日曜日の16時59分。

五木史人

その無情

日曜日の16時59分。

秒針だけが、時を刻んでいた。



時計の分針が進んでない事に気づいたのは、抹茶パフェを、食べようとした時だった。


いつまでたっても、16時59分。

時計が壊れただけなのかも知れない。


・・・と考えてみたが、周囲の状況が変だ。


まるで同じことを繰り返している。


一分過ぎると、リセットされ、一分前に戻っている。

【分】の単位がこの世界から、失われてしまったのかも知れない。


一種のタイムループ現象だろう。


場所は、地下街のカフェ。



俺はカッコつけようと思って、洋梨印のノートPCを弄っていた時の出来事だ。

俺がカッコつけられていたのかどうかは兎も角。


時間は、進まない。


隣の席の女子高生3人組は、同じ話題で笑い続けていた。

どこかで剣道の試合があった帰りなのか、竹刀袋が3本が立てられていた。




斜め向かいの女子大生は、SFマガジンを読んでいた。


カフェで、SFマガジンを読んでいる女子を見たのは初めてだ。


そして、向かいの女子は・・・・


知る人ぞ知るっと言うか、知る人しか知らないと言うべきか、名前は忘れたけど、確かアイドルだ。


サイトを見たことがあるけど、コメントがゼロだったのを覚えている。


彼女は今、いるのかいないのか解らない、ファンに向けて「今、カフェにいるよ♡」的な内容を、SNSをアップしようとしている。




そんなカフェで、タイムループじゃないかと気づいたのは、10回程前のループからだ。


このループが何回続いて来たのかは解らない。


さて、どうする?


とりあえず、抹茶パフェを食べて見よう。

この店に入ってからまだ、抹茶パフェを食べていなかった。


この世界では、時間は1分しかないのだ。


その1分を有意義に使おう。


「美味しい」


うん、とりあえず有意義な1分だった。





しかし、何度もループを繰り返していく内に、抹茶パフェに飽きてきた。


俺は一つ思いついた。


1分でリセットされるのであれば・・・・・


隣の女子高生が飲んでるブラックのアイスコーヒーを、飲んでも良くない?




どうせ1分後にはリセットされる訳だし・・・


もし、リセットされなかったら、かなりの変態行為として、糾弾されるに違いない。


しかし、もう抹茶パフェを食べすぎて、甘いものは食べたくない。


決意を決め、俺は隣の席のアイスコーヒーを、取って飲んだ。


突然の出来事に女子高生は、驚愕して俺を見つめた。


・・・が、数秒後。


例の如くリセットされ、女子高生たちは同じ話題で笑い続けていた。


やはりな(笑)


ならば・・・と調子に乗ろうとした俺の視線に、斜め横の女子大生の、覚めた視線が入ってきた。


俺は繰り返されるループの中で、気が付いた。


この女子大生も、タイムループに気づいている。


だいたい、アイドルがSNSに、アップしたくなるようなおしゃれなカフェで、SFマガジンを読んでる女子大生がただ者のはずがない。



最初に、世界の異変を感知出来るのは、その異変を想定内と考えている者だ。


タイプループなど、SFマガジンを読んでいる者にとっては、想定内どころか、日常と言っても過言ではない。


この女子大生は、俺の暴挙を知っている!



さて、どう来る?



俺は、何回かのループの間、女子大生の観察を行った。


女子大生は、ニヤリと俺に微笑んだ。


スマホで写メをアップしようとしていた、


アイドルのカプチーノを勝手に飲んだ。


「何するんですか!?」


アイドルは哀しげな目で、女子大生を見上げた。




その表情は、ドラマなどでいじめられる主役の少女の表情そのものだった。


その切ない表情は、カフェにいる他の客の心を惹きつけた。


まさに、彼女は主役の輝きを放ち始めたのだ。


その空気を読んだのか、女子大生は、


「うっさいボケ!そんなに飲みたいのなら飲みやがれ!」


女子大生は意地悪く叫び、コーヒーを無実な少女の顔にぶっかけた。


当然、店内は騒然となったが、数秒後、リセットされ、


静かでおしゃれなカフェに戻った。




1人の覚醒は、周囲の覚醒を早める。


次に覚醒したのは、女子高生3人組の1人だった。


俺の隣の子を仮にAとして、その隣の子をB、Bの子の正面に座っている子をCとしよう。


覚醒したと思われるのは、Cの子だ。


彼女の目は現状を理解した者の目をしていた。


Cの子は、理解している事を告げるかの様に、俺を一目見た後、立ててあった竹刀を取り隣の子に竹刀を振り下ろした。




「貸した漫画返せよ!この泥棒!」


しかし、振り下ろされた竹刀は、女子高生Bの白羽取によって、動きを止めた。


「たかが40冊や50冊の漫画で、私を襲うなんて!」


俺は隣の席で起こった剣士たちの戦いに、驚愕した。


そして、漫画を40冊50冊借りたままの、女子高生Bにも驚愕した。




しかし、数秒後、時間はリセットされ、また静かでおしゃれなカフェに戻り、女子高生たちは、同じ話題で笑い続けていた。


時間は、また16時59分00秒。



覚醒は覚醒を生む。


ループが繰り返されるごとに、覚醒者の数は増えて行き、カフェ内は、今まで見たことがないほど、荒れ狂った。



そして・・・・その時は無情にも突然訪れた。



時間はリセットされることが無く、時計の分針は17時00分00秒を告げ、ループは終わりを迎えた。



「?!」「?!」「?!」「?!」「?!」





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日曜日の16時59分。 五木史人 @ituki-siso

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