第五話 有栖院聖華の友人
「私、聖ユリアーナ女学院の三年生。聖華様と同じクラスの
クラスメイト……?
確かに言われてみれば、こんな冴えない眼鏡娘がいた気がする。
政界の重要人物でも無ければ一々名前なぞ覚えていられないので、クラスメイトは一律“貴方”呼びで揃えていた。
それはともかく。
早速、正体がバレてしまった――。
「(ど……、どどどうするすっか、お嬢様!?)」
「(アンタが顔まで本物のそっくりに作ったのが悪いんじゃない!使えない奴隷ね)」
「(いや……、でも顔が別人なら、それはそれで怒るっすよね?)」
「(当たり前でしょ。打首獄門よ!)」
「(無茶苦茶っすよ……)」
笛水の目の前で、堂々と内緒話をする。
「(仕方ないわね……。一人分の戸籍くらなら、いっか……)」
「(良くないっすよ!――え!?消すんすか!!?露出癖がバレただけで社会的に抹消を!!!?)」
「(仕方ないじゃない、有栖院財閥史上最大のスキャンダルを揉み消すのが最優先よ)」
「……あ、あのぉー」
笛水は申し訳なさそうに挙手をした。
まさか、この私を脅すつもり――?
「え、な……何かしら!?」
ここで取り乱しては思う壺だ。
冷静に対処する。
「……今日の事なら私、誰にも言いませんよ?」
「あら……、そうなの?」
予想に反した答えに思わず疑問符を付けてしまう。
見るからに事なかれ主義っぽいが、庶民にしてはなんと無欲なのだろう――。
私だったら、一生服従くらいは要求する。
まぁ、公言しないと自ら申し出るのなら、こちらとしても都合は良いが――。
「……そ、その代わり」
前言撤回。やはり庶民は庶民みたいだ。
「――私と友達になってくれませんか!?」
ん――?
とも……、だち……ですって――!?
「下僕、下僕。この子は今何といったのかしら?」
「へ!?え……、お嬢様の御友人になりたいと言ったんじゃないっすか?」
「友達って……、まさか、連絡先を交換したり交換日記をする、あの友達なの!?」
「他に何があるって言うんすか……、ていうか友達のイメージぃ」
今まで友達なんていたことが無かったのだから仕方が無い。
皆、私が話しかけてもひれ伏してしまうからだ。
「ふ、ふーん。私とそんなに仲良くなりたいの?」
正直、とても嬉しかったが、ここでガッツいて私のブランディングを損ねたくはない。
あくまで、余裕を見せるのだ。
「はい!強くて可憐、そこら辺の男なんかより全然頼りになる聖華様は私の憧れなんです!!」
中々の慧眼……、いや、当たり前の事か――。
兎も角、同年代の子に面と向かって褒められると、それはそれで恥ずかしかった。
「……。いいわ!特別に友達になってあげる」
「本当ですか!?」
笛水は、顔をぱぁっと明るくする。
「じゃぁ……。――私は、愛ちゃんって呼ぶから。私の事も聖華ちゃんって呼びなさい」
「へ!?そんな……、
まだ世間を知らない生娘にしては、殊勝な態度である。
が、私は誰かと“ちゃん”呼びすることに憧れていたのだ。
今回は、それに丁度良かった。
「駄目よ。しっかりちゃん付けしなさい。後、タメ口でね!」
「えぇ……」
「そうっすよ愛ちゃん、お嬢様は一度決めたら頑固なんすから」
どさくさに紛れて、下僕まで愛ちゃん呼びだ。
「わ、分かりました……聖華s、じゃなくて……。分かったよ?聖華ちゃん??」
なんだかとてもぎこちないが、逆に初々しくて可愛いので良しとしよう。
「それと、はい」
「な……、何これ……?」
愛ちゃんは目を丸くする。
「好きなだけ使うと良いわ」
私は愛ちゃんにクレジットカードを渡した。
このゲーム内でしか使えないものだが、後で現実で使えるのも渡そう。
「何、やってんすかお嬢様!?」
「え?何って友達には、友達料を払うんじゃないの??」
「マジすか……」
下僕は憐れむような視線を向けてきた。後でバ〇サンを焚いた瓶に閉じ込めよう。
大体、ネットで調べた情報にはそう書いてあった。
「それはネットの変なノリみたいな奴っすよ」
「あら、そうなの?でも、愛ちゃんが欲しいならあげるわ」
「受け取れないよこんなの……」
首をふるふる、左右に振った。
「まぁ、どっちでも良いのだけれど。取り敢えずよろしくね愛ちゃん」
「うん!聖華ちゃん!!!」
「いやー、お嬢様は偏屈者っすけど宜しくっす。もし困ったことがあれば、この下僕に……」
下僕は、さり気なく愛ちゃんの所に近づいていった。
「近寄らないで!気持ち悪い!!!」
「へぶしっ!!!!!?????」
「ちょ、愛ちゃん!?」
「うわあああ!すいません、下僕さん!!つい、脊髄反射で……」
愛ちゃんは、蠅を叩き落とすように下僕を撃ち落とした。
「いててて……、いや、俺も不用意に近づいて悪かったっす」
「違うんです!私、昔から男性の事が凄く苦手で怖くって……、大体ヒトオスって、下半身が脳に直結した交尾する事しか考えてない劣等種じゃないですか!?」
「え……?」
「へ……?」
「自分たちがこそが、女よりも優れているとか勘違いしているし……、女性がいるからこそ社会が成り立っているのに、まるで自分たちのおかげみたいに……、あぁ!なんて汚らわしい!!ここままだと女性の社会進出遅れる一方に!?!?」
「あ……、あのー愛ちゃん、さん……???」
急に熱く語り始めた愛ちゃんに下僕はドン引きしていた。
こういうのを、思想が強いって言うのかしら――?
