付録 3: 本物のロボットはどうやって歩いているのか


 ロボットのフィードバック制御について調べていたら、実際のロボットの歩行プログラムに関する論文を見つけた。


 マサチューセッツ工科大学(MIT)が作ったボストン ダイナミクスというロボットの会社がある。グーグルやソフトバンクを経て、今は Hyundaiヒョンデ (韓国の現代自動車)が筆頭株主らしい。


 建築現場の人手不足に悩む竹中工務店が、ボストン ダイナミクスが作ったロボット犬、Spotスポット を採用したのは 2021 年のことだ。ヘビの頭みたいなのがついてる犬型ロボットでちょっとコワイが、施工がきちんとされているかどうかチェックして回るらしい。竹中用スポットのソフト関連はアマゾン ウェブサービスが担当している。竹中工務店はスポット以外にも、パワー アシスト スーツ(重いものを持つときに電動式のバネがサポートする)や、鹿島建設と共同で色々な施工ロボットを開発している(https://image.itmedia.co.jp/bt/articles/2001/05/l_kn162715simizu1.jpg)。(ロボットのネーミングはともかくとして)テクノロジーはここまで来たかと思う一方、きつくて危険な仕事をする人はどんどん減ってるんだなと実感する。


 閑話休題。


 さて、ボストン ダイナミクスだが、Atlasアトラス という二足歩行のロボットを作っている。2016 年で既に雪の中を歩けるレベルである(https://www.youtube.com/watch?v=rVlhMGQgDkY)。その前年の 2015 年に MIT がこのアトラスの歩行に関する論文(https://dspace.mit.edu/handle/1721.1/110533)を公開しているのだが、歩くだけでものすごい量の情報を処理しなければならないのがよく分かる。


 アトラスは救助用のロボットだそうで、安定性を保ちながら凹凸のある地表を歩いて行き、電動ツールを使って壁を切り抜いたり力仕事もできなくてはならないらしい。


 段差や割れ目、障害物がある場所を目的地まで到達する能力が求められ、この歩行軌道を単純な動的モデルを伴う効率的な足運び計画として計算するらしい。三段階の手順を踏んで、安全な一連の足運びを計画するんだそうだ。第一に LIDAR (レーザー)で地表をスキャンして、ロボットの付近にある障害物を検出する。次に、出来上がった障害物マップを使って、一連の最適化問題(*1)を解決することで足の配置空間にある安全な足運び凸領域(*2)の集合を計算する。最後に、これらの足運びから必要な圧力中心(*3)の軌道を計算して、コントローラーに入力する。


 *1 最適化: 特定の選択肢の中から基準に合った最適な要素を選択すること。ここでは、足を置くことのできる領域を検出する手順を言う。

 *2 凸領域: 凹んだところのない楕円状になるような領域。あんパンは凸領域だが、クロワッサンは凸領域ではない。

 *3: 圧力中心: 人が立っているとき、床に対して力が作用し、床からは同じ量の力が反作用としてかかる。圧力中心はこの力が集中的に作用する点で、この中心の維持や移動が歩行を可能にしている。ガンダムで言っていた「ゼロ モーメント ポイント」とこれが一致していると安定した歩行になるらしい。


 ここまでは、言ってみればルートの計画である。次に身体(機械)をどうやって動かすかを決定する。


 論文に挙げてある例を引用すると、「ロボットが台から飛び降りる場合、踏み込む時の接地面にかかる力、台から離れる瞬間の重心の速度、飛んでいる最中に台から足がどれくらい離れているか、着地する際の脚の動的到達可能領域を判断する必要がある」


 重心から外れない範囲で動きながら、どの方向にどれくらいの速度でどのパーツを動かすのか(思いっきり手足を動かして転んでしまっては困る)、パーツ間の摩擦係数だの、関節の回転量やスピード、関節の可動領域の制限などを関連させながら計算する必要がある。一歩を動かすには、動かした後の状態を予測して、実際に一歩踏み出した状態が最適か確認してまた一歩と続けなくてはいけない。さらに、これを計算するコンピュータの資源は無尽蔵ではないし、計算がいつまでも終わらなくても困る。したがって、最も手順が少なくて、最良の結果を得られる計算式が必要なんだそうだ。


 こういったルート作成戦略と物理的な動作をどうやって効率よく実行させるかが、全 46 ページにわたって(延々と)説明されている。


 そして、正しい動作をするにはフィードバックが必要でしょ? という原初の疑問に戻るとアトラスにもちゃんとフィードバックはあるそうだ。


 でも何がどうなっているのかわからないので、そのまま内容を引用する。


「採用したフィードバック制御を簡単に説明すると、次のようになる。簡易化した運動モデル(重心だけの運動など)用に作成された軌道の場合、軌道に関して経時変化する線形化を計算した後、経時変化線形二次レギュレーター設計を用いて安定化コントローラーを導き出す。ただし、レギュレーターから得た閉形式最適コントローラーを使う代わりに、完全な歩行系の瞬間的な運動、入力、および接続制約を追加的に捉える二次計画法の式を作成し、解くこととした。」



 ……キラ! 説明してくれ!!




注意: アトラスのビデオを検索すると、アトラスをいじめまくってアトラスがキレるというビデオが出てくるが、これは精巧なフェイク ビデオなので本気にしてはいけない(このレベルのフェイクができるということも驚きだが)。ビデオの提供元が Boston Dynamics となっているものだけが本物である。



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