第19話 距離適性
「ほら、メロディが風竜は2000メートル以下に強くて土竜は2000メートル以上に強いって話をしてくれたじゃないか」
「そうだな。事実ゴールド、プラチナクラスで勝利した騎乗生物を確認すれば一目瞭然だ」
「同じことなんだ。種族特性ももちろんあるけど、ナイトメアでも短距離向けもいれば長距離向けもいる」
「個性については君に学ぶところが大いにあった。まだまだ私の認識が足らないようだな」
はは、走り方も戦法も異なるからもちろん得意な距離も変わる。
中には脚質「自在(どの戦法でも取れる)」や距離適性も自在という馬もいたが。
自在だと特化した馬と比べて器用貧乏で勝ちきれないというわけでもないから、競馬って面白い。
1200メートルも2500メートルのどちらでもG1で一着争いをする馬だっていた。
「どうしようか。ナイトメアの平均についてはグンテルから聞いているので、平均とローレライの比較の線で説明してみようと思う」
「ウン!」
早くってグンテルの目が訴えている。
「ローレライは確かナイトメアの中ではトップスピードが遅い方だけど、トップスピードを保てる時間が一番だって聞いた。あと、騎乗生物の強さの根幹となる基礎スピードに関しては上位層だったっけ」
「ソウ」
「そこで、スタミナとスピードを鍛えるために坂路トレーニングを繰り返した。坂路なら欠点を補え、得意を伸ばせるとね」
「トップスピードの上昇とスタミナアップだな」
コクリとメロディに対して頷く。
「結果的に短期間でスタミナが上がったと思う。トップスピードを維持できる時間が長くなったんだ。それと基礎スピードが僅かに上がった」
「ソウダッタ、ノ」
「トップスピードが上がってなかったからがっかりさせてしまったかも。しかしだな、維持できる時間が長くなった結果、とんでもない怪物に育ちつつある」
「一体どういうこと?」
「それが今日の結果さ。ロングスパートできる時間がとんでもなく長い。そして、バテても勝負根性で持ち直す。ただ、持ち直すのは距離が長いとさすがにズルズルいってしまう」
「それって……」
ローレライは勝負根性が非常に高く、行き足が鈍っても追い抜かせるものかと踏ん張り持ち直す「二の脚」を使うことができる。
しかし、俺はかつてローレライのような常識外れの馬に乗ったことが無い。あ、いや、馬じゃなくナイトメアなのだから馬とは異なるか。
足を持たせるため、我慢して直線に入るとスルスルと前にあがっていく「差し」がローレライにとって一番合った脚質である。
もしくは、距離が短ければ「先行」して「二の脚」で粘り切るのも良い。
と、ここまでは俺の常識の範囲だった。
ローレライはスプリンターであると表現したが、普通に走ればマイル(1600メートル)、控えつつ戦えば中距離(2000メートル)くらいが彼の距離適性だ。
スプリント(1200メートル)で更なる上位クラスまで行くと基礎スピードが違って厳しい戦いを強いられる。
通常ならば。
驚いたことにローレライはスタートから位置取りが安定する200メートルを過ぎたあたりからロングスパートをかけても最後まで走り切ることができるのだ。
いかな基礎スピードで劣ると言っても、スパート時のスピードと比べるとスパート時の方が断然速い。
「そう、ローレライはスタートして200メートル過ぎからずっとスパートをかけることができてしまう」
「な、何というナイトメアなのだ。ローレライならば伝説の『閃光』に迫るやもしれないな」
「1200メートルまでに限るけどね。1600メートルになると1000メートルのスパートはできない。普通に走るしかいけど、それでも強いぞ。ローレライは」
「すっかりローレライにほれ込んでしまって、君のパートナーはローレライではないぞ」
「わ、分かってるさ。オケアだって負けてない。三冠もロイヤル賞も1200メートルじゃないからな!」
「それって、1200メートルじゃ勝てそうにないと言ってないか?」
「不可能じゃない! オケアだって強いんだからな!」
全く、オケアに何てことを言うんだ。
当の本人は俺たちの会話など聞いておらず、今度はトマトをむしゃむしゃしていた。
「アリガト、ソージロー」
「ローレライからは多くのことを学ぶことができたよ。こちらこそ、乗せてもらってありがとう」
握手をかわそうとしたらグンテルがしがみ付いて来る。
しかし、力が入り過ぎて痛そうに眉をひそめた。
さっき「気を付けて」って言ったばかりだってのに。
「ローレライのことはこれくらいにして、改めて、みんなおめでとう! まだまだ成長途上だから変わってくると思うけど、懸念していたことを伝えようと思う」
まずはクローディアから。
改善しなきゃならない点を伝えるかどうかは迷った。
トレーニング時から懸念していたが、トレーニングをしばらく続ければ変わるかもとも考えていたんだ。
しかし多少改善したものの、そうすぐには良くはならないものである。
実際にレースで走った後だからこそ、伝えるタイミングだと判断した。
彼女たちなら伝えないより伝えた方がいいと信じている。
「クローディアは腰が甘い。もっとみっちり坂路トレーニングをやりつつ、俺も乗り方を変えて鍛えてみよう」
「腰が甘いとは?」
「坂が苦手ってことと思ってくれ。余り傾斜のきつくない坂だけど、逆に坂巧者になるくらいになって欲しい。ここ数日のトレーニングで良くはなっているから心配しないで」
「ソージローさん、短期間でそこまで見ててくれたのね」
坂に強くなる仮定で基礎スピードも鍛えあげられるさ。
「お次はセリス」
「はいですます」
「特に弱点と言えるものはない。だけど、尖ったものもない。何か一つ武器を作りたい」
「武器ですますか」
「個人的にはできうる限りのスタミナをつけたいかなと思っているよ」
彼女はそつのないユニコーンだと評価している。
ブロンズまでなら勝つことができるくらいの実力はあるが、シルバークラスになると勝ち負けまで持って行くのは難しいと思う。
彼女は全能力が平均以上でどのような位置取りからでも勝負をかけることができる。
だけど、突出したものがないから、展開が良ければ勝利を拾えるかもって感じだ。
俺が目指すのは展開のあやで勝つことではなく、勝ちに持って行ける力である。
もちろん、展開のあやで勝つことが悪いと言っているわけではない。勝ちはどのような勝ち方でも勝ちで等しく尊いものだ。
だが、勝率をあげるように鍛え上げることを怠ってはならない。
「スタミナ、頑張りますです」
「様子を見ながら別のことに挑戦するかもしれないけど、一旦はスタミナを鍛える、で頼む」
セリスもクローディアも素直でとてもいい子で自分のような人が面倒を見ていいのかとか思ってしまう。
おっと、オケアもいい子だぞ。ちょっと食い意地が張っているだけで。
※すいません、、、一旦ここで打ち切りとなります。いずれ続きを書きたいなと思ってます。
異世界ジョッキー~現代知識でユニコーンを鍛えて強くする~ うみ @Umi12345
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