第2話 朝の茶番劇

 俺が王女様の元で護衛を始めてから1週間がたった。


 その間、特にこれといったことはなかったが、王女様はなんと、来週から学園に通うらしい。王女様の専属ボディーガードである俺も同様に通わねばならないとか。


 まぁ、同い年なのでそこは別に気にしていないが。学園の名前はなんと言ったか……そう、確か「王立魔法学園」みたいなそんな大層な名前だった気がする。


 俺が浮きまくる感じがバンバンする。むしろ浮かない方がおかしい。


 まぁ、そんな先のことはどうでもいい。今は、この快適な王城ライフがあるのだ。


「ロイ様。朝でございます。起きてくださいませ」


 そう、控えめなノックと共に俺の部屋に入ってきたのは、俺の専属執事セバスチャンである。


「起きてる。おはよう、セバスチャン」

「ロイ様。私めの名はチャン・セバスでございます」

「すまない、チャン・セバス」



 チャン・セバスの淹れたコーヒーを啜りながら、俺は超絶でかい窓の外を眺める。この国では、護衛人でしかない俺でも専属執事がつくらしい。好待遇である。


 この王城に来て気づいたことが2つ。


 1つ目は、ベッドの寝心地がとてもいいということ。


 旅人をしていた俺からしてみれば、木の上の幹て寝るなど日常茶飯事。だが、ここにいれば毎日ベッドで寝れる。最高である。


 そして、2つ目は上手くやれば、護衛人の仕事をサボれるんじゃないかということ。


「チャン。今日の俺の予定はどうなっている?」

「はい。ロイ様がどうしても、どぉおおおおおしても出なきゃまずいという予定が1件。午後2時からの、王女殿下の市場視察でございます」

「なるほど。それはいなきゃマズイな。他は?」

「ありません。ロザリー様をからかって遊びましょう」

「さすがだ、チャン。楽しみだな」


 さすが、王城で働く執事である。俺のしたいことを言わずともわかっている。


「しかし、どうやってロザリーで遊ぼうか……」

「勉強している最中に冷水で背中を濡らす、というのはどうでしょうか?」

「それだ! 素晴らしい! 素晴らしいよ! チャン!」

「素晴らしいわけありますか!」


 あまりの名案に俺が興奮していると、ドアをバンッと開けて当のロザリーが入ってきた。


「何をサボろうとしているのです! しっかり働きなさい!」

「断る」

「ふざけないでください! あなたは誇り高き王女殿下の傍付き護衛人なのですよ!? もっと自覚を!」

「はいはい」

「はいは1回!」


 なおもうるさく言ってくるロザリーに、俺とチャンが耳を塞いで聞こえないふりをしていると、ロザリーは俺の方を見てあからさまにため息を吐いた。


「まったく…………王女殿下はどうしてこんな得体の知れない魔族を……っ、いえ、なんでもありません」


 そう言いながら、俺から気まずそうに目線を逸らすロザリー。


 ほう?


 俺を気遣って……ではもちろんなかろう。だったらビビる。


 では何故か?


 恐らく……王女様から禁止されているのではなかろうか。……俺のことを魔族呼ばわりすることを。


 なるほど、面白い。


「ロザリーちゃんロザリーちゃん」

「いきなりなんですか気持ち悪い。死んでくれますか?」


 魔族呼ばわり以外の罵倒はお咎めなし、か。ふふっ、……後で布団濡らしてこよ。


「いや……ね? ロザリーちゃん、今俺のこと魔族に分類したよね? これ、王女様に言ったら面白いことにならない? 隠したいよね?」

「くっ…………どうしろと!」


 面白いくらいに悔しそうに顔を歪めるロザリー。


「俺が知ってる謝罪方法の一つに、ドゲザーというものがある」

「ドゲザー? なんですかそれは」

「極東に伝わる謝罪方法らしい」

「それを私にしろ、と?」

「話が早くて助かる」


 昨今の女騎士のように「くっ!」と言いながら後ずさるロザリー。


「しかし、私はそれを知らないのですが」

「仕方がない。教えてやる。……まずは両膝を地面につくんだ。痛いから気をつけろよ? ゆっくりでいい。……そう、いい感じだ。んで、次は手を膝の前について…………違うな、よし。お手本を見せてやる。こうして……こう!」


 ロザリーの目の前できっちりとドゲザーのお手本を見せる俺。


「こっ、こんなポーズを私にしろと!?」


 悲鳴混じりの声で叫ぶロザリー。


「いや、これで終わりじゃない。最後にひとつ、スパイスを振るんだ」

「スパイス…………ですか?」

「そう……こう言う。……ナマ言ってすみませんでした! …………って何やらせてんだこら!」

「私は何もしてませんが!?」

「……2人とも、仲がいいのは結構だけど、そろそろボク、城下に行きたいんだけど」


 ロザリーの目の前でドゲザーを敢行する俺に、ノックもせず入ってきてジト目を向けてくる王女がそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 16:03 予定は変更される可能性があります

魔法大国の王女様の傍付人は、魔法の使えぬ魔剣士の俺。 ストレート果汁100%りんごジュース @apple_juice_0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