第17話 躍進

『またしてもユニコーンだ! ユニコーンのクローディアがやってくれました! 第二レース ストーンクラスの混合戦1800メートルを制したのはユニコーンのクローディアです!』

『凄い、凄いぞ! これはユニコーン時代の幕開けか! 第三レース アイアンクラスの混合戦2000メートルを制したのもユニコーン。ユニコーンのセリスです!』

『二戦二勝のユニコーンのオケア! オケアだ! 第五レース ブロンズクラスの混合戦1800メートルを制しました! これでユニコーンが一日三勝です!』

 

 まさかロイヤルレースで一日何戦も騎乗できるとは思ってなかった。

 全て順調。クローディアはブロンズクラスだと厳しい戦いになるかもしれないが、まだ先の話だ。

 セリスの方は今のままでもシルバーまで行けるんじゃないかな。

 彼女らについてはおいおい……。

 最後のオケアに関してはブロンズクラスじゃ相手はいない。シルバークラスはぽつぽつと強い騎乗生物が出て来始めるので油断禁物ってところかな。

 まだまだ、ユニコーンの快進撃は続くぞ。

 

 とまあ、ここまでは予定通り。

 であったのだが……なんと俺にとっての四戦目があるとは。

 今思うと盛大な勘違いで顔から火が出そうだよ。

 ほら、先日グンテルがナイトメアのローレライを連れて一緒にトレーニングしたいって言ってきただろ。

 それで一緒のトレーニングセンターで練習を始めたのだけど、グンテルはローレライに乗ることができなかったんだ。

 というのは、俺のモンキー乗りを見て真似をしてみたところ、ローレライから投げ出されてしまい背中を強く打ったんだそうで。

 それで、まともに騎乗することができないので、俺に頼みに来たと言うのが真相だったのである

 何がダークエルフの里で風当りが強くなっているだよ……ほんとすまんかった。

 幸い口に出してなかったので、勘違いは俺の心の中だけの話でよかったよ。

 彼女が回復するまでトレーニングを手伝おうと申し出て、一緒に坂路トレーニングなんかしていたわけだが、グンテルの回復が思った以上に遅くなり俺がローレライに騎乗することになった。

 ま、まあ……騎手冥利に尽きる話なのだけど、彼女だって自分で乗りたかっただろうに。

 彼女のためにも負けるわけにはいかない。

 さて、ローレライの出場するレースであるが第七レースのシルバークラスである。

 ローレライはまだアイアンクラスなのだけど、格上のレースに挑戦する形だ。実は格上のレースに挑戦できることを知らなくて、出場するレースに悩んでいたらメロディが教えてくれた。

 ロイヤルレースは二個上のクラスまでなら登録することができる。

 ただ、下位の騎乗生物はレース登録数が多い場合は除外になってしまう。

 今回は全部で八頭だったので、無事出走登録をすることができた。

 二個格上挑戦となるとただ事ではないのだが、ローレライならいけると確信している。

 まあ、見ていてくれよ。

 

『明日の猛者たちをしかと見届けろ! 本日注目は本年度初の2クラス格上挑戦で殴り込みをかけてきたローレライです! 鞍上はまたしてもアラーシ。アラーシは本日三勝しております!彼のマジックがここでも炸裂するか!?』


 大袈裟なアナウンスに耳を覆いたくなる。

 競馬と異なり、ロイヤルレースの格上挑戦はうまみが少ない。競馬の場合のクラス分けは賞金額になっているが、ロイヤルレースはポイント制である。

 一着は10ポイント、二着は5ポイント、三着が3ポイントで、四着と五着は1ポイント。それ以下はポイント獲得無し。

 各クラスごとに一定のポイントを満たすと上のクラスに昇格することができる。

 このポイントだが、格上挑戦して一着になっても10ポイントで、特段ボーナスポイントを与えられ飛び級して二つクラスをアップさせる、といったことはできない。

 ローレライがシルバークラスのレースに勝ったとしてもアイアンクラスより一つ上のブロンズクラスに昇格するだけである。

 何故わざわざローレライに2ランクもの格上挑戦をさせたのか?

 力を見せつけるためではない。「勝てる」レースを選択したから格上となったのだ。

 パドックでもローレライは注目の的になっていた。もちろん、怯むローレライではなく、逆に気合いをみなぎらせている。

 あまり興奮すると折り合いが心配になってくるが、それもまたローレライの持ち味だ。

 パドックを回り、ゲートに入る。

 

『本日の第七レース シルバークラスの混合戦1200メートルがはじまります』


 パーラパーパー。パラパパーパラパパー。

 ファンファーレのラッパの音が響き、ゲートが開く。

 初の短距離戦だが、コース的には競馬とそう変わらないので全く問題ない。

 さすがに短距離レースとなれば土竜は出場していないな。

 鼻を取ったのはフェンリルの二匹で、先を争うようにして前へ前へ向かっている。

 中段はなく、残りは全て風竜だった。


「まずは息を整えろ。まだだ、まだだぞ」


 スタートして早々に息を整えるというのも変に聞こえるかもしれないが、他にどう表現していいのか分からなくて……。

 開始300メートルが過ぎたところで先頭のフェンリルとローレライとの差は6馬身ほど。そこから後ろに8馬身ほど離れて風竜の一団がいる。

 驚くがいい。そして、刮目しろ。

 ローレライの走りを!

 

 スパアアンと一発鞭を入れるとローレライの目つきが変わる。

 前を行くフェンリルに食いつかんばかりの勢いで前傾姿勢となり、加速した。


『早い! 早すぎる仕掛けだ! ナイトメアの常識を破ってきたローレライにしても早すぎる!』


 悲鳴のようなアナウンスと共に場内にもどよめきが生まれる。


「本当に喰うなよ」


 ローレライの眼光が鋭すぎたのでついそんなことを呟いてしまった。

 まだ全体の半分を過ぎたところで漆黒のナイトメアがフェンリルたちを捉える。

 どちらかというと気が強い方であるフェンリルがローレライの気迫にビクリとした気がした。

 いよいよ追いつこうとしたところで、内ラチ沿いを走っていたフェンリルらが外に膨らむ。

 ローレライの気迫に押されたってこともあるだろうけど、これは計算通りである。

 ちょうどここから最終コーナーが始まり、僅かながらも外に寄れるんだよね。

 内ラチに毛先を触れんばかりの勢いでローレライが内を割ってフェンリルらに並びかけた。

 こういう大胆な走りはローレライならではで、オケアには真似できないところだ。

 フェンリルらに並ぶとローレライの手ごたえが変わった。

 これが他者に対する負けてなるものか、俺様が一番だ! という勝負根性である。

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