第27話 魔法軍幹部襲来

北門へ出ると禍々しい魔力を垂れ流すアンデットの軍勢が整列して待機していた。

その先頭には魔王軍幹部と思われる魔族が待ち構えていた。


「我が名はデュラハン。…勇者リオンを引き渡してもらおうか」


首無し騎士の異名を持つ、アンデッドモンスター。

膨大な魔力量に物理攻撃がほぼ無効な相手。魔法での攻撃が有効だろう。


奴は勇者の引き渡しを要求している。

勇者リオンは自ら前に出て話に応じる。


「俺が勇者リオンだ!魔王軍幹部のデュラハン!いったいなんのようだ?!」


勇者は警戒を強めてデュラハンに近寄る。


「ふ、貴様が勇者リオンか。まだ青二才ではないか…まあいい。我らと共に魔法城へ来てもらおうか。魔王様がお前を呼んでいる」


魔王から直々に呼び出しがあるとデュラハンは言うが、勇者は罠である可能性を考えた。


「断る!お前たちのところへ行ってもロクなことなどない!」


きっぱりと断る勇者。するとデュラハンは高らかに笑い出した。


「フハハハハ!勇者よ!そんなに自分の安全の方が大事か?!

お前が来れば魔族側は人間に手出しはしないんだぞ?以前から言ってるではないか」


デュラハンが勇者の説得を続ける。

どうやら魔族側は勇者と既に接触していたような口ぶりだ。


「…お前たちがしてきた数々の悪事を俺は見て知っている…。極悪非道なお前たちに屈すれば、人々の希望を失くしてしまう…!それだけは許されない!

俺はお前たちを滅ぼすまで、この身尽きるまで抗うぞ!」


勇者は、闘志をむき出しにして戦い抜くと宣言する。

もはや交渉の余地なしと判断したデュラハンは指を指して言う。


「…では、勇者よ。お前という存在を生かしておくわけにはいかない。残念だが消えてくれ…」


指を鳴らしたデュラハンにより、後方にいたアンデットの軍勢が攻めてきた。


「せいぜい興じさせてくれよ。勇者リオン」


勇者はエレンの上級回復魔法で全快し、ソフィの魔導によりステータスを限界まで上昇させ戦闘の準備を進める。


ゴードンから二本の鞘に入った剣を受け取る。

一方は、聖魔法に満たされた純白な剣、もう一方は闇魔法が溢れる漆黒の剣。

どうやらあれが本来の勇者の武器みたいだ。


ノールドからは対アンデッド用の魔法を付与してもらい万全の状態になった。


「みんな!アンデットの軍勢を切り開いたら残党を任せる!俺はデュラハンを倒す!」


そう言い残して、猛烈な勢いでアンデットの軍勢めがけて突っ走る。


「闘志に導火せし燃え盛る炎よ…。正を為す我が力に呼応し、眼前迫る亡霊を焼き払え——!聖火炎ホーリーファイア!!!」


グエェェェェェ!!!!!


聖なる炎が焼き尽くし。

アンデットの軍勢が半数近く消滅した。


「デュラハン!!!!!」


勇者の剣とデュラハンの剣が交差し激しい鍔迫り合いが起きる。

その圧力は大気を揺るがし、衝撃が肌に伝わってくる。


やはり決闘時の勇者は、まだ本気を出していなかったのだ。


「やるではないか。さすがは勇者と言ったところか…」


空気が張り付き彼らの中で緊張が走る。


「しかし、まだ本気ではないだろう?もっとお前の力を見せろ!そして楽しませろ!」


「生憎だがお前と楽しむつもりはない!」


互いの剣撃が一瞬の隙もないほど拮抗していた。


デュラハンの後ろに控えていたアンデットの軍勢はフィオネストの街へ侵攻しようとしている。


「ア、アンデットが攻めてきたぞ!」


一緒にいる冒険者の一人が騒ぎ始めて、街の中に逃走してしまった。

それを見た他の冒険者たちも慌てて街へ引き返す。残ったのは勇者パーティーと俺たちのパーティーと他の腕の立つ冒険者が数名。


おそらく1000体はいるであろうこの軍勢を相手にするには、人が少なすぎる。


「あら、あなたは逃げなかったのね?」


勇者の仲間であるエレンが嫌味のように話しかけてきた。


「ここで逃げたら、街が大変なことになる。それは英雄になる人間として見過ごせない」


「あなた英雄になりたいの?そんな夢物語を現実と混同しないでくれる?足手纏いだから」


エレンは俺を切り捨てるように言うと、進行するアンデットの大群を相手に前へ出る。


「何する気だ?」


「決まってるでしょ。この雑魚を蹴散らすのよ」


この大群を相手に顔色ひとつ変えず。

エレンは雑魚と言い切った。


彼女の後ろへ続くように勇者パーティーが前へ出る。


「ここは俺たちに任せろ!漢らしい姿を見てるがいい!」


「はぁ〜。めんどくさいけど、やらなきゃよね〜」


「久々の実践だな。準備運動にはちょうどいいな」


大重戦士だいじゅうせんしのゴードン、大魔導師アークキャスターソフィ、大賢者だいけんじゃノールド、そして大神官アークビショップエレン。彼女たちの実力がここで見れるのか…。


