第3話 訃報
お節介婆ちゃんが家に帰り、7人の女の子達は2階に消えていった。
今の時間は、23時36分。
良い子は寝ている時間だ。
俺の生活リズムは、ぐちゃぐちゃだ。
外出する仕事があれば早起きするし、寝ないでそのまま仕事に行くこともある。
特に何もなければ、こんな感じに昼夜逆転するのが当たり前だった。
俺は依頼された仕事を行い、一息つこうとパソコンのマウスを操作して、ニュースや株の状況を確認する。
『速報!ボーイング2003が消息不明に....』
そんな中ふと、このニュースに目がいった。
飛行機が消息不明になったニュースだな。
そう言えば、あいつらはなんの飛行機にのったんだっけ?
ピロン!
ピロン!
ピロ...ピロ...ピロ!
なんだ?なんだよ!
俺の携帯がやかましく鳴り響く。
鳴り続ける携帯を探し、画面を開く。
そこには....
次男 茂より
「よう!満。ニュース見たか?
ボーイング2003のニュース。
俺達が乗っている飛行機だ。
娘達の事頼んだぞ!あばよ笑」
四男 悟より
「死にたくない」
「死にたくない」
「死にたくない」
「助けて」
「これからなのに」
「みち兄ちゃん」
「助けて」
「バイバイ」
「奥さんに怒られちゃった笑」
「琴葉、琴音、琴子に愛してるって伝えて」
「それだけ....」
長男 任より
「俺達は死ぬようだ。既に飛行機が傾いている。娘を残して逝くのは気がかりだが、お前になら任せられる。過去のことは水に流してくれ、すまなかった。」
マジかよ!
こんなもん遺書だと認めんぞ。
無事に帰ってこいよ....
ふざけんな!
俺は、それぞれに返事を返す。
しかし、誰も既読がつかない。
仕事や株の状況の確認など、全てを放棄し無心に連絡を掛ける。
しかし、誰もその連絡に応答することはなかった。
☆☆☆☆☆
次の日。
俺は一睡もせず、一心不乱に連絡を続けていたようだ。
朝の陽ざしを受け、朝になったんだと気づいたくらいだった。
一度、休憩をしようと思いリビングに向かう。
キッチンにあるコーヒーメーカーを起動し、戸棚に置いてある完全食を頬張る。
食事を作るのは面倒なので、基本的に俺は、完全食か栄養ドリンクで食事を済ませている。足りない栄養はサプリメントで補い、仕事で外出した時に外食する程度の食生活を送ってた。
出来立てのコーヒーを持って、ソファーに向かう。
机の上にあるリモコンを拾い、テレビをつける。
休憩すると決めたが、情報収集は怠らない。
丁度、ニュースがやっているので、それを流し見しながら休憩した。
ガチャ!
「おはようございます、満叔父さん」
長男の娘、長女の花の声が聞こえた。
「おはよう。他のは?」
「まだ、寝ています」
「そうか....
『続いてのニュースです。
本日の深夜3時頃、ボーイング2003が消息不明になりました。
未だ飛行機は発見されておらず、乗客239名の消息が不明です。』
「えっ!? ボーイング2003って」
「君たちの両親が乗っていた飛行機だな」
「う...そ!」
「スマホに連絡が来ているはずだ、見てこい」
タイミング悪く、例のニュースが流れてしまった。
ごまかすのは良くない感じた俺は、兄弟の娘の中で一番年上である花に現実を伝える。
俺は、コーヒーを啜り戻ってくる花を待つ。
決して落ち着いているわけではない、もうどうにも出来ないから諦めて今後のことを考えているだけである。
しばらくすると、家の中が騒がしくなる。
ダッダッダッという階段を降りる足音が複数聞こえ、俺のいるリビングに7人の女の子が入ってきた。
「全員、来たか」
「叔父さん! お父さんにもお母さんにも電話が繋がらないよ!」
「あぁ、知ってる」
「これ聞いて! このボイスメッセージ」
花はスマホの画面を俺の方に向けて、ボイスメッセージを流す。
流れた声は、任とその奥さんの声だった。
「はな、ゆう。愛してるわ。
大人に■った姿が見■なくて残念だ■。
幸せ■■ってね。母より」
「真面目に生き■、立派に生きてから■■に会いに来い。
その時を楽しみ■■■いる。父■り」
途切れ途切れのメッセージだったが、伝えたいことは伝えられたと思う。
周囲の雑音からと、母親の声が泣き声だったことから、墜落するギリギリのタイミングで遅れたメッセージだったのだろうな。
スマホを持っていたのは、花と悠の高校生組の2人だけであった。
悠の方のスマホには、メッセージは無かったそうだ。1人にしか送れない程の時間しか残されていなかったようだ。
「叔父さん、叔父さん」
「なんだ、えっと....」
「瑞希ちゃんです」
「あぁ、助かるよ、花。
瑞希、なんの用だ。」
「お父さんとお母さん、死んじゃったの?」
解答しずらい質問だな....ほら、チビッ子どもが何かを察して泣き出したぞ。
ここは、言葉を選んでっと。
「分からない、行方が分からないだけだからな。死んだと決まった訳じゃない」
そう、まだ死んだと決まった訳ではない。
飛行機の残骸も見つかっていないし、乗客の死体が見つかったわけでもない。
少しの沈黙の後、俺は話し出す。
この場の雰囲気に耐えられない。
「俺は今から部屋にこもるからな、邪魔をするなよ。」
「えっ? 叔父さん?」
「あぁ~朝ごはんはいらないからな、勝手に食べててくれ」
俺はコーヒーカップを食洗器に突っ込み、リビングから出る。
途中「叔父さん」と何度も呼ばれたが、全てを無視して自身の部屋に戻る。
部屋の鍵を閉めて、起動しているパソコンを操作し始める。
ドンドンドンと、部屋の扉が叩かれているがノイズをキャンセルするためのイヤーマフを装着して、情報収集を開始した。
知り合いや仕事の繋がりなどの人脈をフルに使い、ボーイング2003の情報を集め続けた。
☆☆☆☆☆
それから、数日後。
飛行機「ボーイング2003」の破片が海上で発見され、沈没した飛行機が見つかり捜索が始まった。
今のところ、生存者は発見されていない。
数日が経つ。
生存者は未だに0人である。
そして、ある日。
連絡がきた。
ご兄弟が3人とも亡くなったという連絡だ。
それぞれの奥さんについて聞いてみたが、まだ見つかってないらしい。
生きている可能性の方が低いと聞かされた。
はぁ、分かっていたけど、身近な人が居なくなるのは辛いな。
両親はすでに他界してしまっているし、俺1人になってしまったな。
まぁ、1人は慣れている。
大丈夫だ....大丈夫。
「仕事の納期が迫っている、やらないとなぁ」
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