2 指導者

 ラジオの国営放送が戦闘の終結を宣言した。ついに我が国の革命が成功したのだ。

 2年前は山岳地帯の一部を実効支配するに過ぎなかった革命軍は、当時まだ23歳だった指導者の下で少しずつ勢力を拡大していった。旧政府の腐敗もあり、革命軍は次第に多くの国民の支持を獲得していった。長きに渡る武力闘争の結果、見事に旧政府を打倒し、新政権樹立に至ったのだ。

 ラジオは新政権の方針を語っていく。まず各省庁の長官だが、その大半は革命軍から選ばれるそうだ。あの指導者と苦楽を共にした愛国心あふれる人々だ。これほど信頼の置ける人材はない。

 次に旧政府関係者に対しては、懲役刑や不当に溜め込まれた私有財産の没収といった厳罰で対応するそうだ。没収された財産は後に国民の利益になるよう還元するらしい。

 最後に、革命軍の指導者は終身大統領として新政府を率いることが発表された。彼は貧しい農村の生まれでありながら、国を思い、若き日から革命運動に身を投じた人物だ。我が国が農業国であることもあり、農村出身であることに親近感を持つ人も多い。終身大統領となるという発表は当然のことにすら思える。


 それにしても、前大統領の政治は酷いものだった。政府の経済政策は極度の物価高を止めることができず、産業も発展しなかった。しかも重税続きで国民の不満は増す一方だった。新政府の下これからの我が国の発展を期待するばかりだ。

 新政府万歳!新たなる指導者万歳!




 電車の中でネットニュースを見ていたら、某国で革命が成功し、新政権が樹立したという記事があった。

 3年ほど前に何となくネットで調べたことがあったが、前の指導者は相当な悪政を敷いていたそうだ。彼は各省庁の長官を親族で固めて権力を集中させていた。そして自分の政策に反対する者は財産を没収し投獄、処刑していたのだ。確か没収した財産を大統領府の地下に貯め込んでいる……なんて噂もあったか。

 そのような政策を行っていたのも、彼の出自によるものかもしれない。前の指導者は若くして内戦のために徴兵されていて、政治や経済どころか、先進国ならば義務教育で学ぶようなことも十分に学べていなかったのだ。しかも、彼の故郷が貧しかったこともあり、一度得た権力を二度と手放さずに済むように、と考えてあのような圧政を敷いていたのだろう。

 新しい指導者がどのような人物かは記事に書いていない。以前より酷い指導者でなければいいな、と他人事ながら思った。

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