人間を自分とそれ以外でしか区別していないので、下々の思想の違いなんてどうでも良いが。
「そもそも、IPS細胞の研究が進めばヒトオスなんて必要がなくなるのに……、だから、自分たちは生かされているって気付いて、私達に感謝して生きるべき!愛ちゃんもそう思うよね!?」
「ど、どうかしらね……、人には人の良さがあるというか……」
それは、“もしかしたら、私はそこまで真剣に人間社会を憂いたことは無い?”と思わせる程だった。
「お嬢様も、また、凄いのを引き当てましたね……。類は友を呼ぶって奴っすね……」
下僕は悪びれも無くそう言った。
今夜の餌は、犬用の骨にしよう。
「――愛ちゃん、話の途中で悪いけれど、そろそろ失礼させてもらうわ。また、明日、学校で会いましょう」
「え……?は!?あわわわわ……。私ったら興奮してつい……」
「ついってレベルじゃなかったっすけどね……」
「あ!そうだこれ、今日助けてくれたお礼――、」
と言うと、愛ちゃんは何も無い空間に手を突っ込みまさぐり始める。
“アイテムボックス”と言うやつだ。
「あれー、どこ行ったっけ……、これじゃないし」
「別に気にしなくていいわよ。特に貰って嬉しいものもないし」
「ううん、こういうのって気持ちだから……、ええと……、こうなるならちゃんと整理整頓しておけば良かった……。あ!?ちょっ!!!!???」
そう叫ぶと、アイテムボックスの入り口から中の物が溢れ出した。
大量の薄い本の様なものだ。
その一冊を手に取って見る。
「ええと、なになに……、“体育教師×理科教師 イケナイ夜の職員会議”……?」
「あ、読んじゃだめぇ!」
愛ちゃんは、私の手元からそれを奪い取ろうとした。
「いいじゃない、少しくらい」
私は、強引に読み進める。
本の中身には、裸の男達が描かれている。
なんだ、これは――。
「あぁ……、私の秘密が……、終わった……」
「これは……、BL!?なんで……、男嫌いの愛ちゃんが……こんなものを?」
下僕はこれがどんなものかわかる様だった。
下僕の癖に――。
「私、ずっと男なんて死滅すればいいと思っていたんですけど、少しは可哀想とも思っていたんです……。そこで出会ったのがBLでした。私、思いついたんです。創作の世界でならヒトオスを浄化できるって……。そこに描かれているのは私の身の回りのオス共。私の世界の中でみヒトオスは無垢な存在に生まれ変わり、生存が許されるんです……」
「成程……、
下僕と愛ちゃんは、何やら深い話をしているようだが私の胸には届かなかった。
それよりも……。
「素晴らしいわ!!!」
「え!?分かってくれるの聖華ちゃん!!?」
「理解しちゃったんすか……!?」
ミロのビーナスでも感動しなかった私が、この本には
「そうよ!BL?と言ったかしら??まさか、露出狂同士で競う格闘技があるなんて驚きよ!」
「へ……!?」
「な……!?」
二人は口をあんぐり開けていた。
「え!?だってこれ違うの??――でも確かに変ね……。男しか出て来ていないし……、女性差別じゃないかしら?後、なんだか細マッチョしかいないわ。なんかこうもっと、私のおじさんみたいな汚いのは出てこないのかしら???」
「あ、うん……。そうだね……。格闘技と言えば格闘技だね……」
「お嬢様……」
「――汚いのはないけど、太ってる人のとかは持ってるよ?……あげようか??」
愛ちゃんは目を反らしながらそう言った。
「良いの!?嬉しいわ!!!」
そうして、助けたお礼として、愛ちゃんはBLという格闘漫画の電子書籍を沢山くれた。
因みにBLが何の略称かは教えてくれなかった。
有栖院聖華の優雅たる日常 ぷ。 @onion700
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