ねずみ
「…?」
(振り返り不思議そうな顔をする私は、なぜ目の前に居るのだろう。
そもそも僕に意思があるのがおかしい。僕は君にただ付随する意識のはずだ。どうして実体が分かれている?
見下ろすと足から伸びる靴。かざしてみると自分の手。)
《…え》
(いつもより少し色白の、少し形の違う人間の手。君を通り過ぎショーウィンドウに寄ると、その奥の暗さのおかげで鏡のように、知らない僕の顔が映った。
顔の中身はなんとなく自分に似ていて見やすくても、髪は緩やかなパーマのかかった焦げ茶色。何故か全身青のセットアップを身に付け、かっちりとした靴は黒く光る。身長と体重は私とほとんど変わらないらしい。)
「え、だ、誰?ですか」
(君は口を開くと明らかに怪しむ目で僕を見た。
僕は即座に名前を考えなければならない。)
《えっと、君の名前を反対から読んだ、それです!》
(なんだよそれ、と君も思うのは分かっているが、ますます不信そうな顔をするのはやめてほしい。
というかまずこの店がなんなのか気になるのに、なんでこのタイミングでこんな事になるかなぁ。
けれど幸い僕と私は思考回路が全く同じなわけで、とりあえず僕たちはこの店への好奇心を優先することにした。)
目の前に(正確には後ろから)突然現れた青いやつは、なぜか私と同じにおいがした。
私は安心感と少しの鬱陶しさのあるそいつと一緒に、今この店の扉の前にいる。
古いのか新築なのか分からない質感の扉は、ちょうどテーマパークの美術担当さんたちが塗った塗装のような具合で、好奇心をくすぐる。
意を決した私たちは、共にドアノブをひねり押した。
【ギ、ギイィ……、…】
心地の良い、重みのある音で扉が開くと、先程まで窓から見ていた暗闇とはうってかわってとても眩しい店内だった。草の生えた小道に、周りは花畑。ぽかぽかとあたたかな日差しが降っている。
やっぱり窓には細工があったのか。(細工ってなんのために?)
元気な芝生を店の奥へ歩いていくと、小花が多かった花畑はだんだん大きな花の花畑へと移り変わった。
私たちの大好きな花である、バラ、チューリップ、かすみ草、オオイヌノフグリが一本の太い茎から伸び、ちょうどそのまま綺麗なブーケにできそうだ。
もう少し右奥の方には地下へ伸びる階段、左奥には丸太でできたおうち。こんな理想的な空間が大学からの帰り道にあるのかと、わくわくと幸せが胸から広がった。
(風が吹き、違和感に気付いて振り向くと、僕には細長いしっぽがあった。)
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