第18話 スプリンター
フェンリルを贄にし、ローレライが更に勢いつく。
ほんとオケアとは正反対の性格をしている。
『ローレライ、速い! 速い! フェンリル二匹を置き去りにし更に後続との距離を広げていくぞ! 風竜は届くのか! 残り400メートルで風竜との差はおよそ20馬身!」
は、ははは。爽快だろう、ローレライ。
ずっとスパートをかけているため、さすがのローレライも行く足が鈍って来た。
『残り200メートルを切った。風竜がものすごい勢いでローレライに迫る! しかし、差は大きいぞ。未だ15馬身! さあどうだ!』
「もう一丁行くぜ! ローレライ!」
ふ、ふふ。ここからがローレライの凄さを見せるところだ。
更に鞭を入れるとローレライのたてがみが逆立った気がした。
ローレライの足がスパートをかけた当初のような輝きを取り戻す。
坂路トレーニングでいっぱいいっぱいになった後にクローディアが競りかけたら再度行き足を取り戻したんだよね。
そこで確信した。彼の強い勝負根性は「二の脚をつかう」ことができるのだと。
この表現が正しいかは分からない。
競馬用語での二の脚とは、最後の直線でいっぱいいっぱいになった馬が後ろから馬が迫って来た時に再度伸びることを言う。
今のローレライは後続が迫ってきてもいないのだけど、便宜上「二の脚」と表現させてもらった。
『ローレライ、ここに来て加速! しかし、後ろの方が速い! どうだどうだ! その差は14馬身』
追いつけるものか。
このまま押し切れ、ローレライ!
後続に影を踏ませることもなく、ローレライがゴールテープを切った。
『一着は格上挑戦のナイトメアのローレライ! 二着に8馬身差をつけての圧勝です! これはすごいナイトメアが出て来たぞ!』
ローレライのスピードを緩め、観客に向け手を振る。
ワアアアアアアア!
割れんばかりの拍手と歓声が俺たちを讃えてくれた。
「ふう……ありがとう、ローレライ」
ローレライの首をポンポンと叩き彼を労う。
対する彼はフーフーと鼻息荒く長い首を振る。まだ、走り足りないとでも言っているかのようだ。
その凄まじい闘争心に頭が下がる思いだ。
勝てたことで嬉しい気持ちはあるにはあるが、ホッとした気持ちの方が強い。
格上挑戦を主張しテン乗り(乗りかわり)で無残にも敗退したとあれば、グンテルに顔向けができん。
「やったぞ、グンテル」
「ソージロー!」
戻って来た俺に勢いよく抱き着いてきたグンテルだったが、ビクッとなり顔をしかめる。
あ、ああ。背中が痛むんだよな。
「無理して動かさない方がいい。ローレライはやっぱり強いな! 強さを見せることができて良かったよ」
「ツヨイ、ソージロー、ローレライ」
「次のレースは任せたぞ」
「ウン! オケアニモ、マケナイ」
「はは、俺も負けるつもりはないけど、対決はまだ先だな」
クローディア、セリス、オケア、そしてローレライと出場した全員が勝利を飾ることができた。
となれば、当然、その後には祝勝会である!
今回は大型の厩舎付きの宿を取ることができた(もちろんメロディが予約してくれた)ので、全員が同じ宿に宿泊となった。
それだけじゃなく、この宿には大型のレストランまで併設しているのだ。
移動の手間なく食事も楽しむことができるなんて、何て素敵な宿なのだろう。残念ではあるが、ローレライだけは厩舎で休憩中である。
ナイトメアはユニコーンと違って夜になると人の姿になったりなんてことがないから仕方ない。
「それでは、みんなの勝利を祝い、かんぱーい」
「乾杯!」
僭越ながら乾杯の音頭を取らせてもらった。
俺とメロディはエールで、他は水か果実水である。
これこれ、キンキンに冷えたエール! これの為に生きているって感じだよな!
地球に生まれてよかった。
いや、今の俺は地球に住んではいないか。ならば、この世界に感謝ってことで。
「ああああ、うめええ」
「もう次を頼んでいるぞ」
「さすが、メロディ。助かる」
「私も既に空だ」
はははと笑い合う。ここにロウガがいれば彼も同じように笑っていたことだろうに。
彼がいなくて少し寂しい。
そのうちまた会えるさ。同じロイヤルレースで凌ぎを削る者同士なわけだし。
ライバルであり同志。そんな関係を続けていきたい。
「みんな勝っちゃうなんて信じられませんです!」
「私もまさか混合戦を勝てるなんて……」
セリスとクローディアがさっそく本日のレースの感想を述べる。
え? オケアは?
あ、ああ。彼女はレストランに来ればいつものことだよ。
今日は桃があるらしくてさ。真っ先に飛びついていたよ。皮ごと桃を齧っているぞ。
桃の皮って日本じゃ剥ぎ取るイメージがあったんだけど、ここではそのまま食べるものなのかな?
スイカとかメロンはあったりするのかねえ。メニューの字が読めないからどうにもこうにも。
ま、俺にはキンキンに冷えたエールと何かしらの熱々の揚げ物があればいいのだ。
「三人にも驚いたが、一番はローレライだ。2ランクの格上挑戦をしたいと聞いた時にはいくらソージローでも気が触れたかと思ってしまったよ」
「は、はは。ちゃんと理由はあるって」
「それも聞いた。距離適性だったか?」
「そそ。ローレライは生粋のスプリンターだ」
「スプリ?」
ここでグイっとグンテルに袖を引っ張られる。
あ、あれ。さっきから揚げたてのポテトが冷めるまでジーっと見つめていたんじゃなかったのか。
何のかんのでローレライという言葉に反応してちゃんと参加してくるあたり、彼女のローレライに対する気持ちが分かる。
「まだまだトレーニングを積むと能力が伸びる、と思うのだけど、現時点での俺の感想と思って聞いてくれ」
「ハヤク」
「是非、聞かせてくれ。君の話はいつも興味深い」
ローレライもオケアもまだ成長途上だ。トレーニングを積むことによりまだまだ能力が伸びて来るはず。
競馬で言うところの2歳、3歳馬みたいなものだ。
競馬と異なり能力にピークを迎えた騎乗生物とも一緒のレースで戦わなきゃならないのがロイヤルレースの辛いところだな。
3歳馬と古馬がずっと一緒に戦う。下のクラスでもね。
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