第4話 Case3.命をかけたモブ兵士

新人研修終了して今日から俺一人だけになる。


 今俺の前で芝居がかった言い方の割に一切俺と目を合わさずにまくしたてている見た目高校生の彼。別に酷い死に方をしたわけではなく痛みなくあっさりと死んだ。じゃあ彼のクレームは何かというと


「たいてい、武勲をたてた人が出身が平民でもそれなりに高い地位に就いたりして貴族と付き合いとかできるじゃないですか?特に僕みたいな優秀な人材ならなおさらです」


 彼が自分を優秀な人材というのは彼のチートスキルは魔法を呪文無し、魔法陣展開必要無しでできるから。彼が行った世界は呪文を短くできる、展開を早くできる人が優秀な魔法使いとして分類されるためそれ自体は分かるが…


「彼女だって僕のことを認めてくれたのにっ、急に僕のこと冷たく突き放してっ」


 あまりにも話が長かったから短く言うが…


1、公爵令嬢が乗っていた馬車が襲われていた

2、それをチートスキルを使って盗賊を追い払った

3、城に招待されてしばらく一緒に暮らすようになった

4、彼女の家族事情を聴いて寄り添っていたらいい雰囲気になった

5、急に知らない男が現れて彼女に目を覚ましくれと言い出した

6、その言葉を聞いた公爵令嬢が冷たくなって急に距離をとられビジネス関係になった

7,とりあえず、言われた仕事をこなそうとしていたら敵に殺された


ということだ。


「あのモブ兵士より俺の方が役にたつのにっ」


 異世界にいたときの彼を知らないのが公爵令嬢の屋敷にいたなら例えモブでもかなりの腕前のはずだよなと思いながら目の前の青年の細腕を見る。


「貴族としての責務を思い出せとか仕事をしろとか…。彼女の父親も無理やり嫌な相手と結婚させようとするし」


 どんどんぶつくさと独り言のようになっていて俺が目の前にいるのを忘れてないかと不安になるがそろそろ仕事させてもらおう。


「まずお聞きしたいのですが、知りたいのは公爵令嬢の彼女に冷たくされた理由でよろしいでしょうか?」


「は?他になにがあるっていうの?まじで僕の言ってたこと聞いてたんですか?これだから窓口の底辺職は…」


 は?の声がすごくでかかったのにそのあとは小さくなって最後はよく聞き取れなかった。


「彼女、ローゼリアさんはモブ兵士さんの言葉で我に返ったようですよ。彼女が周りに求めていあのは自分を慰めてくれる相手。モブ兵士さん、ロッドさんや近しい使用人はそのことに気づいていたんですよ。貴方が寄り添うずっと前から彼女の心の傷には気づいていたんですよ」


 この書類には必要な情報が全て載っている、他人の心情だろうが全て。


「だったら余計、なんで僕のことを捨てたんだよ。意味わかんないよ?」


「使用人たちは下の者であって寄り添う者ではないし対等であるべきではない。上下関係を徹底するのは上の人だけではないんです」


「彼女はっ、傷ついてたんだぞっ!」


 急に声を荒げたから思わず椅子から飛び上がりそうになった。


「彼女は感情を優先できる立場ではありません、貴族です。それにあなたは人材としてもまぁまぁだったらしいですよ?」


「は? はぁぁぁぁぁぁぁ?! ぼっ、僕はチートスキルを完全に使いこなしてたんだぞ!?実際に敵を何回も倒したし、そう、あんなモブ兵士共が倒せなかった奴も。人間相手すらも冷静に立ち回っって」


 またぶつぶつな話し方に戻ってしまったが構わず続けさせてもらう。


「まず馬車を襲っていた敵はかなりの手練れでした。彼らは第二王子の手で陥れられた王城の元特隊という精鋭隊です。そのぐらいの実力がなければ公爵家の護衛をどうこうできないでしょうからね。あと貴方がしたのは邪魔です。」


「邪魔ってあいつらすんごい手間取ってたし、全然倒せてなかったし、あいつらだって、なんだあれとか、死にそうだったとかテンプレ言ってたし」


 ふてくされた子供だな。


「手練れ相手に護衛対象を守りながら戦うのと貴方がやったように考えなしで攻撃するのとでは違います。だから彼らのリアクションは…


なんだあれ(味方ごと殺しかねない広範囲攻撃だったぞ?)


死にそうだった(一緒に消されるかと思った)


が正しいでしょうね」


「文句一切言われなかったんですけど?そうじゃないから俺のことセシリアも迎えてくれたんじゃないの?」


「ローゼリアさんは戦い関係はからきしだったそうです。勘違いしますよ。貴方が護衛が手間取っていると思ったように…。主人である彼女がそういそう言ったなら、それにその時は貴方を側に置くとはまさか思っていなかったでしょうしね」


「俺は勘違い野郎じゃない、勘違いやろうじゃない、勘違いやろうじゃない」


 怖くなってきたがとりあず続けよう。


「彼女は貴方を人材としてではなく、自分を慰めるための人形として見始めた。それだけならまだしも政治的にも貴方を食いこませようとした、心を埋めてくれる貴方をいつでもそばに置きたいとおもったのでしょうね。だから罰を受けるのを覚悟で命を捨てでも、主従を超えて説得しようとした」


「だからって冷たくする理由にはなんないじゃん、意味わかんないよ」


「当たり前でしょう。貴方は平民以下のどこの誰かわからない人間なのだから公爵令嬢として当然の対応です」


「あぁぁっ!もう聞きたくないっ、聞きたくないっ!じゃあどうして死んだんだよっ」


「単純に戦闘慣れしてないからですね。背後の敵に気づかずにザクっとですね」


「バカじゃないの?それはない、それはない。だって索敵の魔法も使ってたし味方も背後にいたし」


「貴方のチートスキルはあくまでも発動を有利にするものです。魔法の知識や技術はない、索敵魔法を利用されて味方になりすましてたんですよ。背後にいる味方は全員敵でした」


「でっでも、背後にっ、確かに戦闘開始時は味方がっ」


「味方を殺しかねない攻撃と言ったでしょう?みんな離れたんですよ、危ないから」


「……」


「クソ仕様だろ、何がチートだよ、まじでありえねぇ」


 ブツクサ言っているが俺の仕事は終わった。ごくまれに第三者によって「チョロインメーカー」が解けることもある。今回は本来ならワッショイ要員になるはずの周りの人間を殺しかけたから起きたんだろう。すっかり本来の性格に戻った彼はどこかに連れていかれた。


「はぁ~」


 俺はこんなのと相性がいいのかとため息をつきながら次の相手を呼ぶ。

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スキル「チョロインメーカー」をつけ忘れた元転生・移案内人の俺は左遷されクレーム課にいます 黒薔薇王子 @kurobaranotutaga

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