?お前わかってるのか?」
「当たり前だろ?だからこうするんだ!」
突如洞窟の天井が吹き抜けになり、ドラゴンを地上へ放り出す。
俺たちも続いて洞窟の壁を射出させて地上に出る。
「面白い芸だな!しかし外へ出たからと、どうということはない!」
「それは、これを喰らっても同じことを言えるか?」
俺は空中に大量の砂をまき散らす。
その中に時限式の中級炎魔法『バーニング』が込められた爆弾を放り投げる。
起動した弾は、砂と混ざり合い強大な爆発を引き起こした。
凄まじい爆風が俺たちの間合いを通り抜けていく。
「チッ!目くらましか!どこへ行った?!」
探し回るドラゴンの隙を縫って。
グアアア!!!
ドラゴンの翼を斬りつけて、深い傷を与えることができた。
「いいぞ!俺に傷つけた人間はお前が初めてだ!次はどう攻めてくるんだ!」
戦いに楽しさを感じているドラゴンに向けて言い放つ。
「悪いが、お前とはここでお別れだ」
「…何?どういうことだ?」
直後大気が渦巻き辺りの様子が一変する。
嵐の前の静けさがドラゴンに降り注ごうとしていた。
「何が起きている?誰が・・・」
ドラゴンの見据える先には、とんがり帽子を被った猫族の女の子。
圧倒的な魔力のうねりと絶対的な魔法に、逃げることはできない悟った───。
マオを囲うように赤き魔法陣が無数に展開されていく。
「───供給せし力の奔流、抗い逃れぬ獄炎に…汝の命運は握られた。
燃えよ、爆ぜよ、絶えよ…。我が力の前に灰燼に帰し、理に倣いて終末の爆炎を今こそ解き放たん!焼き尽くせ!『ブレイズバースト』!!!」
放たれた極大な炎はドラゴンに命中し、空中で爆炎を幾度もまき散らし大気を揺らす。まるで世界そのものが悲鳴を上げているかのように。
魔法が直撃したドラゴンは黒焦げとなり、地面に落下した。
「みたことか!これこそ最強魔法の一つ、『爆炎魔法』!これで竜殺しの称号をいただいたのにゃ!」
『クロノマギア』を片手に挙げて。
私はドラゴンスレイヤー!と高らかに笑い、喜びに浸っているマオを微笑ましく見る。
これで一件落着かに思えた。
「…おいおい、勝手に殺してんじゃねーよ」
倒したはずのドラゴンの方から声がした。
まさかそんなわけがない、最強魔法だぞ?
黒焦げのドラゴンは煙を上げて姿が見えなくなる。
そこから現れたのは人…。に、一瞬見えたが。
真っ赤な短髪に自身の鱗を鎧に変えて、ドラゴンの特徴である角と尻尾が露出していることから察するに。
マオの最強魔法をこのドラゴンは耐え抜いたのだ。
「あー。マジで死ぬかと思ったわ。さすがにあのままだったらご臨終様様だったわ」
危ない危ないと。小言をいいつつ俺たちの方へ歩み寄る。
「な、なんで?!最強魔法は直撃したはずだにゃ!」
マオは納得がいかないとドラゴンに問い詰める。
「もちろん直撃したぜ。いくら魔法の耐性があっても普通の同類なら一発で死んでるなー。だが俺には加護がある…『守り手の加護』ってやつがな」
光る八重歯を向けてニヤリと言った。
「守り手の加護…それってなんだ?」
俺の疑問にクリスが答える。
「守り手の加護。それはあらゆる攻撃から身を守る加護よ。人間でいうスキルと似たようなものね。この加護のおかげで、そこのトカゲはあらゆる攻撃を受けても死ぬことがないのよ」
「それって、不死身。ってことか?」
「そうそう。俺に敵意を向けたものすべて無効化する。スゲーだろ?」
ドヤ顔で自分のすごさをひけらかすドラゴンに少し呆れていると。
「でも、守り手の加護は万能じゃないわ。例えばね」
クリスは自前のフォークをドラゴンの腹部に突き刺す。
「い、痛ってえええ!!!」
「このように。まったく害意のない行動については、防いでくれないのよ」
何事もなかったかのようにサラッとやってのけたこの天使が一番危ないと思った。
というか、なんでそんなこと知ってるんだ?
「なにすんだあああ!!!このクソ天使!!!」
怒りを露わにするドラゴンは、クリスへ怒鳴りつけた。無理もない。
「うっさいわね。トカゲのくせに生意気よ。あたしが真面目に攻撃しなかったんだから無事に生きてるのよ?頭を地面に擦り付けて感謝なさい!」
ドラゴンが相手だというのに、この天使は上からすごい物言いだな。
「んだとコラ!!!その羽引き千切って、丸焼きにして食ってやろうかぁ!」
ドラゴンの方も負けず劣らずの切り返しだな。
「やれるもんならやってみなさいよ!硬いだけでマズそうな見た目しちゃって、そんなあんたには解剖されるのがお似合いだわ!」
ギャーギャーギャーギャーと。
二人のろくでもない会話を聞き続ける。
「そこまで!!!」
これ以上は見ていられなかった俺は間に割り込む。
「いいか?戦いも終わったんだからさっさと帰るぞ。邪魔したなドラゴン。また機会があれば会おう」
荷物を背負って早々に立ち去ろうとするが・・・。
「・・・なあ、どうしてついてくるんだ?」
ドラゴンがなぜか後をついてくる。まだクリスを根に持っているのだろうか?
