FILE43:暴れウォシュレット
姫路 りしゅう
FILE43
――――真っ白な球体だった。
暴れウォシュレット。
突然変異した殺人ウォシュレットである。
暴れウォシュレットにはいくつかのルールがある。
ルール1
暴れウォシュレットは視界に入った生命に対して、視界に入ってから0.2秒で即死の猛毒液を噴射する。
ルール2
暴れウォシュレットは0.2秒以内に眼球を見つけると、優先的にそこを狙う。
ルール3
暴れウォシュレットに死角はない。無機物の物体で遮らない限り、無限の射程の猛毒液を噴射し続ける
「気を付けてね、ケンジくん。暴れウォシュレットは尻穴じゃなく、目を狙うわ」
三井指令の声が頭を過る。美人で聡明な三井指令になんてことを言わせるんだ、と健司は憤慨した。
健司や三井の所属する
健司と後輩の
「彰はここで待ってろ」
健司はトイレの入り口に彰を残し、勢いよく扉を開ける。
――――真っ白な球体だった。
ヴヴ……と小さな機械音が鳴った瞬間、健司の瞳は球体のど真ん中を捉える。目が合った。
すなわち0.2秒後に必死の猛毒液が健司の目に向かって放たれる――――!
通常人間は、目で見てから脳が指令を出し、体を動かすまでに0.2秒かかると言われている。コンマ1秒の隙も許されない。
全身全霊で集中をしている健司は、球体のど真ん中に穴が開き、そこから勢いよく透明な液体が噴き出る瞬間を目で捉え――――
脱力――――!
瞬時に膝の力を限界まで抜くことで、体の位置を下げて猛毒液を回避した。古武道からあらゆるスポーツに広まった脱力方法、膝抜きだ。カクン、と体勢を下げて直線的な猛毒液を回避。直後に上半身から抜けてきた全エネルギーを右足に送り、地面を蹴る! これで垂れてくる雫もケアし、健司は猛毒液を完全に回避することに成功した。
そして、ルール4。
暴れウォシュレットは、一度猛毒液を噴射したあと、4秒間のリロードが入る――――!
「うらあ!」
健司は左足で暴れウォシュレットを蹴り上げた。ウィイ……ン、と微かなモーター音と共に球体が飛んでいき、天井で跳ね返って地面に落ちる。
「今ッッ!」
健司は腰につけていた鉄製の箱を取り出し、暴れウォシュレットに被せにかかる。
今にも被せようとし
た
そ
の
刹那。
瞬間!
ヴヴ……と機械音が鳴り、暴れウォシュレットの噴射孔が開いた。
――――あ、まずった。間に合わなかった!
健司はほとんど四つん這いに近い体勢だ。これでは先ほどやったような膝抜きができず、その眼球に猛毒液が飛び込んで――――
――――――――――――視界が真っ白になった。
「くっ、なんだ!」
「先輩! 無事ですか」
それは、後輩である彰の声。認識できたということは、俺はまだ生きている。どうして! 健司は思う。
視界はいまだに真っ白だ。
「――――閃光手榴弾です。これで対象Xの視界も奪われたはず!」
「助かった!」
だが。
暴れウォシュレットはすぐに視界を取り戻し、その目で健司を捉えるだろう。時間稼ぎにしかならない。
健司の視界が徐々に戻ってくる。
真っ白な球体が見える。その球体の真ん中には穴が開いていて、そこから猛毒液が噴出される。
死を覚悟したその時。
ヴヴ……機械音が鳴り、穴が閉じた。
そして直後に穴が再び開き、閉じた。
それを刹那の感覚で繰り返している。
「あっ」
健司と彰は同時に声をあげた。
もしかして、暴れウォシュレットの前に二体以上の生物が立ったのは初めてではないか?
それもそのはず、暴れウォシュレットは0.2秒で対象を殺す。この球体の前に複数の生物が立つ状況なんて、通常ない。
だから、暴れウォシュレットは初めての経験をしているのだ。
どちらを殺せばいいかわからない。
刹那の感覚で別の対象を見つけてしまうため、猛毒液を噴射できない!
「おい、彰。ぜってぇ~目を離すなよ」
「先輩こそ、一瞬でも目を切ったらその0.2秒でぼくに毒液が飛んでくるんですからね」
「だが、このまま近寄っていけば――――」
「ええ、暴れウォシュレットを捕獲できます!」
二人は慎重に暴れウォシュレットへとにじり寄り、鉄製の箱でそれを収納した。
「討伐完了!」
「お疲れ様です」
以降、暴れウォシュレットを観察する際は必ず二名以上で取り扱うよう注意喚起がなされたが、それでも時々暴れウォシュレットの猛毒液で死んでしまう研究員が出るらしい。
■暴れウォシュレット:収容完了。
FILE43:暴れウォシュレット 姫路 りしゅう @uselesstimegs
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