第28話 ランクアップ

魔王軍幹部、デュラハンとの一戦を越えてから。二日ほど経過した。


勇者によると魔王軍は新たに攻めてくるという話だ。


フィオネストの街を守るために、結界を何重にも張って守りを固めることで守りは万全とし、進行してきた場合の速やかな住人の避難と、魔王軍を討ち果たすために名だたる精鋭たちの応援を要請した。


すべて揃えた上で魔王軍を待ち構えるという結論に至ったそうだ。


あれもこれも勇者が全て話してくれた。


というのも、この戦いに俺も参戦してほしいと本人から言われて承諾したので、情報の共有のためにという話らしい。


ギルドの掲示板にも魔王軍侵攻の場合の特別クエストを募集していた。


報酬が破格のこともあり、募集が殺到した。実力のあるものは魔王軍撃退のために編成され、力不足と見込まれた者は、住人の避難確保や様々な補佐をするようにと役割分担を設けている。


街中の皆で力を合わせてこの危機を乗り越えようと準備を着々と進めていた。


勇者にはきっと人を引き寄せて導くカリスマ性があるのかもしれない。


また彼の仲間たちも人望が厚く街では有名人として扱われていた。


最近の彼らは魔王軍たちに関係のある魔族討伐のクエストを受け続けている。


少しは力になれるかもと、勇者に協力しようとしたが。


「あなたはいらないから引っ込んでて」


エレンに冷たく突き放されてしまった。


俺では役不足と判断されたらしい。

それ以降も勇者となにかと話そうとするが、彼女に反発されて、今じゃ挨拶する程度。


俺は彼女に何かしただろうか?

勇者からは多めに見てやってほしいと言われている手前、無下にはできないし。


今は距離をとっておくべきなのだろう。


それに俺たちもこのままではいられない。


俺自身もパーティーとしても最強になるためには、彼らを越えなくてはならない。

そのために、より強大なモンスターを倒せるようにならないと。


今日のクエストを無事に終えてギルドの扉を開けると。


「おかえりなさい、ロイくん。今日もクエストお疲れさまでした」


アミさんが、ギルドの扉の前で待っていた。

いつもは受付にいるのにどうしたのだろうか?


というか。このやり取りはまるで家に帰ってきた夫婦ではないか?!

・・・落ち着け落ち着け。俺にはフレアがいるんだ、正気に戻れ...。


「ただいま帰りました、アミさん。珍しいですねここで待ってるなんて、何かあったんですか?」


「はい。ただ、ここでは人も多いのでギルドの談話室で話しましょう」


二人きりで話だと?

なんだろう何かやらかしたか?


またクリスとマオが迷惑かけた分の説教を受けるのか?

思い当たることが山のようにありすぎて、頭がパンクしていた。


クリスとマオには食堂のテーブルで座ってるように言い。

アミさんと談話室に入る。


「…それでなんでしょう?話というのは」


何事もありませんように!

心から本気で願った。


「はい。それではお話ししますね...」


急に黙ってしまったアミさんの様子に戸惑いつつも悟られないようグッと押し殺し、固唾を飲んで待った。


「ロイくん...。あなたのランクが昇格しました!おめでとうございます!」


出てきた言葉はどうやら朗報だけみたいだ。

ほっと胸をなでおろし、嬉しさを噛みしめる。これも一歩前進だな。


「ありがとうございます!ようやくEから上がれるんですね」


「はい!本当はもっと早くランクを上げたかったのですが、なにぶん問題が山積みでしたからね…」


それって、魔王軍のこととかで忙しかったということだよな?

俺のパーティーが足かせになってないよな?