お手並み拝見だな。


「リオンだけが強いわけじゃないってことを教えてあげる!私たちでこいつらを倒すよ!」


エレンの指示のもと、ゴードンがアンデットへ特攻する。


「うおおおおお!!!魔装展開まそうてんかい、『ホーリーアーマー』!!!」


ゴードンの鎧が聖魔法の付与された防具へと変形する。

彼はアンデットを大盾で攻撃を防ぎつつ、大剣で薙ぎ払う。アンデットたちはそのまま消失した。あの大剣にも聖属性の魔法がかけられているみたいだ。


「まだまだ!!!」


ゴードンの猛攻が止まらない。

だが、すぐ後ろから雷炎が巻き上がる。

彼の防具が少し焦げた。


「ソフィ!攻撃する前に声くらいかけろ!当たってるんだよ!」


ゴードンはソフィに抗議するが。


「言ったわよ〜打つ直前に。あなたの声がデカいから聞き取れなかっただけよ〜」


ソフィは悪びれもせず、魔導を発動する。

アンデットは彼女の力で蹂躙されていた。


魔法と魔導の違いは魔力を直接行使するか否かだ。前者は直接魔力を扱うのに対して、魔導は魔導書を通して発動する。


魔導は膨大な魔導の知識と経験がないと扱えないため、途中で挫折するものが多い。だが魔力の消費が通常の半分だけで済むし、本来の適正でない魔法を魔導として使用ができる利点がある。


あのソフィとかいうお姉さんは見かけによらず、すごい人なのだと知った。


「ワシも負けてられんな。安らかに逝かせてやるぞアンデットども」


無詠唱で上級聖魔法を行使するノールドは、次々とアンデットを浄化している。


賢者は世界中に数えるほどしかおらず、人々に知恵の象徴と言われている。魔法にも造詣が深く、全ての魔法適性を持ちながら無詠唱で扱える。


「じゃあ、あとは全部片付けるから」


曇る空が真っ二つに裂け天から大いなる光が降り注ぐ。


「『セイクリッドホライゾン』」


天から滝のように注がれる神々しい閃光は、残る軍勢のアンデットたちを消滅させた。


彼女が使ったのは最上位聖魔法。

マオ以外の冒険者で使いこなす者がいるとは知らなかった。


俺たちの出番はなく、全て勇者パーティーたちによって討伐された。


これが勇者パーティー…。


やはりAランクの実力は本物だ。恐らくこの街の冒険者たちでも彼女らと並ぶものはそう多くない。

もしかしたら魔王を本当に倒してしまうかもしれないと考えがよぎる。


「ふぅ。私たちの仕事は終わり。あとはリオンだけね」


エレンはそう言い残して、彼女らは勇者の勝利を待つ。


勇者とデュラハンの一騎打ちが続く。


「ふっ、やるな勇者リオン。我が力の一端を見せよう!暗黒星雲ダークマター!」


聖火炎ホーリーファイア!」


漆黒の黒靄を生成し草木を枯らす闇魔法と、

聖なる炎がぶつかる。

互いの魔法が交錯し衝突後に霧散した、


「フッ、魔法は互角か…。思ったよりも勇者とは大したことないようだな」


余裕の態度を見せるデュラハンは勇者を侮っている。


「…そうかい?そう見えたなら君の目は節穴だよ…。───『限界突破リミットブレイク。クォーター』!!!」


突如勇者の周囲に目に見えないはずの魔力が目視できるほど滾りだす。


圧倒的な存在感の前にデュラハンは圧されていた。


グッ!?グオオオオオオオオオ!!!!!


その瞬間、デュラハンの前に姿を見せた勇者は渾身の一撃で切りつける。

デュラハンは抵抗する間もなく、凄まじい勢いで吹っ飛ばされ野原に転げ回る。


「…な、なんだ今のは?!」


デュラハン自身も何が起きたのか理解していないようだ。


「お前に話すことはない!ここで倒す!」


ここで畳み掛けようと勇者は間合いを詰めていく。


「フッ、ハハハ!!!なるほどな、それがお前の隠し技という訳か。…いいだろう!相手になってやる!」


かけた言葉とは裏腹に、デュラハンは勇者の一方的な猛攻を受け続けていた。

地に伏すデュラハンに剣を向ける勇者。


「…どうしたデュラハン、この程度か?それならお前上司も大したことなさそうだ」


上から見下ろす勇者。

その力の前に、デュラハンはなす術がない。そんな風に思わせた。


「サタン様への侮辱は許さんが、ここは一度手を引いてやろう。お前とその仲間たちの実力は理解したからな…。近いうちに貴様らの街を攻め落とす!それまで覚悟しておくんだな!」


「待て!」


そう言い残してデュラハンは姿を消した。

勇者の一撃は宙で空回る。


「奴ら、近いうちに攻めてくると言っていたな」


魔族側への考えを巡らせていると。

戦いを見終えたエレンたちが彼の元へ集う。


「さすがリオン!まぁ負けるなんて思わないけど」


エレンが一番乗りにリオンの元へ着く。


「さっすが、俺たちのリーダーだな!リオン!」


「あなたたち暑苦しいわよ〜。でも、よくやったわねリオン」


「リオンよ、また腕が上がったか?頼もしいものだな」


彼のパーティー仲間はリオンを讃えている。

きっと勇者である彼の魅力もあるのだろう。


「ありがとうみんな。だが油断はできない。あのデュラハンたちはまた攻めてくると言っていた。恐らく次はより多くの軍隊や手練れた仲間を連れてくるだろう…だからこれからも力を貸してほしい!」


彼の言葉に仲間は応える。

それは信頼を超えた結束が彼らにはあったからだ。

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