此処との違い

よるがた

此処との違い

異世界系の創作物が流行っている昨今ですが、

僕も異世界に足を踏み入れたことがあります。


異世界と言うか平行世界、パラレルワールドという感じですが。


それは今から十数年前のある日、僕が大学生の頃のことです。

大学から家に帰っていると、道中気分が悪くなってしまい、

自転車もまともに漕げず、ふらふらと歩いて帰りました。

道中まだお昼過ぎのはずなのに夕方のように空や景色が赤かったのを覚えています。


しかし当時の僕はそれどころではなく、もうろうとする意識の中でなんとかひとり暮らしのアパートに帰宅。すぐさまベットに横たわるとそのまま寝てしまいました。


「ピンポーン」


玄関のチャイムで飛び起きました。

今が何時かもわからないままとりあえず玄関を開けると恋人が訪ねてきていました。


どうやらかなり長い時間眠っていたようで、

すでに次の日の16時をまわろうとしていたところでした。

講義に出ず、連絡もつかない自分を心配してきてくれたようです。


長時間寝ていたことに驚きつつ彼女を招き入れました。

何度携帯に連絡しても繋がらないから心配していたとのこと。

とりあえず身体も元気そうですし大丈夫であることを伝え、彼女から今日あった出来事などを聞いていると、何か違和感がありました。


『彼女はこんな顔だったかな?』


とてもよく似ている?いや、他人の空似であるはずはありません。

目の前にいる女性は恋人として接してきているので間違いなく彼女は彼女なんでしょうが…。そういえば髪も短いしこんな服も見たことがない。そのせいで違和感があるのでしょうか。


僕「あれ、いつ髪切った?」


彼女「いや最近切ってない、結構前だよ」


頭が混乱する中、違和感は彼女だけに留まりませんでした。

この部屋です。

間取りや家具は同じですが、自分が好きで貼っていたポスターや小物、

写真が所々違う。よく見ると写真に関しては知らない人までいます。


…気持ちが悪い。


これは夢なんだと思いました。夢って微妙に細部が違ったりしますし。

「とにかくこの夢から早く覚めよう!」

そう思いました。


僕は彼女に「やっぱりちょっとまだ気持ち悪いから寝る」と伝え、帰ってもらい。

ベットに戻りもう一度寝ました。夢から覚めるにはどうしたらいいかわかりませんでしたが、寝て覚めればなんとかなると願いました。


次の日、

目を開けても僕はまだ夢の中にいました。


次の日も、その次の日も。

今も『少し違う世界』という夢に囚われています。



僕は『今も異世界にいます』



そう、これを読んでいる皆さんがいるこの世界。

ここが僕にとっての向こう側、異世界です。


最初は元の世界に帰ろうとしていましたが、今はもう諦めました。


異世界に来てしまったとは言え僕の戸籍はありましたし、

こちらの世界でも僕はちゃんと大学生でしたので生活はできました。


しかし元居た世界と平行世界の違いは多く、

通貨の名前、地名、法律、細かな歴史。

居たはずの人が居たり、居なかったり。

居たとしても友達・家族の記憶や性格は微妙に違ったりしました。


笑顔で話しかけてくるみんなに話を合わせるのに疲れてしまい、

友達や恋人とは距離を置き、20年培った人間関係は崩れ去ってしまいました。

しかし、この世界で一つ嬉しいこともあったんです。


死んだはずの父親がこちらの世界では生きていたのです。


僕が中学生の頃に亡くなってしまった大好きな父。

生きている父に会えたのは、この世界に来て絶望していた僕にとって唯一の救いでした。今でも元気で居てくれる父のおかげで母とも仲良くいられるのだと思います。


この世界に来てもう十数年経ち、

今では社会人になって新しい友人や同僚も出来て『普通』に暮らせています。



でもやっぱり長く暮らした世界とのギャップにどうしてもちょっと

戸惑うというか困ってることもあって、

一番はムカつくやつがいても殺しちゃいけないこと。

というか殴ったりするのもダメっていうのはちょっと笑っちゃうというか、腹が立っても我慢するしかないというのが耐えられない。


元の世界では喧嘩なんかしても誰も止めなかったし、場合によっては人を殺すことも認められていた。理由とかは必要だったけど。だからどうやってこのストレスを発散したらいいのか。


大体悪いやつをのさばらせておく方が社会的に悪じゃないのか?

盲目的に暴力は悪だと思ってんじゃないの?

犯罪者のクズから家族を守るためには殺人も手段の一つだよな?

父さんを殺すような奴が生きている方が社会にとっては損失だよな?

間違ったこと言ってるか?僕は悪くないよな?


どうせわからないだろ。おまえたちは宇宙人だから、同じ形をしているだけで別の生き物だから。



あの父さんも本物じゃない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

此処との違い よるがた @yorugata-aratame

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