第34話 元貴族の冒険者、新しい朝をむかえる

「これでお別れなんだ、クリス君」

 深夜、宿屋のベッドの上、

 クリスの腹部に顔を埋めたままリコは言った。


 少年ではないもう一つの人格・・・、

 スカートが似合う妖しい魅力を持ったほうのリコが。


 そのリコがもうすぐ消えようとしている・・・。


「そんな・・・待ってよ!

 せっかくまた逢えたのに、お別れなんて・・・」

 先ほどの再会とはまったく違う理由で泣きそうになるクリス。


 そんな彼の腹部から顔を上げ、

 リコは静かに微笑んでみせた。


「ごめんね。

 でも、もうは死んでいるんだ。

 残りの時間も・・・もう・・・」


「でも!

 君が消えたら、のリコはどうなるのさ!

 を守るために君が生まれたんだろう!?」

 リコの肩を揺さぶりながら、クリスはまくしたてる。


 既にその顔は涙でぐしゃぐしゃだ。


「もう彼にわたしは必要ないよ。

 クリス君、わたしが君に救われたあの日からね。

 君やシン、ユキが一緒なら、あっちのリコも楽しくやっていけるよ」


「リコ・・・」


「わたしも・・・楽しかった・・・。

 幸せだったよ・・・」


 流れる涙をぬぐう事なく、

 クリスはリコを見つめ続けた。


 その最期の姿を忘れないために。


 リコのほうが先に、クリスの頬に口づけした。


 クリスも同じようにリコの頬へ・・・。


 まるで、別離の儀式のように・・・。


「あっちのリコの事よろしくね・・・。

 あれでなかなか傷つきやすい奴だから・・・、仲良くしてやってね・・・。

 親友として・・・」

 そこまで言うと、リコは前のめりにクリスの肩にもたれてきた。


 そして、肩越しにリコの静かな寝息が聴こえてきた。


 その寝顔だけは変わらなかった・・・。



 ~~~~~~~~~


「え!

 何だよこれ!?」

 翌朝目が覚めた時、リコは自分が裸で寝ている事に愕然としていた。


「な、何でこんな・・・。

 しかも何でクリスのベッドに・・・」


「あ、おはようリコ」

 混乱しているリコに、から声をかけるクリス。


「あ、あれクリス?

 お前何で俺のほうのベッドに・・・」


「リコがまた酔って、僕のベッドに入り込んできたんだよ。

 だから僕はこっちのベッドに移動したの」


「そ、そうか・・・、ごめんな・・・。

 もう飲んでも大丈夫だと思ったんだけど・・・」

 そう言って、反省するように頭をガシガシとかくリコ。


 その仕草と表情は、少年のそれだった・・・。


「何だクリス、

 なに泣いてるんだよ?」


「え?」


 リコにそう言われて、

 クリスは自分の涙に気づいた。


「ていうか、眼も赤いぜ。

 悲しい夢でも見たのか?」


「・・・ううん」

 と、クリスは言った。


「楽しくて幸せな夢だよ」


【つづく】



 _______________



 閲覧ありがとうございます!


 そして・・・、


『いよいよ他国へ向けて出発のクリス達!

 最後にこの街でやる事は!?』


 どうか、この先にあるコメント欄にて、

 あなたの中に浮かんだアイデアをただ一言お贈りください!


『あいさつ回り』とか、『お礼参り』とか、『リコと二人で娼館へ!』とか・・・。


 なるべく、この最新話を読まれただけで参加可能な文章内容とお題にしましたので、

 どうぞよろしくお願いします!






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