第32話 大襲撃 ーamoeba(5)ー
「教えるのはいいんだが、まずは囲まれてるからそいつらの撃退だな」
「あ、そうそう、今囲まれてる奴ら、ただの魔物じゃないからね」
いきなり囲まれていることを言い出したので、各人に動揺が走る。
「いつ気づいたの?」
「最初から。何ならいつ襲われてもおかしくなかったんだぞ?」
シハルの問いに淡々と答える。だが、それだけでこいつらが襲ってこないとは限らない。
「どうするか...」
「すまない、口出しするようで申し訳ないし、我々が口出しする立場でもないと思うが言わせてほしい」
ジークが口を開く。
「私たちなら、奴らに気づかれずに殲滅できる」
「それは本当か?」
俺は彼らの話は信用できないが、一理あると思った。
彼らは俺が知り得ない魔法を行使した。なら、そのような芸当も可能かと思った。だが。
「だからと言って、お前らを信用して魔法を行使するわけにはいかない」
「ですが、この場を切り抜けられます。取引しませんか?我々はこの窮地を脱したい。私たちは魔法を使って奴等を殲滅します。なので、我々を奴隷として扱わないでいただきたい。如何か?」
俺は考え込む。取引としてはもっともなものだろうとは思うが、思うところはある。相手が触れないならこちらも触れなければいいが。
「だがいいのか?お前たちに魔力を供給できるだけの...」
「それに関しては問題ない...すでに回復しきった」
「テリア様」
ジークは跪く。
「ここは我々に任せてもらいたい。その代わり、我々を奴隷のように扱わないでいただきたい。よいか?」
「いいだろう。取引成立だ」
俺はそう言った。彼がそう言うなら問題はないだろう。
“魔法回路構築開始...完了”
“魔力充填開始...完了”
彼らの足元に、魔法回路、俺が日本にいた時代でいう魔法陣が浮き出る。
“行使者に魔力の譲渡を申請”
「許可する」
“詠唱開始”
「────────」
何と言っているのかよくわからない。
だが、とにかくすごい魔法を行使していることはわかる。
「複合魔法:
そう唱えた瞬間、地面が揺れる。
と同時に、あたりで地面が蠢いているように見える。
おそらくは、そこにいる地面を隆起させて攻撃手段に利用しているのか、あるいは...
「地面自体を生成しているのか」
ジークが倒れる。
よほど大規模な魔法を行使したようだ。
「大丈夫か?」
「大事ない...」
俺の問いに素直に答えるジーク。これなら大丈夫そうだ。
「さて、さっきも言ったとおり、アルラ、テリア、ジークの3人を仲間として連れて行くから、仲良くしてくれよ?」
返事はない。
なぜだろうか。
「まあいいさ。とりあえず出立の準備をするぞ。街に戻る」
「私の仲間たちも面倒見るの?」
「できればそうしたいが...ゼンたちに任せようと思ってる」
「そーなの?」
アルラは冷ややかな目をゼンに向ける。
「私としては信頼し足りないんだけどなぁ...」
「まあ俺も実質信頼なんてないもんだ。何も裏切ったからって首をすぐに斬り飛ばすほど俺も堕ちちゃいないさ。一回ぐらいは許すつもりでいる」
「へぇ〜」
アルラが上目遣いでこちらを見てくる。
「甘いね?」
「アルラ、怖いね」
「そうかな?結構優しい方だけど?」
「じゃあそういうことにしておくよ」
俺は一拍置いて話し出す。
「まあ、まだ俺に人間らしさが残っているっていうことかな...」
「どういうこと?」
「さっき言ったろ?俺は人間だって」
「いったね」
「こっちに来たからってあいつらに敵対したわけじゃないし、かと言ってあいつらのやり口に賛同できるわけでもない。ただ、俺が正しいと思った道を進むのみさ」
「ふーん...」
アルラはそこいらを歩き回り、また言う。
「やっぱり甘々だね。いつか足元を掬われるよ?もっと非情にならないと」
「まだまだ俺も甘いってことか...まあ信用するつもりは微塵もないが」
「そんなんだから妹たちが...」
アルラはそれ以上言葉を発することはなかった。首筋に得物を突きつけられたからだ。
「次その話を俺にしたら...首が独立するぞ」
「わぉ、怖い」
アルラは両手をあげて言う。
「わかったよ。私が悪かった。未来のパートナーに殺されるなんてたまったものじゃないから、それ鞘に収めてくれないかな?」
俺はしばらく考え込み、突きつけたものを鞘に収めてこう言う。
「じゃあ、結婚はしばらく後でな」
「えー!今すぐが良い!!」
「アルラ、これが勝者の特権だぞ」
「うー!何も言えないのが悔しい!!」
そんなこんなで口論を続けていた。
──ネプラス正面門前──
「どう言うことか聞かせてもらいたいんだが...」
俺たちは街に戻ろうとしたが、大量の集団が行手を阻んでいた。
「それは私から説明するよ」
ギルドマスターが口をひらく。
「実はね、君を捕らえて魔都に送り届けるように言われているんだ。それも...」
それと同時に、ギルドマスターが一気に殺意を発する。
「生死を問わず、ね」
「...」
多分、大量の集団は住民・探索者とわず、ネプラスの民ほぼ全てなのだろう。それほど俺にかかった賞金は計り知れないものなのだろう。
「さて...それではナギ。私たちは投降してくれると、双方のためになると思っている。どうかね?」
「愚問だろう」
俺は、ゆっくりと剣を抜く。
「俺は俺の道を行かせてもらう」
「...この手段はなるべく取りたくなかった」
ギルドマスターはそう言うと、采配を取り始める。
「各員、戦闘体制!」
全員が、武器を携え、戦闘体制を取る。
しかし、誰も逸らない。
ここはさすがというべき判断力ではあると感じているが...
「悪いが俺たちもとある事情からあんたらに捕まるわけにも行かなくなったんだ...忠告だ、そこを退け」
俺は少し威嚇するように、魔力をぶつける。
「すまないがこれも上の命令でね...逆らうわけにもいかないよ」
どうやら向こうにもそれなりの事情があるらしい。だがその程度で止まる理由にはなりはしない。
なりはしないのだ。
「────」
俺は腰に携えている刀を手に取り、静かに構える。
これからは...
「1」
全てを断ち切る。
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