放課後のトランペット

青甘(あおあま)

第1音 突き抜ける音

「スーっ!」

誰もいない教室に音が響く


ダメだ

また音が出ない


「はあ、やっぱり僕には難しいのかな」

トランペットを始めて一か月、僕はいまだに音を出せずにいた


「おや、そこにいるのは新入部員の子だね」

吹奏楽部の先輩が入ってくる




「は、はい。練習してました」

「えらいね、今日は部活無いのに」




「もう入部して一か月もたつのにまだ音が出せてないの僕だけなので……」

ホントになんで音が出せないんだ

気が滅入る




「こら!そんな辛気臭い顔しないの。トランペットって音出すの難しいよね」

「…先輩、やったことないのになんでわかるんですか…」

先輩に言っても仕方ないのに僕の口からポロっと出る




「ふむ、随分心にきているようだね」

「もう放っておいてください」



「そうはいかないよ。ここは先輩として一つアドバイスしよう」

「アドバイス?」

「上下の唇を振動させることで音が出るから上下の唇の隙間から細く生きだすの。だからあんまり息を出しすぎなくてもいいよ。自然な感じで。ね?」

「分かりました」






「パー」

それはまだ小さくつたないが音がでた

「先輩、音出ました!!」

「よかったじゃん」


「…先ほどはあんなこと言ってしまいすいません」

「いいのいいいの。それよりもどうしてトランペットなの?金管楽器の中でも音を出すのが難しいのに」

「あこがれてたからです。中学生の頃、路上でトランペットの演奏を聴きました。その時演奏してた人はお世辞抜きにもうまいとはいえまえんでしたが、何というかすごく楽しみながら吹いてたんですよね。どうしてそんなに楽しみいながらふけるのか聞いてみたんですよ。そしたら『トランペットって音が突き抜ける感じしない?こう、なんも重圧がなくて飛んでいけるような。だから私は吹くときは自由に吹けるんだ。あとはね・・・・・伝えるの難しいな、実際に吹いてみてよ、そしたらわかると思うよ』って言われて。その時の僕は疲れ切っててすぐに話を聞いて帰りました。でも彼女の話がずっと耳に残ってて、、、だから高校生になったらトランペットを吹こうってきめたんですよ」



「吹いてみた感想はどう?楽しかった?」

「はい、すごく!!彼女の言ってことが少し分かった気がします」

「そう、よかった」




「先輩はどうしてユーフォニアムを始めたんですか?」

「私?さあどうしてでしょう」

むっ

「僕は教えたんですから先輩も教えてくださいよ」

「あ、せっかくふけるようになったんだから一緒に演奏しようよ」

先輩は話をはぐらかした




「いや、初めて音が出せるになったんですからなんもできませんよ」

「そう、でも音が出せなくても吹奏楽部で練習してる曲の指の動きは練習してたよね?」

「なっ、なんでで知ってるんですか!?」

「さあなんででしょう」

意地の悪い笑みを浮かべる



「でも絶対に下手ですよ」

「私は後輩くんと吹きたいだけだから。うまい下手は気にしないよ。これからうまくなればいいしね」


「はあ分かりましたよ」

「よおし、ならいくよ」

楽しみながら僕は吹く

音が出せたことの喜びをかみしめるように









放課後の夕日へ僕たちの音が突き抜けていく

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放課後のトランペット 青甘(あおあま) @seiama

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