第35話 元貴族の冒険者、仲間と共に旅立つ


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 仮面の剣士、シン。


 白狼のユキ。


 今は親友となったリコ。


 そして、元貴族のクリス。


 冒険者パーティーとしてB級の彼らは、

 いよいよ数日後に、この街を立つ事が決まった。




 ――装備の点検や交換、アイテムの補充などは既に済ませた。


 シンは相変わらずフードを全身にかぶり、

 その腕には防御用の手甲がはめられている。


 武器は愛用のロングソード。



 リコは、動きやすい旅用の革製のベスト。


 武器は、遠距離用にボーガン、

 接近戦用には、クリスから譲られたミスリル製のナイフだ。



 そしてクリスは、

 あまりごつくない、動き重視の革鎧。


 武器は、ミスリル製のショートソードだ。



 ユキ?

 白狼のユキには・・・、虫よけの付与付きの巨大な首輪だ。


 ユキが、

『自分も何か欲しい・・・』

 と、目線で訴えてきたので、

 購入したものだ。


 ユキの身体は、

 少年のクリスとリコの二人を乗せられるほど大きいので、

 そのサイズの首輪を手に入れるのには苦労した。


 最終的に、

 従魔士テイマー専門の用具店で購入したのだ。


 首輪を買って付けてあげると、

 ユキは嬉しそうに尻尾を振った。


 店の店主がそれを見て、


「よく懐いてるね、その従魔」

 と言うと、

 クリスは首を振って、ユキのふさふさした首筋をなでながら答えた。


「ユキは僕のだよ」

 と・・・。



 ――出発前の数日、クリス達はそれぞれ、あいさつ回りに(お礼参りではなく)いそしんだ。


 クリスが回る相手は、そう多くはなかった。


 冒険者になって初めての依頼主、

 児童保護施設を運営しているゼニー商会の会長ゼニー。


 彼の部下であるチルポを通じて、屋敷で会える事になったので、

 クリスは『お土産』を持って訪ねた。


 シンから借りたマジカルボックスには、

 最近ようやく、パーティーで力を合わせて倒したフランティックトーテムが入っていた。


 ――半年前に出遭ったソレの、半分程度のサイズだったが・・・。


「こんな希少な魔物を・・・!

 おお、ありがとうございます!」

 ゼニーは金塊でももらったように喜んだ。


 ゼニー商会の出資者の一人に、珍しい魔物を標本にしているカリガールという貴族がいる。


 話を聴く限り、クリスはとても仲良くなれそうにないと思う相手だが、

 ゼニーにとっては大事な取引相手だ。


「これでカリガール家に対して、

 有利な取引ができますよ。

 半年前に、フランティックトーテムはほぼ消滅していて、

 まず手に入りませんからね、ふっふっふ・・・」


(うわぁ・・・悪い顔・・・)

 クリスはそう思いながら、

 愛想笑いを浮かべていた・・・。



 ――次にクリスは、ユキを連れて、

 ゼニー商会が運営している児童保護施設を訪れた。


 二人の姿を見るとすぐ、

 子供たちは嬉しそうに集まってきた。


「あ、クリスだ!

 ユキも一緒だぞ!」


「お兄ちゃん久しぶり!」


「ユキ、元気だった!?」


「ねえ、遊ぼあそぼ!」


 何度か様子を見に来ていたが、

 新しい従業員の元、施設の子供たちは元気に暮らしている。


 その日は、一日子供たちと過ごして、日が暮れた。


 帰り際、子供たちは皆


「またねーっ!!」」」」

 と、手を振って見送ってくれた。



 ――最後は、ギルド受付のレナだった。


 クリスだけでなく、

 パーティー全員が、彼女の世話になった。


「寂しく・・・なりますね」

 そう言って、本当に寂しそうに微笑むレナ。


 だから、出発前日クリス達は、

 レナとのお別れ会が決まった。


「カンパーイ!!」」」」


 おなじみ冒険者ギルド提携の食堂で、

 クリス達はレナと杯を重ねた。


 といっても、クリスはまだ酒を飲めない。


 リコは相変わらず禁酒中だ。


 なので果実水を飲んでいる二人だが、

 その目の前で、信じられないほどの速さで、

 酒の瓶が空になっていた。


「約束ですよぉ!

