Episode.8「The girl in the school infirmary」

 そのあとは、おだやかな雑談の時間だった。4人にしては少しせまい図書館の資料室しりょうしつの中で、差し込む西日にしびからかくれるようにして談笑だんしょうする。


 私たちは、少しずつではあるが、お互いに心を開き始めていた。自然と話は、それぞれの上話うえばなしになる。

 あおくんは、オカルトが好きになったきっかけを。そうくんは、アルバイトに励む訳を。ほたる君は、ミステリにのめりこんだ理由を。そして私は、生徒会に入りたい理由を。


「おいおい、ちょっと待て。つまり冬草ふゆくさは、生徒会で仕事をするためにサボれる部活を探していたんじゃなくて、部活をサボるために生徒会に所属したのか」そうくんが驚きながら、私の暴露ばくろをまとめる。暴露ばくろと言っても、別に大したことじゃないと思うけれど。

「そうよ。生徒会に入れば、そっちの仕事があるから部活をサボれると思ったの。中学でも同じ理由で生徒会に入っていたわ。その結果分かったのは、生徒会は案外あんがい暇で、部活をサボる言い訳としても優秀ゆうしゅうだということよ」私は自信満々じしんまんまんに言った。


「しかし驚いたなあ。冬草ふゆくささんは、てっきりすごく真面目な人だと思ってたよ」あおくんが目を丸くする。

「しかも、部活は誰でも入れるけど、生徒会はそうじゃないわ。つまり将来しょうらい大学受験で役に立つのは、部活を頑張った経験よりも生徒会に所属していた実績じっせきでしょ。生徒会はコスパいいのよ。見た目だけ真面目そうにしていれば、みんな私を真面目だと思い込んでくれるしね」私は笑いながら、あおくんを小突いた。


 あおくんの顔が赤いのは、西日にしびが彼の横顔を照らしているからだろうか。だとしたら、ご丁寧ていねいに彼の耳まで染め上げる、仕事熱心しごとねっしんな太陽だ。

「そういう訳だから、私にとってサボれる部活というのは、この高校に来て生徒会にまで入った理由そのものなの。だから、どうしてもサボれる部活が欲しいの。そのために、いま新聞部を作ろうとしてるのね。

 もしあおくんが入ってくれるなら、すごく助かるんだけどな。どう?」私はもう一度、彼を勧誘かんゆうした。

露野つゆののやりたいことも、要するに35年前の調査だろ。新聞部っていう肩書かたがきがあれば、何かと便利なんじゃねえか」そうくんも助け船を出してくれる。この三人の中で一番いちばん頼りになる男子だな、なんて私は思っていた。


 青くんはしばらく考えた末に、ほたる君の方を見た。先ほど荒事あらごとがあった手前、自分が入ってもいいか確認しているのだろう。

 ほたる君はそれに応えるために、ゆっくり、力強く首を縦に振った。


 あおくんは一呼吸ひとこきゅうおいて、はっきり、一文字一文字いちもじいちもじをかみしめるように言った。

「そうだね。じゃあ、入部させてもらうよ」


「ようこそ、新聞部へ」私は歓迎かんげいの言葉を口にする。言葉にしなくても空気で歓迎かんげいの意は伝わるとは思うけれど、こういうのは言葉にしてこそ意味があるのだと思う。そうくんもほたる君も、「ようこそ」と続いた。


 このタイミングでラインのグループを作っちゃおう。誰が言わずとも、自然とそんな空気になっていった。

 私たち4人は、せまい個室の中でお互いラインを交換する。そして『新聞部(仮)』という名前のグループに一言ずつ、「よろしくお願いします」とメッセージを追加していった。



「よし、部活のを立ち上げるために必要な部員は、あと一人だな」そうくんが改めて、現在のところの目標を確認する。部長は彼がいいだろうな、と私はなんとなく思った。

「あ、それなんだけどさ」ここで、ほたる君が気まずそうに口をはさむ。

 3人の視線しせんが、彼に向けられた。


「一人で行動しすぎって言われた直後で大変たいへん言いにくいんだけどね。実は、もう新聞部に誘っている人がいるんだ」

「はあ」そうくんが言いながら、苦笑にがわらいを浮かべる細身ほそみの男子に軽くげんこつを与えた。

 私もあおくんも、思わず吹き出してしまう。


 怒るそうくんの代わりに、あおくんが聞く。

「で、その人は誰なの?」


 ちょうどその瞬間しゅんかんだった。西日にしびが完全に地平線ちへいせんに沈み、世界が暗くなったのは。逆光ぎゃっこうでよく見えなかったほたる君の顔に、自信に満ちた挑戦的ちょうせんてきな目をみとめられたのは。

「アキサメコノハさん。秋の雨に、小さい葉っぱと書いて、秋雨木葉あきさめこのはさん。僕らのクラスのすみに机がある、保健室登校ほけんしつとうこうの女の子さ」

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