第4話 葬式

 今日は、葬式だ。


 兄妹と3人の奥さんの葬式だ。

 まとめて執り行うことにした。


 親族の参加は俺と兄弟の7人の娘達だけである。

 奥さん方の両親は、すでに亡くなっていたり、ボケてしまって遠くの施設で生活していたり、縁を切ったので行きませんと連絡を頂いたりという感じだった。

 兄弟姉妹はいなく、3人とも一人娘だった。



 飛行機事故からここまでの数日間、7人の女の子達を顔を合わせる機会は少なかった。

 俺は、だいたいの時間は部屋に籠っていて、飯を取りに行くのとトイレに行く時ぐらいしか部屋から出ることはなかった。


 後から知ったことだが、隣のお節介婆ちゃんが7人の面倒を見てくれていたそうだ。



「久しぶりだな、花」


「......」


「無視するのか?」


「......」


「そうか、お前たちの場所はあそこだからな。」


「......」



 これまでを振り返れば、まぁこうなるわな。

 他の子も目を合わせてくれないみたいだし、話しかけるのは諦めるか。



 7人と会話することなく、葬式が始まり終わる。

 お節介婆ちゃんも線香あげに来てくれたな。



 葬式が終わって、はい解散なんて出来たら楽なのに....



 俺は、7人の女の子達の元に向かった。


 俺が話しかけようとしたとき、7人と一緒にいたお節介婆ちゃんが大事な話を始めた。



「あんたたち、これからどうするんだい?」


「どうするって? 家に帰ります。」


「両親のいない家にかい? 生活はできるのかい? お金は? 将来は? 小さい子達のことは? 生きて行けるのかい?」


「だ、大丈夫です。7人で協力すれば何とかなります。」


「何とかならんから、心配しておるのだ。」


「何とかします。心配してくれてありがとうございま....」


「世の中、そんなに甘くはない。お前達には大人の助けが必要なんじゃよ。」


「....はぃ。」


「現実を受け止めなさい、分かっておるだろ。

 婆ちゃんは助けになってやれないが、丁度そこにお前達を助けてくれる大人がおる、その坊主を頼りなさい。」


 お節介婆ちゃんがいきなり俺に指す。7人の視線が一気にこっちを向く。



「....仕方ねぇから、俺の家に住まわしてやる。勝手に生きて、勝手に出て行けば文句はねぇ。好きにしろ」


「坊主、なんだいその態度は!」


「別にいいだろ! ほらっ家の鍵だ、7本ある。先に帰ってろ!」


 俺は、事前に複製しておいた7本の家の鍵束を、花に向かって投げ渡し、後片づけに向かった。


 去り際に「素直じゃないねぇ」そんな婆ちゃんの声が聞こえた気がした。



 ☆☆☆☆☆



 忙し過ぎる。

 やることが多すぎる。



 7人の女の子達の親権を得るためにいろいろなことをした。



 それぞれが住んでいた家に娘たちと行き、引っ越し業者に頼んで荷物を運んだり、いらないものを売ったり、賃貸の解約をした。

 これが計3回あった。


 あとは、住む場所が変わるので、それぞれの学校に連絡して転校することを伝えたり、転入先の学校を探した。

 高校生組の手続きが凄く面倒だった。


 その他にも、住民票の移動や財産分与などの様々な手続き、生活する上で足りない物の買い出し、届いた荷物の開封作業など行った。



 さらに、これらに加えて俺には仕事があった。

 納期のある仕事である。


 納期を延長してもらうことができない仕事だったので....辛かった。




 そんな日々を過ごして、7人娘達の親権を手に入れることができた。

 少しだけだが娘達との関係が良くなり、普通に会話できるだけまで関係性は回復することができた。



「こいつらが夏休み中で助かったな。

 ギリギリ全ての手続きが終わってよかったよ。

 あとは....」



 そう言えば、忙しすぎて兄弟が亡くなったことを悲しむ暇が無かったなぁ。

 今度、落ち着いてきたら時期にでも墓にでも行って、線香でもあげに行こう。



 小学生の頃、大喧嘩をして仲が悪くなった長男のアタル兄さん。

 互いに年を重ねて行き、大人になり成長し、最低限だが話すようになったんだったな。


 自由奔放で、1人県外の高校に進学し1人暮らしを始めた次男のシゲル兄さん。

 実家に帰ってくるたびに彼女を連れてきて自慢をする。毎回、連れてくる彼女が違うのは言うまでもないだろう。

 しばらくは結婚はしないだろうと思っていたのに、電撃結婚の報告には驚いたな。


 人懐っこく、誰からも愛されるような末っ子のサトル

 俺はこいつにいくら貢いだのだろうか。大人になっても手にしたお金を全て使うクセが治らない所為で、こいつが結婚するまで大変だった。

 面倒くさくて、我がままで、自己中心的な可愛らしい弟だったが....いなくなると、寂しいものだ。




 最後の最後に、こんな大切な財産子供を残していって.....


 本当にはた迷惑な兄弟達だった。




 自然と、俺の目から雫が落ちる。

 こんなことは、何年ぶりの事だろうか。


 1人が好きな俺にとって、寂しいという感情と無縁な生活ができると思っていたのに、なんでだろうなぁ。


 涙が止まらない。



 俺はただ1人、自分の部屋でこの感情を制御しようとし続けていた。




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