丸太のおうち

 好奇心旺盛な私たちは、見え隠れする不安にはお構いなしに、ずんずんと歩みを進める。私が左奥に見えた丸太のおうちを指差し、あそこから行こうと頷き合った。


 進むにつれどんどんと背が高くなる花たち、半ばかき分けるように踏みしめて、思っていたよりも幾分か苦労しながらそのお家へ辿り着いた。こうして目の前に立って至近距離から見てみると、案外おうちというよりもこれもまたお店の雰囲気に近いのではないか、と感じるような外観だ。そして扉やその周りにも、呼び鈴、ドアノッカーの類は見当たらない。


 よく見るとドアノブの辺りに小さく文字がある。

【押】。やっぱりお店でよく見かける表示だ。

 私たちは目を合わせた後、ぐっと扉を押した。


 目の前に広がったのは、眩しいほど明るい室内。

 そっと中に入り少し歩くとすぐ、面白いアクセサリーや変わった形の服が丁寧に並ぶ店内、セレクトショップが見えてきた。どうやら私たちが丸太のおうちだと思っていたここは、お店が数件入っている建物のようだ。


 ただでさえお店があるとは予想外だった上に、珍しい商品がいきなり目の前に現れ、私たちはすぐに興味津々で店内へと足を踏み入れ、商品を見始めた。

 少し大ぶりなアクセサリー、形の様々な帽子、あまり見かけないデザインの洋服。次から次へ魅力的な棚を移る。


 (ふと気付くと奥のレジスターの近くに腰掛ける店主さんがこちらを見ていた。足元が冷えるのか、赤いチェックのロングスカートの上からブランケットを掛けている。それなのに上半身は一枚Tシャツをさらっと着ているものだからその季節感に少し混乱するけれど、この人は上半身はあたたかくやっていけるのかなぁ、なんてぼーっと考えていると、ほのかな視線を感じ取ってしまったのか店主さんがこちらを見て、目が合ってしまった。僕が軽く会釈をすると、その人は微笑んで「いらっしゃいませ。綺麗な銀の髪だね」と褒めてくれた。せっかく良い店を発見できたのに、あいにく僕たちはお金を持っていなくて、何も買えずに店を出る。「また来たいね」と君は言った。僕もその気で、(また来ようね)と答えた。)

 

 その隣に並んでいたのは、本が沢山並ぶお店。いや、看板には図書館の文字が。勝手にお店だと思ったけれど、もしかしたらこの建物は図書館がメインなのかな?さっきの店の倍ほどある広い空間にびっしり本が置かれている様子を見て、そう思った。


 司書さんは一人。本棚に入れ直すのか、カゴいっぱいの本を抱えて、パタパタと忙しそうにしている。

 私たちは図書館も一通り回ってから、その丸太の建物をあとにした。

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ねずみの夢 森野みもり @morino_mimori

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