「では、こちらがロイくんが昇格するランクです」


一枚の紙を手渡されて、中身を見ると大きく『B』と書かれていた。


「え?!Bランクですか?俺まだCランクモンスターしか倒したことないですよ?」


冒険者の間でもEからBに上がったというのは聞いたことがない。


「はい。私たちは初め、当初のDランクにするつもりでした…。しかし、勇者様との決闘でみせたロイくんが私たちの想定した実力よりも大きく違っていたと分かったのです!」


あの決闘が影響していたのか。勇者は本気を出していないだろうけど、見ている側からすれば実力差がないように見えていたのかもな。


「ギルドで厳重に審査させていただき、冒険者初のEからBへの昇格を認めました。これはすごいことですよ!自分を誇ってくださいロイ君!」


手を叩いて祝してくれるアミさんに、照れくさいとは思いつつも感謝の言葉を述べる。

ここへ来てから自分のことで人から目に見える形で認められたのは初めてだ。


これまでを振り返ると想像していなかったことばかりだ。

改めて周りの人たちに助けられているんだと自覚した。


「ありがとうございます!ここまでこれたのはみんなの協力とアミさんのおかげです」


「ふふ、ありがとうロイくん。お世辞でも嬉しいわ」


「本気で感謝してます!アミさんの協力なしではギルドでやってこれたかわからなかったですから!」


真剣であることを伝えると、アミさんは照れて「ありがとう」という。


「では、改めてBランク昇格おめでとうございます、ロイくん!ギルド職員を代表して今後の活躍を期待しています!」


「はい!俺ももっと強くなって、すぐにAランクに上がってみせますから。見ていてください!」


アミさんに宣言した俺は、迷いなくAランクに上がれるという確信があった。


「わかりました。…では、さっそくですが明日行っていただきたいクエストがあります」


唐突にクエストの内容を伝えるアミさんはやはりやり手だなと改めて思う。


渡されたクエストの内容は、北東の方角にある山岳地帯『アトラミス』でしか取ることができない『ミスリル』を採取すること。


ミスリルとは硬すぎず柔らかすぎない、灰色寄りな透明に輝く、魔力が込められた鉱石のことだ。


この鉱石は鍛治師次第で魔法の属性を変えることができる。付与魔法を用いずとも、加工して武器や防具にするだけで魔法の行使が可能になるのだ。


それも少量で良いため、腕の立つ鍛治師であれば望む性能の魔法に打ってくれるので、高額でも頼みたい冒険者が多いと聞く。


「ミスリルの採取ですか…。数量は1000ガラン。やけに多いですね」


ガランというのは重さの単位だ。

1ガランあたり銅貨1枚。

日本語だと10グラムと同じ。

なんでそれがわかるのかは思い出せない。


「Bランクに昇格した冒険者の方には必ず受けてもらってるんです。それと魔王軍が攻めてくると聞いていますから腕の良い鍛治師にお願いして武器を量産してもらうためですね」


なるほど、理にかなっている。

確かに武器がどれだけ不足するかもわからない以上はできるだけ備えておきたいのだ。


「それにこの時期ならミスリルの量は少なくはないはずなので、無事に依頼達成を目指してくださいね!」


ミスリルは、時期によって採取量が変わる。気候が均一な時期は安定して取れると聞いていた。確かにこの時期にあっているな。


「わかりました!初のBランククエスト、無事に終えてきます!」


「では、お願いします」とアミさんに見送られながら俺は部屋を後にする。


異例のBランク昇格とは。

自分で言うのもなんだがかなり大きなことだろう。段々と英雄に近づいているようで、高揚感に包まれる。


今日は祝いに一杯でもやるかな!


クリスとマオにランクが上がったことを伝えると。


「おめでとうなのにゃ!これでもっと強いモンスターと戦えるのにゃ!」


マオはより強いモンスターと戦えることに喜んでいる。予想通りだな。


「よかったじゃないの、おめでとう。これで上のクエストも受けられるわね」


あれ?絶対に否定か嫌味を垂らすと思っていたクリスが素直に祝ってくれた。

なんか釈然としないな。


「どうしたクリス?いつものお前らしくないな。最近はやけに素直じゃないか」


魔王軍が現れてからクリスの様子がおかしかった。これまでの奇行の波が下がっただけだと考えていたのだか、どうやら違うらしい。


クエストでも素直に指示を聞いてくれたことも、ただの気の迷いと考えていたんだがな。


「あのねぇ、あたしはいつだって自分に素直なのよ。仲間のおめでたは嬉しいに決まってるわ」


そんなにまっすぐ言われると、こそ疾いな。


「そうか、それはすまん。それとありがとうな。だけど最近のお前は様子がおかしいぞ。何かあったのか?」


隠すこともないだろうから、素直に聞いてみた。


「それは…。ごめん今は言えない。でもそのうち話すから待っててくれる?」


憂な表情を浮かべるクリス。


ホントいつもの調子はどこへ行ったんだ?

