3 孤独
「そういえばタケちゃんの家ってこのへんだったっけ?」
成人式に出席するため、東京から地元へ帰ってきた。
小学校で親友だったケンジと会場で再会し、式が終わってから散歩がてら小学校へ歩く途中、もう一人の親友の家があったことを思い出した。当時は3人でよく遊んだものだ。
「そういえばそうだ。会場じゃ会わなかったよな。サトル、何か聞いてる?」
「いや。俺も会場で会えると思ってた」
ここは地方都市といえるだけの大きさがある市だ。成人式の出席者もそれなりにいる。だが、同級生が2人、3人と顔をあわせれば自然と群がるものだ。出席していれば見つかりそうなものなのだが。
「来てなかったのかな?家まで行ってみるか?」
「そうすっか。どっちだったっけ?」
「郵便局の角曲がってさ……ほら、何軒か、ちょっと先行ったとこだろ?」
「あぁ、あぁ。そうだった」
「二人とも、来てくれてありがとうね。タケヒサも……きっと喜んでるわ……」
数年ぶりに会ったタケちゃんの母親に通されたのは、仏間だった。目の前には、今俺たちがあげた二本の線香と、高校生のときにとったらしいタケちゃんの遺影がある。
「おばさん。その……タケちゃんは……」
「……2年前にね……。私が、あの子の仕事が決まらないからって、責めすぎたのかしら……っ…………」
自殺だったそうだ。自分の部屋で首を吊っているのを、朝、おばさんが見つけたらしい。
タケちゃんの部屋に首を吊れる場所なんてあったかな。あったんだろうな。
「タケちゃん……」
ケンジが仏壇に呟く。
「悩みとかあったんならさ、相談してくれればよかったじゃねえの……」
「なんで自殺なんかするかなあ」
タケちゃんの家を出てからも、ケンジは納得いかない様子だった。
「俺たち小学校卒業してしばらくしてから会わなくなったけど……悩みくらい聞くのにさあ……」
「……そうだな」
隣を歩く旧友の言葉に少しいらだった。
お前はタケちゃんの家の場所もうろ覚えだったじゃねえか。今更何言ってんだよ。
そして自分にも腹が立った。俺だって近くを歩かなければ、タケちゃんのことなんて話題にもしなかったじゃねえか。
成人式で会った旧友とも、タケちゃんの話題は出なかった。彼らは既に知っていて話題にしなかったのだろうか。それとも単に話題にしなかったのか。それはもう忘れているってことじゃないか。
ああ、皆してこれだ。そりゃあ悩みなんて話すわけがないよな。ごめん、ごめんな、タケちゃん。
1000字短編集 藻草睡蓮 @mogusasl
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