外すピッチ、当たらない高音、それでも突き抜ける私の気持ち

競って優劣をつける場面はどこでも起こりうる。
大事なのは出し惜しみしないことだと、本作は気づかせてくれる。

書き出しが、音色からはじまっている。
客観的な状況から徐々に主観的に移りつつ、読者を物語へとスムーズに誘っていく書き出しは非常に上手い。

「加崎にも加崎なりの悩みがあるのだろう。部長を引きずり下ろしたんだ。複雑な心境だろうし、これから苦難が待っているだろう」とわかっているのであれば、加崎に自信をもって演奏させるような言葉をかけるのが部長の務めだったはず。
それが言えなかったのが、加崎に勝てなかった理由だと思う。