第七十五話 休日昼の部

 和食、洋食、ハンバーガーなどのファーストフード。スマホで検索してみると、駅前にはだいたいの飲食店が揃っていた。


「七宮さんは何が食べたい?」

「私はニナが食べたいものでいい」

「じゃあ、この中ではどれがいいかな」


 ニナにスマホを見せようとすると、画面を見る前になぜか俺に接近してくる――横からスマホの画面を覗き込むような姿勢になってしまった。


「……これは朝食べた、卵焼きと類似していますね」

「それはオムライスって言うんだ」

「オムライス……」


 復唱したニナは画面をじっと見ている――朝食のときもよく食べていたが、食べ物には目がないということだろうか。


「……ニナは色々食べてみたいと思うから、色々あるところがいいと思う」

「っ……あ、ああ、じゃあファミレスがいいかな」


 ニナの逆側から七宮さんが覗き込んできて、挟まれる形になる。


「……藤原くんが食べたいのは?」

「俺は何でも食べるよ。今日は行かないけど、ここのラーメン屋とか気になるな」

「ラーメン……」

「……司さんの想像している『ラーメン』の味は、とても興味深いです」

「はは……普通に豚骨とか醤油とかだけど。塩や味噌でも好きは好きだな」


 ニナは俺の思考を読み取って『ラーメン』の良さを感じ取った――のだろうか。ニナだけでなく七宮さんも興味を持ってくれている。


「……家では食べたことないから」

「それなら、外出するたびに違う店に行ってみようか……って」


 これではまた一緒に外に出ようということになってしまうが――今日限りというつもりは無いにしても、今さら恥ずかしくなってくる。


「……明日は樫野先輩たちとダンジョンに行くから、次のお休み?」

「っ……そ、そうだな……次の休みにでも」

「遊ぶのなら、課題もちゃんとしなきゃ。協力する?」


 一般科目の授業は普通に課題が出るので、土日のどこかでこなさなければならない。探索者学校といっても、一般の高校と同じ部分も多い――探索者を目指すための単位だけ取っていれば卒業できるといえばできるらしいが。。