マオもあまりに豹変したクリス相手に、どう接するか戸惑っていた。


「それなら無理には聞かないさ。クリスが話したい時になったらしてくれ。それと、明日のクエストについてなんだが…」


明日のクエストについて二人に説明する。


「ミスリル…。あまり採掘は得意じゃないのにゃ…」


「大丈夫よ。ミスリルなんて、アトラミスへ行けばその辺に転がってるわ」


心配するマオをクリスがあやしている。

いつもは立場が逆なのに…。


「採掘は俺がやっておくから二人は護衛頼むぞ。今日は祝いを兼ねて美味いもんをたらふく食べるぞ!」


「やったにゃ!腹一杯にして明日に備えるにゃ!」


「わかったわ!それなら久々に飲み明かしてあげようじゃない!」


マオはキラキラした目で、近くのウエイターを呼び出してメニューの端から端まで注文する。クリスは調子を戻して、いい酒を片っ端から注文した。


二人と今日は食べて飲みまくり、明日のクエスト達成のために祝いあった。



・・・・・・・・・


「…さてと、見えてきたな。アトラミス」


俺たちは支度を済ませて、朝一番に馬車を借りてクエストの目的地へ向かっていた。


山頂には雪が積もり、麓までは緑一色で、森の山林が生い茂っているのがわかる。


近づけば近づくほど山の大きさに圧倒されていた。

肝心のミスリルは、麓を登り丘陵に入る手前にある洞穴で採取することができる。


馬車で麓近くへ下ろしてもらい。

そこからは徒歩で向かう。


見えてきたのは入り口前に水滴が滴り中から冷気が吹いてくる洞窟。


間違いなくここが入り口だろう。

俺たちは冬用の羽織りを着てゆっくりと探す。


中は水のように透き通り、差し込む日の光が反射して幻想的な美しさを輝かせている。

この場所は人を惹きつける何か不思議な力を感じた。


「…さてこの辺りか」


鑑定を使って隈なく調べていると、さっそくミスリルを発見した。


洞窟の岩を切り出して、丁寧にミスリルを採取する。

その間はクラスとマオが護衛のために周囲を警戒する。


ゴゴゴゴゴ!!!


洞窟の岩肌から出てきたのは『ガンロック』というモンスターだ。

このモンスターは擬態のために近くにある岩に姿を似せる習性がある。


そのおかげでミスリルのあるこの洞窟に影響を受けたガンロックたちは複数の魔法を使えるようになったらしい。


ガンロックの中級土魔法『ロックアロー』を繰り出す。小石ほどの岩が連続で飛ばしてきた。


クリスが盾となり、全ての攻撃を防ぎ切る。


「…今よ!」


「…いっくのにゃ!」


ガガガガガ!!!


マオがクリスの合図で中級氷魔法『フリーズ』と同じ効果を持った爆弾を放り込み。


ロックガンを凍結させて倒すことができた。


「やった!成功だにゃ!」


「うんうん、上出来ね!あたしの完璧な指示のおかげよね!」


マオの魔法を使えば洞窟が崩壊してしまう。

そうならないために魔道具を使った戦闘を教えていた。


二人も最初の頃よりもずっと仲良くなったなとリーダーとして嬉しさを噛み締める。


初めはどうなるかと思ったが、意外となんとかなってるなと個人的には思っている。


マオは魔道具の扱いもようやく慣れてきたし、実践でも使える機会が多くなれば。最強パーティーになるという目標に近づく。


順調だなと一人で考えていると。

あっという間にミスリルを目的の数以上の量を採取していた。

本当にこんなにあったんだな。

余った分は自分たちの分として持ち帰るとしよう。


さて、そろそろ切り上げるとするか…。


「おーい!こっちは終わったぞ!そろそろ帰るかー!」


二人に大声で呼びかける。


「ロイー!洞窟の上の方になんかいるんですけどー!」


上?

見上げると確かにそこには何かがいる。

暗くてよく見えないが、かなり大きい。


「あれってなんだかわかるかー!?」


「ちょっと待ってなさいよー!」


鎧を脱いだクリスは翼を広げて飛行する。

しばらく待っていると。


キャーーー!!!


何事だ!?

クリスの大声が聞こえたと思ったら、勢いよく俺の上に落下してきた。


「いったたた…。何があった、クリス?」


クリスを全身で受け止めたまま、状況を確認する。


「ロイ!出たわよ!」


「何が?」


「…ドラゴンが!」


その直後。

ドシン!!!という振動が伝わり、その巨大な体躯が下に降りてきた。


姿を見せたそれは。

真紅に輝く巨大な鱗を身体中に巡らせ、蝙蝠のような翼を大きく広げはためかせ、見るものを逃さない黄金の瞳でこちらを睨む。


グオオオオオ!!!!!


洞窟に響き渡り続けるデカい咆哮。

唸る声、漆黒の爪と角が光る。


「…お前たち、俺の縄張りでいったい何をしている?」


心臓を掴まされたように錯覚させる、低いドスの効いた声で問うのは。


怒りを露わにして、口から火を吹いて脅す。

史上最強のモンスターといわれるドラゴンであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る