第51話 自分自身の本当の気持ちって、自分以外の何かによって気づかされることの方が意外と多い。

 テーレの奴、マキナのことが好きなのか……?

 

 だから、依頼の掲示板の所で困っている俺たちに声をかけて来たのか。


「いや、ちょっと待て。……マキナ様は、やめておいた方がいいぞ」

「どうしてですか?」

「それは……」


 い、言えねー。

 こいつは、ホントは魔王だからっていうわけにもいかないし。やめておいた方がいい理由が何も言えない。


「安心してください。この依頼をお手伝いしている間は、積極的に動くつもりはありませんから」

「そ、そうか!」


 ……って、なんで俺はいま安心したんだ。別にテーレがマキナのことを好きになろうが関係ないはずなのに。


「なので、真人さんもマキナさんには、僕が狙っているってことは、内緒にしておいてくださいね」

「お、おう」


 俺が頷いたのを確認すると、テーレは話すべきことは終えたとばかりに立ち上がる。


「それでは僕もあと少しだけ仮眠を取らせてもらいますね。何かあったらすぐに起こしてください」

「わかった」


 テーレはそのままマキナが眠る木の方へと向かっていくと、同じ大樹の腹を背に腰を下ろし、眠りについた。


 いや、なんでわざわざそこに行く……。


 テーレの奴、本気なのか。

 本気でマキナのことが気になっているのか。


 確かにマキナ目当てで近寄ってきたと考えれば、見ず知らずの俺たちにこんなに手を焼いてくれていることにも、納得はできる。


 もしマキナがテーレのことを受け入れたら、テーレも俺と同じようマキナの部下になるのだろうか。それならそれで、テーレは優秀な男だし、同じ元地球出身者ということもあって、同僚として仲良くはできるだろう。事情を説明すれば、俺と一緒にマキナが地球を破壊しないように働きかけてくれるかもしれない。味方になればこれほど心強いやつはいないはずだ。

 

 でも、そう思う一方で、マキナとの間にテーレが入ってくるのを快く思わない自分もいる。何故かはわからないが、テーレがマキナを狙っていると言ったあの瞬間、妙に気持ちがざわついた。そのあともずっと、もやもやと、はっきりしない感情が胸の内に渦巻いている。


 ……困ったなあ。もしかして俺も……?


 マキナは魔王で、普通の人間の女の子ではない。

 そう理解して心の中で一線を引いているのに、一方で心のどこかで、その一線を越えてしまいたいと思う気持ちが芽生えつつあるのかもしれない。それとも……。


 自分のことなのに、自分の気持ちがハッキリとわからない。


 俺は、どうするべきなんだ。


 もやもやと思考の渦に飲まれていると、不意に背後から草葉を踏みしめる音がした。

 瞬間的に背筋に緊張が走る。


 しまった、魔物か――!?

 やばい、考え事に集中し過ぎた……!


 見張りなのに全然周りを見ていなかったことを後悔したが、もはや後の祭り。身構えながら恐る恐る背後を振り返る。

 そこには、魔物……ではなく魔王が立っていた。


「マサト……」

「……なんだ、マキナ様でしたか」


 恐ろしい魔物に背後を取られたわけではなく、安堵の息をく。

 ただ、マキナが何かに怯えるような、初めて見る表情をしていたのが少し気になった。


「どうしたんですか?」

「……ひどい悪夢を見たんじゃ。……すまぬ、隣にいてもいいか?」

「別に、いいですけど」


 魔王とかいう最強の存在でも悪夢とか見るのか……いったいどんな悪夢を見たのか気になるけど……。


 マキナは俺の傍らで腰を下ろすと、そっと身を寄せてきて軽く肩が触れ合う。そしてマキナの肩が微かに震えていることに気づいた。


「よほど、夢見が悪かったんですね」

「……うん」

「……怖い夢だったんですか?」

「……うん」

「最強の魔王であるマキナ様でも、怖いと思うことがあるんですね」

「……儂にだって、怖いと思うことはたくさんある」


 肩を震わせて俯く今のマキナは、残虐で尊大な魔王には見えない。それどころか、嫌な夢を見て人並みに怖がるただの女の子だった。


 こういう時、最強の魔王に掛ける言葉は知らないけど、普通の女の子に掛けてあげるべき言葉は何となく想像がついた。

 俺は少しためらいながらも、その言葉を口にする。


「……俺が、守ってあげますよ」

「え……?」


 マキナが顔を上げ、俺のこと見つめてくる。おびえたような瞳が、無性に庇護欲を掻き立ててくる。これまでマキナに対して感じたことの無い感情が湧き上がってきた。


「まあ、何と言うか……頼りないし、雑魚の俺がこんなことを言うのもおこがましいですけど、マキナ様が怖い思いをするようなときは、俺が守ってあげます」

「……そうか」


 強張っていた表情をわずかに緩ませ、マキナは俺に寄りかかるように身を寄せてきた。


「………………頼りにしてる」


 俯きながら、ボソッとつぶやくように漏らしたマキナの言葉に、不覚にも胸が熱くなるのを感じた。


 いくら心の中に一線を引いて、それを越えないようにしていても、マキナの方からその一線を越えてこられたら、結局その一線は何も意味をなさないらしい。


 ――信頼する。もう二度と裏切りを疑ったりはせぬ。


 そう言って、自らの線引きを越えて俺の懐に飛び込んできたマキナに、俺の心はどうしようもなく動かされてしまっていたようだ。



 今、ようやく、はっきりと自覚した。



 ――どうやら俺は、マキナのことが好きになってしまったらしい。



====================

【あとがき】

第51話を読んでいただき、ありがとうございます♪


51話(こいばなし)ということで真人の恋心についての掘り下げ回にしてみました。

最近ラブコメ臭のする展開ばかりで、ギャグ系コメディに走ろうとする気持ちを抑えるのに必死です(笑)


次話は4月2日に投稿します。


引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いいかげん異世界転生するの、やめてもらってもいいですか? ……とばっちりで異世界転生に失敗した俺は、魔王の部下に成り下がり異世界転生を撲滅します。(仮) さかまち @sakamachi10se

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