第12話
彼女に花束を贈るために、僕は不便な身体に無理を効かせて庭へと向かう。
今でも毎夜の如く夢に見る。
あの日、あの時間、あの瞬間、あの場所を散歩しなければ。いつものように、2人でお茶を楽しんでいれば。何々していればなんていうのはただの想像で、すぎた出来事には適用なんてできない。
そうわかっていても、思わずにはいられない。後悔せずにはいられない。
庭からクローバーと薔薇を摘み取った僕は、彼女の枕元に戻ってくる。
「ねぇ、『僕を思い出して』よ」
クローバーを添えながら希っても、彼女の指が動くとはない。
11本の薔薇を彼女の枕元に添えながら、もう1度口を開く。
「君は、僕の『最も愛おしい人』だよ」
くしゃっと笑っても、彼女が僕の言葉に顔を赤らめることはない。
花言葉に全く興味がない彼女の代わりに、僕はいつも花言葉を勉強して、その言葉を添えながら彼女に花を贈っていた。
彼女は僕が花言葉を教える度に顔を赤らめて、あたふたして、本当に愛らしかった。
ーーーうぃー、うぃー、
彼女が被るVRMMOの機械から流れる音が、空白の世界に響く。
ここは、僕と彼女だけの世界。
暖かなクリーム色の壁に、彼女の趣味であるたくさんの写真が飾られている。日に焼けて色褪せた写真には、幸せそうに笑う僕と彼女が写っている。幸せだった瞬間だけを閉じ込めたフィルムでも、僕は彼女に花束を贈っている。
僕はいつでも、どこでも、どんな瞬間でも、彼女に花束を贈っている。
そして、たとえ次元を超えることになったとしても、僕は彼女に花束を贈る。
ーーー愛を込めて次元を超えた花束を。
愛を込めて次元を超えた花束を。 水鳥楓椛 @mizutori-huka
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