絵本作家の振り返り

無頼 チャイ

落合 扇という絵本作家

『投げろトマト』のデビューと共に絵本作家となった俺は、落合おちあい おうぎと名乗りだした。

 絵本作家としての生を受け、同時に、デビュー作である『投げろトマト』を超える大作を書き出す使命を与えられた。

 だからか、俺は全国各地を転々としては、面白いネタはないかと名所や事件に足を踏み入れることが多く、そして、望んでるからこそ、怪奇現象に遭遇することがあった。


 覚えてるのは、知らぬ間に知らない駅にいた事。事の詳細は省くが、投げろトマトを超えるようなヒントを貰った気がした。

 怪奇現象に巻き込まれたからこそ、絵本を書くうえで大事な感情を揺さぶられた気がしたんだ。


 いや、ちょっと違う。


 忘れちゃいけない感情の渦に触れて、俺は、原点を振り返ったのかもしれない。

 人生とは消費。真っ白な絵に鉛筆を走らせる度、鉛筆の芯は欠け、砕け、時に折れる。尖った芯に戻すには、削るしかない。

 そうして時間が過ぎて、初めて絵が完成する。それを何度も繰り返し、一つの作品が出来上がる。

 何も消費せず作り上げるなんて不可能だ。例え描けなくたって、何か描こうと考える。その時気持ちが消費され、燃料になり、指先を動かしてる。

 詰まる所、消費なんだ。大事な初心エンジンを抱えて、俺は生きてる。


 そういえば、俺が出版社に原稿の打ち合わせをしてる時、友達ととある言葉の意味を追っていた。

 ここで言うとそいつと同じことになっちまうから、詳細は省く。が、あれはおっかねえと思ったよ。

 誰しも問題の答えを追ってると思う。俺は大作のヒントを求めて各地を歩き回ってるが、例えば、そう、分からない漢字が出た時、辞書を引くだろ? あるいは検索でも良い。答えが分かればそれで十分だし、分からなくても何とかなる。だがよ、そいつはどういう訳か、その言葉を追っていた。追っておって、ついには消えて、ある日ふと俺の前に現れた時、そいつは酷く変わってたよ。


 友情パンチで目が覚めたんだけど、そいつの狂気は今思い返しても震えるね。

 深淵を覗く時、深淵もまた覗いているだっけか? 思い知らされたよ。そして思ったよ。やっぱり人生とは消費だって。だってそうだろ。


 そんなことで人は狂えるんだぜ?


 俺たちは何かで削られて、形を変える。まるで鉛筆そのものだよ。

 そしてまた、俺も鉛筆なんだ。


 だからさ、俺が描く絵本が、喜びと感動で打ち震える、そんな狂った作品を書き上げてぇ。


 ま、落合 扇の話しとしてはここまでだ。


 だが忘れるなよ。


 俺が歩いた道は、全部大事な物語ってことを。

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