からすのこ
鳥尾巻
白いひかり
見つけた。
とと様が云うことには「にちりんの子」を見つけたら、きっと分かる、きっと護ってあげなさいって。
きっときっとのお約束。
吾は神さまのケンゾクのカラスだもの。きっとできる。お会いしたことはないけど、天の真ん中を治めておられるえらい神さまの御使いなの。
まだまだ体も小さくて、ひとの形になるのも下手だし、声もうまく出せないけどね。
ある日、黒くてにごったイヤな気の子どもたちに石を投げられて泣いていたの。そしたら、あの子があらわれた。
「弱いものイジメはかっこ悪いよ」
声が聞こえて、姿が見えて、その瞬間、まわりのイヤな気がパアッてふっ飛んだ。
白いひかり。すきとおった空気。ひとには視えない丸いひかりの輪が、あの子のまわりを取り囲んでた。
背は高いけど体は細くて、ぜんぜん強そうじゃないのに、中から強いひかりがあふれているのが視える。子どもたちはびっくりして、あくたいをついて逃げてった。
「だいじょうぶ?」
そう云って吾を見おろしたあの子のやさしい目。ひかりの輪っかは虹がかかって、体の真ん中からひかってるようで「ああ、この子だ」ってすぐ分かった。
「ガ……ギ、ギヨ……ンガ?……ァ、カァ」
「はは、おまえ、鳴くの下手だなあ」
うう、ありがとうって云いたかったのに。カラスの姿じゃなかったら、顔がまっかになってた。
白いシャツから伸びた長い腕。大きな手をひらひら振って、またねって云った。
それから毎朝、おなじ道で彼が通るのを見ていた。電柱のうえに止まって、今度はうまく鳴けるように小さい声でれんしゅうする。
「ガガガ……ギギョ……」
うーん。うまくならない。うまくなったねって、あの子にほめてもらいたいのに。
あの子はいつも道のカドで立ち止まり、誰かをまってる。一つ向こうの通りを眺めたり、しかくくて薄いハコをときどき見て、ため息ついたりして。
のぼる朝日が背中をてらして、くせのある茶色の髪が風に揺れて、とってもきれい。
でもでも……ヨツカドにはわるいモノもたまるのよ。あんなにきれいなひかりが視えたら、みんな欲しがってしまう。
ひとの乗るクルマっていうの?あれがよくぶつかったりしてるのも道と道がまじわっているところが多い。わるモノがいたずらしてるの。
あの子は向こうの通りを歩く誰かを見つけて、パッと顔をかがやかせた。クルマがくるかもしれないのに、たしかめずに道をわたろうとした。
黒いにごったモノがあの子の前をよこぎる。いっぱい集まって、ふくれあがって、わるいことしか考えられなくなってるモノ。カドにたまってひとをまきこもうとしてる。あぶないあぶないの、あの子があぶない。
「カ、カァアア!!」
大きな声が出た。電柱のうえからまっすぐしたへ舞いおりる。あの子の前で待ちかまえてたわるいモノをけちらして、くちばしで追い祓ってやった。
足をふみ出しかけていたあの子の前を、大きなしかくいクルマがすごい勢いで走っていった。
「わ、びっくりした。異世界転生するとこだった」
イセカイテンセイってなに?足もとで見上げたら、やさしい茶色の瞳と目が合った。
「……あれ?こないだのカラスの子?」
「カァ」
「もしかして助けてくれた?」
「カカ」
「まさかね。でもありがとう。鳴くの上手くなったね」
そう云って笑って、またねって手を振った。
うふふ。ほめられちゃった。
吾の白いひかり。神さまに愛されるにちりんの子。これからもずっとみまもっているよ。
【おわり】
◇◇◇◇◇
イラスト
https://kakuyomu.jp/users/toriokan/news/16817330661218258557
からすのこ 鳥尾巻 @toriokan
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