「その、課題というものは……私もお手伝いできるのでしょうか?」

「……ニナも学校に行きたい?」

「えっ……な、七宮さん、それは……」


 ニナが学校に行くというのは、開かずの間の『あの人』も言っていたことだ。


 こうやって外に出ることはできたので、第一段階はクリアしている。あとはニナが行ってみたいかどうかも大事だ。


「私の中に入ってきた人たちのことは、情報が集積されています。課題というものも、ある程度対応ができるかもしれません」


 ニナは想像していた以上に多くのことを知っている。だがそれはダンジョンに入った人の情報を得ているだけで、彼女が実際に経験したことはまだ少ない。


「学校に行ってみたくなったら、その時は言ってくれ。すぐに編入とはいかなくても、出入りの許可を得られるかもしれない」

「はい。お家にいたあの方からも、人間のことを教わることはできそうですが」

「あの方?」

「そうだ、七宮さんにはまだ言ってなかったな。東館の突き当りにある開かずの間なんだけど……」

「あ……硯さんから話は聞いてた。開かずの間の人と、私もそのうち会うかもしれないって。藤原くんはもう会ってたんだ」


 迷子になったニナが、開かずの間の主に保護してもらっていた――そう事情を説明する。


「いっぱいダンジョンで見つかった本がある部屋……」

「七宮さんも気になる? 俺も気になるから、今度また入れるといいな」

「彼女は私のことを保護してくれました。そして『お姉さん』と呼ぶようにと」


 肝心の名前は聞けていないが、あの姿でも年上ということで、その辺りは踏まえた方が良いようだ。


「……硯さんに今度、しっかり事情を聞いた方がいいかも」


 ダンジョンの謎を解明する前に、まず身近な謎を解きたいところだ――自分たちが住んでいる寮のことなのだから。


   ◆◇◆


 相談した結果、俺たちは近くのレストランに行くことになった。


 三人でテーブルを囲み、注文用のタブレットをまず七宮さんに渡す。七宮さんとニナは隣同士に座って、真剣な面持ちでメニューを選んでいた。


「い、いらっしゃいませ……あぁっ!?」


 女性の店員が水を持ってきてくれた――しかしグラスをテーブルに置くなり、トレイで顔を隠してしまう。


「こ、こちら、お水のほうお持ちいたしました……」

「え、えっと……何かありました?」

「いいいえっ……し、失礼しますっ……!」


 店員は踵を返して去っていく――しかしその途中で転びそうになり、他のウェイトレスさんに支えられていた。


「す、すみません、迷惑をかけてばかり……っ」

「足元には気をつけてね」


 店員の名札は見えなかったが、あの金色の髪には確かに見覚えがある。


(うちのクラス……D組の生徒、だよな?)


 ――彼女のことについては、学園からしっかりとフォローをしていくので……。


 伊賀野先生はそんなことを言っていたが、何か事情を抱えているのだろうか。まさかここでバイトをしているとは思わなかった。


「……藤原くん、気になるの? このお店の制服」

「い、いや、そこじゃなくて……さっきの店員の人に見覚えがある気がして。たぶん、うちのクラスの人だと思う」

「アルバイト……は、校則では許可されてるから、いいと思う」


 バイトをするよりも探索などで資金を作った方が良い気がしなくもないが、それぞれの事情というものもある。


「これは、子供しか頼んではいけないものなのですか?」

「……お子様ランチは、何歳でも頼んで大丈夫?」

「それはなかなか難しい問題だな……この店だと年齢制限はなさそうだけど」

「では、こちらと……これと、これと、これが気になります」


 さらにカレーとハンバーグ、デザートを指差すニナ――さすがの七宮さんもいつもより目を見開いている。


「……すごい。そんなに痩せてるのに、どこに入るの?」

「すべて魔力に変換されます。効率が良くないので摂取は多く必要です」

「……それはちょっと、羨ましいかも」

「ははは……まあ臨時収入もあったし、好きなだけ頼んでくれ」

「では、足りなかった場合は追加をお願いします」


 ニナは心なしか目を輝かせている――ほぼテンションが変わらないが、魔力を補給するためとはいえ、食事自体は好きらしい。


「私は和食にする。硯さんが、バランスよく食べるようにって」

「ポテトは野菜と主張していくのが俺のスタイルだよ」

「……柔軟な発想」


 七宮さんがほんの少しでも笑ってくれるだけで、無性に嬉しくなる。


「(お二人が親しくされているときは、静かにした方が良いのでしょうか?)」


「(い、いや……普通で大丈夫だ)」


 直接心に語りかけてくるニナに返事をすると、ほとんど表情を変えずに七宮さんを見やる。人間関係の機微というものについては、ニナには慎重に理解を深めてもらう必要がありそうだ。




//お知らせ

更新の感覚が空いてしまい申し訳ありません!

本日より再開させていただきます。


また、この場をお借りしてご報告させていただきます。

本作「英雄パーティの荷物持ちおっさんですが、転生して現世ダンジョンを攻略してたら学園ランキングが急上昇してしまいました」

になりますが、書籍版の発売が決定いたしました!

電撃の新文芸様より、発売日は5月17日になります。

あわせてタイトルのほう変更させていただきまして、

新しいタイトルは「元英雄パーティの荷物持ちおっさん、転生して現世ダンジョンを無双する ~二回目の人生は『荷物持ち』を極めて学園ランキングを駆け上がる~」

となっております。

イラスト担当は「オウカ」先生です。白と司の二人を描いていただいた美麗な表紙が目印となっております!

本文についても連載版をベースに改稿・加筆を行っておりますので、

書店様でお見かけしましたら、ぜひぜひチェックして頂けましたら幸いです!

改めまして、「元英雄パーティの荷物持ちおっさん」を何卒よろしくお願いいたします。

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元英雄パーティの荷物持ちおっさん、転生して現世ダンジョンを無双する ~二回目の人生は『荷物持ち』を極めて学園ランキングを駆け上がる~ とーわ @akatowa

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