魔法大国の王女様の傍付人は、魔法の使えぬ魔剣士の俺。

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第1話 魔法の使えぬ傍付人

「汝、騎士、ロイは」


 どうしてこうなった。


 しゃがみこんで左膝をつき、右手を左肩に当てながら頭を垂れるという忠誠を誓う騎士の姿勢のまま俺は思考していた。


 今、俺はとある国のお城の社交場のようなところにいる。左後方、そして右後方にはこの国の重鎮であろう人たちが並んでおり、俺の目の前には一人の少女。そしてその少女の後ろには王冠を被った男がおり、彼が俺に向けて言葉を発している。


 フラッと通りかかった国の王都のギルドに「王女様の付き人募集」という面白そうなり紙を見つけた俺は、興味本位で応募してみたのだ。どうせ弾かれることを知っていたから。


 しかし、俺は1次予選で弾かれることもなく、トントン拍子で勝ち進んで迎えたトーナント形式の本戦。その中で勝ち残った4人の中から、王女様が直々に指名することで付き人が決まるという仕組み。俺はそこに残った。


「いかなる時も主君であるミクス・ウェルベス・アルサードを身命を賭して守ることを誓うか?」


 いや、残ったことはいい。1次予選で弾かれなかった時点でここに残ることは分かっていた。分かってはいたが……。


「この命、この剣。今より全てあなた様のものです」


  まさかその4人の中から俺が選ばれるとは夢にも思っていなかった。


♢


「ふ〜、疲れた疲れた」


 場所は変わって王女様の私室。とにかく何においてもバカでかい。明らかに部屋のスペースがおかしい。王城に来るまでに見た街中の家一軒分くらいのスペースは優にある。


 まず、なんといっても目を引くのはベッド。でかい。無駄にでかい。もしかしなくても誘っているのではないかと思わせる大きさである。


「全く、ああいつのは堅苦しくて疲れる よ、君はどう? 疲れていない? ……あれ、もしもーし、何考えてるの?」


 ベッドに吸い込まれてた俺の意識を、王女様が俺を覗き込みながら引き戻した。


「いや、俺のことを誘っているのかなと思って」

「本当に何考えているの!?」


  両手を身体を抱きかかえなから化け物にでも会ったかのように後ずさりする王女。


 銀髪のショートカットで、くりくりっとした大きく綺麗な目。身長は俺より大分下の160cmくらいの小動物のような見た目の少女。


 これが俺がいる国、アルザード王国国王の娘、ミクス・ウェルベヌ・アルザードである。つまりは王女様であり、 俺がこれから仕える主人だ。


 ちなみにかわいい。すごくかわいい。


 一目見た瞬間、俺の心は打ち砕かれるかと思った。俺の強靭な精神力がなければ、バラバラになっていたであろう。 やれやれ、危なかったぜ。ちなみに、もう射抜かれてはいる。


「失礼します。 王女殿下。…………王女殿下 ?」

「い、いやなんでもない。 なんでもないよロザリー。それで、どうしたの?」


 王女がロザリーと呼んだのは、控えめなノックをして入ってきた女性のことある。


 メガネがよく似合っており、 真面目ちゃんオーラがぷんぷんとする。後、でかい。めちゃくちゃでかい。俺が胸を凝視していたせいか、ロザリーが俺の方をキッとにらみつけてから王女に向き直る。


「お言葉ながら申し上げます。王女殿下、殿下の傍付き護衛人が2級魔法士ではない、というのは理解できます。しかし、しかし!  その護衛人がたった一つの魔法も使えない『愚者』であるとは、誰が認められましょうか!」


  ものすごい剣幕でまくしたてるロザリーに、王女の眉がピクリと動く。そう。俺が1次予選で落とされると思った理由はこれである。


  アルザード王国は魔法によって栄え、魔法によって成り立った魔法王国である。


 アルザード=魔法のイメージがつくほど、この国への魔法のイメージは強い。


 そして、俺は100万人に1人の確立でしか起こらないと言われている「魔力回路循環障害」を患った、魔法が使えない人間である。


 魔法大国なこの国において俺の地位は家蓄未満。ロザリーの言うことはもっともである。


「でも、誰よりも圧倒的に強いのはロザリーも 知っているでしょ?」


「ですが、この男は素性の知れぬ魔剣使いです! きっと魔族に違いありません!」


 魔剣。 それは、魔族の王たる魔王が作った剣のことだ。魔剣には恐ろしいほど強力な効果が付与されている、持っただけで無限のパワーが湧き出てくるとも言われている。


 では、何故人間は魔剣を使わないのか。


 答えは単純。


 使えないのである。


 魔剣の力を使うには、それ相応の魔力を魔剣に捧げる必要がある。よって、人間の少ない魔力では1分ともたないのだ。だから膨大な魔力を持つ魔族以外魔剣は使えない。


 そして俺は魔族ではないが魔剣は扱える。ちょっと身体が特殊なのだ。


「確かに、ロイの素性の知れない。でも、ボクは契約の魔法を使った。これでロイは僕に危害を加えれない。それに、ボクには彼が人に危害を加えるような魔族には見えないよ」

「しかし……!」


 未だ渋るロザリーに王女はにっこりと笑う。


「ボクの目そんなに信用できないの?」

「ッ……いえ、そんなことは」

「じゃあもう話は終わりだね。…………これからよろしく。ボクの騎士様」

「あぁ。ちゃんと給料は払ってくれよ」


これが、俺とお嬢の初めての邂逅であった。

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