独楽(こま)踊りの子ども

鹿角まつ(かづの まつ)

独楽(こま)踊りの子ども

  まだ幼い、七つになる子がいた。


 その子は、読み書きを習ってもついていけず、村の同い年の子にばかにされた。

 家でも、畑仕事をやらせても薪割まきわりをさせても下手で、

 親兄弟がいろいろ骨を折って教えるのに、なかなか働き手として使えるようにならなかった。


 ある日その村から、若い者が労働に駆り出されることになった。

 大名からのおふれで、村はずれにある谷に橋をかけるため、人手が集められたのだった。


 まだ年端としはのいかないその子も駆り出された。


 しかし待っていた仕事は、

たとえ大人でも大変たいへんな力仕事ばかりで、

その子は失敗しては、気の荒い親方に怒鳴どなられてばかりいた。

 

 ある日ひと仕事終わった後、その場で酒盛さかもりになり、

その子は体の大きい人足達にんそくたちに、さんざんからかわれた。


女ものの着物きものを着せられ、

顔にはおっきく紅い丸を両方のほほに落書きされ、頭に笠をかぶせられて、

こぞう、なにか踊れとはやされた。


 人足達にはとても逆らえず、かといって知っている踊りもなく、

困り果てて、仕方なしにその子はその場でくるくる独楽こまのように回った。


 ぐるぐるぐるぐる、そのうち回り回る風景の中に小さい火がちらちらと、

その子にだけ見えた。


 人足達も、はじめのうちこそおもしろ半分で、

下品にはやしたてていたが、

見ているうちにその子どもの猛烈に回る様が、変にこわくなってきた。


 その子が、がけすれすれの所で踊っていたことに、誰も気づかなかった。


 子どもは回っているうちに足をすべらせて、あっという間にがけから谷底たにぞこ

 落っこちてしまった。

 人足たちがこわごわ下をのぞいたが、その子どもは影も形もなかった。


その場にいた者たちは、何か大変なことをしてしまった気がして、

誰も口をきかなかった。


そののち、橋は完成した。


そしていつからか、子どもの落ちた近くに小さなつかがこしらえられ、

ぼんになると、村のものがそこで祭りをやるようになった。

帯に五色の布をたらした華やかな衣裳を身に着け、笠をかぶって輪になって、くるくる踊るそれを、

村に住む人は独楽こま踊りと呼んで、今でも踊りつがれている。

         

                           おわり



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独楽(こま)踊りの子ども 鹿角まつ(かづの まつ) @kakutouhu

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