 皆さん、絶対この街に帰ってきてくださいよぉ!」

 真っ赤な顔で、泣きながらわめくレナ・・・。


 涙を乱暴にぬぐったせいで、

 顔の化粧が取れてしまっている・・・。


「なあ、クリス。

 レナさんって美人な大人の女性だと思ってたけど、

 スッピンは意外と・・・」

 そう、リコが耳打ちしてくる。


「うん、僕も思った・・・」

 と、クリスも同意する。


「意外と・・・可愛いよな」


「うん・・・」


「お前たち・・・、聴こえてるぞ・・・」

 と、シンに注意される。


 だが、酔ったレナの耳にはまったく入っていないようで、


「クリス、聴いてますかぁ!?

 リコもですよぉ!

 まったく・・・、リコちゃん、

 何でスカート履くのやめちゃったんですかぁ!?

 可愛かったのにぃ・・・!」

 と、わめき続けている。


「いや、俺に言われても・・・」

 と、リコ。


 それを聴いたクリスは、

 今はもういないもう一つの人格のリコを思い出し、

 少しほろ苦い気持ちになる。


「まあ、いいですけどね・・・。

 今の美少年リコちゃんも、それはそれで別の需要がありますし、ドュフフ・・・。

 同じ美少年のクリス君との新たな絡みも、むしろ見る人の想像をかき立てて・・・」


「いい加減にしろ、レナ・・・」

 妄想をたくましくするレナに、

 呆れたようにツッコミを入れるシン。


「あいた!

 何するんですかぁ、シンさん!

 か弱い乙女に暴力をふるうなんてぇ~!」


「誰がか弱い乙女だ・・・」

 シンがそう言うと、

 レナは今度は、白狼のユキに抱きついて絡み始めた。


「ユキさ~ん!

 シンさんがひどいんですよ~!

 冒険者がギルドの職員に乱暴しました~!

 同じパーティーとして、責任取ってくださ~い!

 モフモフで慰めてくださ~い!!」


 ユキは、レナの酒臭さに顔をしかめながらも、

 大人しくされるがままになっている。


「大人だな、ユキは・・・」

 と、つぶやくリコ・・・。


「うん、今のレナさんよりはね・・・」

 と、答えるクリス・・・。


 会は深夜まで続いた・・・。



 ~~~~~~~~~~~~


 ――翌日、


「いよいよ出発ですね」

 昨夜の事など綺麗さっぱり都合よく忘れたレナは、

 いつも通り、ギルドの受付に立っていた。


 いかにも仕事のできる、大人の女性という態度で。


「はい、レナさんもどうかお元気で!」

 そう言って、クリスはカウンター越しに握手を交わす。


 ――心の中ではあきれ顔で・・・。


 続いてリコ、シンも挨拶をかわす。


「レナさん、本当にありがとうな!」


「酒はほどほどにな・・・」


 最後にユキがカウンターに近づくと、

 レナは優しくその首筋をなでる。


「ユキさん、クリスさんといつまでも仲良くね」


 ユキは身振りで挨拶する。



 ――そろそろ、旅の馬車が来る。


 出発の時間だ。


 ギルドをあとにするクリス達に、

 レナはカウンターから手を振る。


「行ってらっしゃい!」

 と。


 クリス達も振り返って答えた。


「行ってきます!」」」」

 と。



【第一章 完】



 _______________



 閲覧ありがとうございます!


 そして・・・、


 これで、ひとまず物語は終了です。


 ただ、まだ主人公の実家の事など、

 未解決なイベントがまだあるので、

 ひょっとしたら、そのうち次の章が始まるかもしれません。


 とりあえず一旦、

「俺たちの冒険はこれからだ!」

 という事で・・・。


 ここまでお付き合いくださった神々の皆様、

 本当にありがとうございました!!


 


 ――この物語によって、読者参加型の作品が増えますように・・・!
















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『神々』と紡ぐ物語  NOみそ(漫画家志望の成れの果て) @botsunikomi

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