第33話 大襲撃 ーamoeba(6)ー

「1」

 そう言うと、奴らと俺たちの地面に大きな裂け目が入る。

「金が欲しいやつから、その線を超えてくるがいい」

 俺はそれだけ言い、再び集中した。

 とはいえ、その程度でくるほど奴らの心は浅くはないだろうと確信していた。

 そうおもっていたのだが...


 案外、挑発されると腹立つらしい。

 3割ほどがこちらに突っ込んできた。

「その口剥ぎ取ってやるよぉ!!」

 そう言う雑兵。

 だが、そんな脅し文句で後ずさるほどここにいる全員が場慣れしていないわけではない。

「ナギくん、ここは私に任せてもらっていい?」

 アルラが口を開く。

 だが...

「いや、アルラ、お前はすぐに下がれ」

「なんでなんで〜?」

「...見せたくはなかったな」

 俺の視線をアルラが追い、それを見つけると、アルラは固まった。

「...」

 そこには、つい最近まで酒を飲みあったかつての仲間が─

 敵として、こちらに突っ込んできていた。

 アルラの様子を窺うと...

 顔が曇っている。相当ショックな様子だ。

 だが、これで戦闘不能と判断はしない。危機が迫れば反射的に反撃するだろう。

 とりあえず、傷心中のアルラを放って、俺は目の前の輩どもに集中する。

「ゼン、君に重要な命令を下す」

「...」

 ゼンは俺を見ると、嫌な顔をしながらも、跪いた。

「なんなりと」

「これからお前と俺は別行動を取る。俺は程よいタイミングでここを離脱する。奴らに関しては彼らを元に戻す。お前には探索者のランクを上げながら、魔都に向かってもらいたい。シハル、レーゼ、ジーク、テリアを連れて行け」

「はっ」

 俺は淡々とゼンに告げた。

 武人である彼だろうから、しっかりとこの命令を遂行してくれることだろう。俺は彼の武人故の性格を信じることにした。

 ──また切られないといいが。

「情報交換に関しては、俺が文鳥に手紙を持たせて飛ばすから、そいつに手紙を預けてこちらへ送り返すこと。お前の判断であれば、俺に損が行かない範囲であれば独断でいい」

「はっ」

 そろそろ衝突が始まるだろう。

 俺はを改めてとった。

「2」

 瞬間、1人の首が飛んだ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 悲鳴がその場に響く。

「向かうなら死を覚悟してからくるのが常識だと言うのに...こいつらはまるでなってないな」

 悲鳴を聞きながら、独り言を言っていた。

 しかし、これでも俺は動じない。

 なにも思わない。

「3」

 またカウントが進む。

 俺は子供の頃を思い出す。

(あの頃の平和ボケした俺なら...)

 何を考えているんだか。

 仮定などは虚言に過ぎない。

 未来こそが真実を述べる。

「4」

 また一つ、カウントが進む。

 この世界に来て、まだ数週間ほどだが、濃い生活を送れて、嬉しい自分がいる。

 なぜかはよくわからない。

 ネプラスも悪くない町だ。

 むしろここに永住したいまである。

 それほど、ネプラスは住み心地が良かった。

「5」

 正面に目を向ける。

 ゼン、レーゼ、シハル、アルラたちが戦っている。

 俺を守るために、命を賭して。

 この詠唱中俺は何もできないとは一言も言っていないが、それでも、俺を守るために戦ってくれている。

 なんて素晴らしい忠誠心か。

 なんて素晴らしい...


 最高の手駒たちだろうか。


「6」

 笑いは止まらない。

 止める必要もない。

 止める権限はこの場にいる誰もが持ち合わせていない。

 なんと滑稽なことか。

 レーゼはまだまだ教え込む必要があるし、シハルは俺への信頼は固いものだろう。ゼンは俺を信じきっていないが、心が武士である以上、俺の命令は死してなお遂行するだろう。アルラは...よくわからないが、俺に心から依存しきっていると考えてもいいかもしれない。

 だが、俺は誰も信じない。

「7」

 この辺りから制御が難しくなってきた。

 なので、敵方に俺のすることがバレてしまった。

「...あいつを止めろ!馬鹿なことをさせるな!!」

 全員が俺を必死に止めにくるが、アルラたちが抑えこんでいるおかげで安心して構築できる。

「8」

 この世には、強者と弱者がいる。

 至極当然のことだ、世の摂理だ。

 そうでないと成り立たない。

 強者と弱者がいない世界など、矛盾も甚だしいくらいだ。

 例えば、の話だ。

 学校では、いじめが存在する。

 なぜ?

 それはいじめる側は自分は強いと、自分に暗示をかけて、それを周りに肯定させたいから。

 自分は強いものだと、周りに誇示したいから。

 だからいじめられている側にいじめを黙るように言う。

 傍観者も、その強さを黙認するように肯定し、その矛が自分に向かないように動く。

 いじめられている側は、自分は弱いと思い込み、何も抵抗せずに現実を受け入れる。

 これが人間社会を縮小した学校で行われているなんて、なんともいい話だ。

 大人の世界を擬似体験できるのだ、これほど有意義なことはない。

 俺も、弱者だったから。

「9」

 弱者であることは変わらない。

 なら、強者になれるのか?

 なれるのかではない。

 努力すれば誰でも強者になれる。

 『窮鼠猫を噛む』という諺があるように、弱者でも、強者の首を掻き切ることはできる。

 そう、努力をする。

 努力して、

 努力して、

 努力して、

 努力して、

 努力して、

 努力して、

 努力しテ、

 ド力して、

 努力シて、

 努力シテ、


 努力を重ねて、俺は強者の首を掻き切った。

 弱者が強者に打ち勝った瞬間である。

 なんと素晴らしいことか。

 その瞬間に、立場は逆転し、俺が全てを掌握した。

 梓のためだ。

 人は大切なもののためならば、なんでもできる。

 そう、なんでもだ。

 俺はそれを信念とし、強者を徹底的に叩き潰した。

 全てを支配するまで、一年かかったが。

 改めて言おう。

 弱者が強者に打ち勝つには、口と脳、そして何にも遮られることのない拳さえあれば十分だ。

「10」

 風がすごい。

 魔法をまともに詠唱したのは今回が初めてだ。

 日本で異世界モノを読むと、魔法を使う時よく風が吹き荒れていたが、あれは本当だったのか、と今更感心していた。

 もう間に合わない。

 全ては手遅れだ。

『魔法陣、展開』

 そう言った瞬間、空に超大な魔法陣が展開される。

「...複雑すぎる...2...いや、5...?」

 何個の魔法陣が重複していることだろう。だが、もうそれはどうでもいいことだ。

 俺は胸の前で手を合わせる。

「これから奪うすべてのいけるものに、永遠の安寧を...」

 そのあとに、その魔法陣にカウント中に練っていた魔力を流し込む。

 そして...


天穹ロアーショック


 もう、何も間に合わない。

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エルフと歩む異世界譚〜二つの時代を生き抜いた高校生、この世界を変える〜 @rt6c

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