出雲薫の恩寵

第17話 出雲薫の原罪

　今から私が語ることは、杞憂かもしれない。むしろ、私自身は杞憂であってほしいと思っている。

　しかし、可能性の一つとして、もしかすると誰でも当てはまってしまうかもしれないからこそ、語ろうと思う。

　私から見て、れもんから向けられていた薫くんへの目線は、基本的には大人の男性への目線だった。父だとか、お兄さんだとか、そういった存在に向けている視線だと言っていいだろう。

　しかし時折、れもんが薫くんのことをまるで異性のように見ていたような気がしたのだ。れもんは、男に惚れている女の顔をしている時があった気がするのだ。

　真偽はわからない。今のれもんと話していても、本当に薫くんのことが好きだったのか、それはわからない。もちろん直接尋ねようとも思わない。

　さて、実はれもんが薫くんに惚れているかどうかは、あまり重要じゃない。私が気になったのは、また別の問題だ。

　それは、「薫くんが、子供を助けることにありえないほど向いていないかもしれない」と言う問題だ。

　薫くんの持っている特徴は、本当に人を助けることに向いていない。いろいろ特徴はあるが、人を助けるに向いていない一番の特徴はその容姿だろう。

　彼の容姿は、女性はもちろん、男性すらも虜にしてしまうものだ。さらに、子供でも彼の虜になってしまう可能性だってある。

　薫くんはおそらく「子供だから、僕のことを恋愛的に好きになることはない」と考えているのだろう。彼の言動的に、きっとそうだ。でも、そんなことはないと私はお思っている。彼は自分自身の魅力を、低く見積もっている。

　それに、もし子供が薫くんの虜になったら、彼の彼女は苦しむかもしれない。嫉妬で。

　少しまとまりがない文章になってしまった。まあいい。

　とにかく、彼が子供に手を差し伸べることは、彼にとっても自分の首を絞めることになるかもしれないということだ。

　彼には直接言うことを避けたが、もしかするとそもそも、彼は「救われる側」の人間であり「救う側」の人間ではないのかもしれない。彼が過去を克服したとしても、救われきった人間だとしてもだ。

　だからこそ、彼が「誰かのためになるかもしれない」と残したあの手紙は素晴らしい。あの形式であれば、人を救いつつも、薫くん自身の首を絞める事も無い。あれさえあれば、薫くんは多くの人を救えるのかもしれない。彼は自覚していないのかもしれないけど。

　……。

　重ねて言うが、これは杞憂かもしれない。

　これを決して彼に伝える事も無い。

　だけど、一言。これだけはつぶやかせてほしい。

　すべての子供たちに、希望あらんことを。