「気に入ったぜお前!俺はお前についていくことにした!」
「はぁ!?なんで?」
なんで俺を気に入ったのか。それだけにしてもついてくる理由がわからない。
「なんでって、俺を倒したのがお前だから」
当たり前だろ?という顔でこっちをみてくる。
「いや...。俺はお前を直接倒してないし。やったのマオだし」
隣でマオが大きい胸を張って自信満々にしている。
「そこの猫に最後やられたのは事実だが。それまでの攻撃はお前が仕組んでたんだろ?全部わかってるんだぜ」
どうやらドラゴンは無数に張っていたスキルによる罠を見破っていたらしい。
見る目は確かのようだな。
「そうか。だが俺はお前をパーティーに入れるつもりはない。悪いが他をあたってくれ」
クリスとのやり取りを見て確信した。間違いなくこいつもパーティーに大きな影響を与えかねない...。もちろん悪い意味で。
「なぁ、いいだろ?ここにいても暇だからさー。お前と一緒にいた方が絶対楽しいと思うんだよな。それに俺と一緒にいれば変な奴は寄り付かなくなるぜー」
クリスを見てニヤリと笑うドラゴンに、今すぐ掴みかかろうとしている彼女を止める。
「わかった!じゃあ、お前をテストするからそれでクリアしたら仲間にする。これなら満足だろ?」
公平なテストを設けて落ちてくれれば、文句はないだろう。
「いいぜ!お前のテストってやつ無事に合格してやろうじゃねーの」
その言葉に乗っかるドラゴンは嬉しそうについてきた。
「そうだ!俺の名は『レグルス』!レグでいい。お前は?!」
「…ロイセーレン。ロイでいい。とにかくテストを終えるまでの間は、迷惑だけはかけないでくれよ」
「おう!わかったぜ、ロイ!」
こうしてドラゴンのレグとともに、一旦ギルドに帰ることになった。
・・・・・・・・・・
「あの~。ロイくん、この方はいったい?」
アミさんが恐る恐るレグの方を見つめると。
レグは鋭い目つきで睨んでいる。
「おい、レグ。お前の顔が怖くてアミさんが怖がっているぞ。もう少し肩の力を抜け」
「つってもよ。テストするんだろ?緊張ってのは誰だってするだろ?」
ドラゴンも緊張するんだな。という、いらない情報を覚えてしまった。
俺はレグをテストするために、一つのクエストをこなしてもらうことにした。
そのためにギルドへ登録してもらっているところだ。
レグ自身も俺たちではなく、違うパーティーからスカウトされるかもしれないし。彼にとっても悪い話ではないと思った。
テストはモンスターの討伐クエスト。失敗すればもちろん話はなかったことにする。
厳しいようだが、俺としてはレグをパーティーへ入れるつもりはないからだ。
理由は言うまでもあるまい。
「…は、はい。登録完了しました。レグルスさんですね。種族は...
アミさんが慌てて声を上げて、オロオロしている。こんなアミさんは見たことない。周囲の冒険者もその言葉を聞いて隅っこの方へ行って隠れている。
「ちょっとした出来心だ。気にするな」
それにしてもさっきから妙に気品のある所作をしているな。
ドラゴンってみんなこうなのだろうか?
「どうだロイ!聞いたか?俺の種族!」
嬉しそうに小声で話すレグ。
なるほど。自分の種族名がすごいから変な奴は寄り付かない。そういう意味ね。
「ああ、知ってたよ。なんとなくそう思ったからな」
鑑定の件はギルドに伝えていないので言葉を濁して知っていたと伝える。
「そっかー、やっぱ俺の溢れ出る高貴なオーラでわかっちまうか」
ツッコまずにギルドの手続きを進めようとしていると。
「へっ、トカゲ臭の間違いでしょ」
クリスがいらんくぎを刺す。
するとレグが襲い掛かろうとしていたので慌てて止める。
「迷惑はかけない!これを守れないならパーティー入りはなしだぞ!」
「ぐっ…。あの天使、覚えてろよー」
ほんと一触即発だ。絶対仲間に入れたくない。
「で、ではこれでいつでも冒険者として活動ができます。ギルドの説明はロイくんがいますから、彼に聞いてください。それでは良い冒険者ライフを!」
アミさんは逃げるように受付の奥へ去っていった。
彼女があそこまで恐れるとは、
これ以上の騒ぎにならないために、俺とレグは街の中央から離れた鉄塔へ移動する。クリスとマオにはあとでギルドへ戻ることを伝えた。
「おっし!じゃあさっそくクエストだ!」
ノリノリのレグは今すぐ行こうとしているが。
「テストは明日だ。今日は互いに消耗しているだろ?ゆっくり休んで朝一番から始める」
ということにしておく。本当は今すぐにでも帰ってもらいたいが自分で蒔いた種なので仕方ない。
「なんだそれー?俺は一分一秒でも早く終えたいってのに!」
待ちきれないとレグは興奮しているが。
「迷惑はかけない。それまではいうことを聞いてくれ。守れなかったらわかってるだろ?」
加入条件を突き付けてレグを制止させる。
朝一番には北門に集合するように伝えた。
「仕方ねえかー。…明日の朝一だな!顔洗って待ってろよ!」
そういって、元のドラゴンに変身したレグは。
縄張りへ帰っていく。
夕暮れが彼の鱗に反射し、まるで二つも太陽が並んでいるかのように思え、空が真っ赤に輝いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます