49 再生

「ミングル君、私が道を切り開くから君はそこから逃げなさい。今から放射状に火焔を放つ」

「そんな、それじゃユキナガ先生はどうなるんですか!? 俺が囮になりますから、先生こそその間に……」

「馬鹿を言うな! 私の使命はあらゆる生徒を教え導き、そして守ることだ。君さえ助かればそれでいい!!」


 ユキナガはそう叫ぶと、自らを包囲する屍型魔獣の群れに向けて放射状の火焔を放った。


 莫大な魔力から放たれた火焔に目の前に群がる屍たちは焼き尽くされ、ミングルは意を決して開かれた道へと走り出した。



 しかし……



「ううっ、ぐっ、まただ、また魔力が……」

「ミングル君! この状況では致し方ないか……!」


 攻撃魔術と魔獣の群れが生じる魔力の影響を受け、ミングルは再び魔力暴走を起こしていた。



「ウー! ウウー!!」

「邪魔するな! ミングル君、今助ける!!」


 唸り声を上げて襲いかかってきた複数体の屍を疾風の魔術で吹き飛ばすと、ユキナガは右手を直接ミングルの前胸部へと押し当てた。


 暴走する魔力の全てはユキナガの体内の魔術経脈へと流れ込み、この瞬間にミングルは持てる魔力を全て放出した。



 そして体内に魔力が流れ込んできたことを確認し、ユキナガは叫ぶ。



「攻撃魔術……雷撃掃討!!」


 ユキナガの全身からほとばしる魔力は雷撃と化して天に昇り、そのまま周囲へと降り注いだ。



「グァー!!」

「グギィィィ!!」


 降り注ぐ雷撃は周囲に群がる屍型魔獣に直撃し、全ての屍は叫び声を上げながら焼き尽くされた。



 そして……



「ユキナガ先生! 大丈夫ですか、すぐ施術院に運びます!!」

「ああ、心配しなくていい。私はもう助からないから、今のうちにこの場を離れてくれ。また、屍が出てくること……も……」

「先生っ!!」


 雷撃掃討を放った直後に失神したユキナガを抱え起こしたミングルだが、ユキナガは自分の生命はもはや尽きたということを直感的に理解していた。


 魔力暴走を起こすほどの莫大な魔力は、元より莫大な魔力を宿しているユキナガの魔術経脈であっても吸収し切れない。


 ユキナガは高度な攻撃魔術である雷撃掃討を放つことで自らの魔術経脈を安定させようとしたが莫大な魔力は雷撃掃討を放つと同時にユキナガの体内で暴走し、その生命力の大半を奪っていた。



「そんな、そんな……俺のせいで、俺がこんな所で先生を殺そうとしたせいで、何も悪くないユキナガ先生が……」

「今更後悔しても、仕方がないだろう。……君は罪に問われるかも知れないし、そうでないかも知れないが……どうあっても……」


 既に声を出すことも難しくなったユキナガは、か細い声で教え子に最期の言葉を投げかける。



「君の人生に責任を持てるのは……君だけしかいない。……だから、君はこれから、自分自身の人生を再生するために生きるんだ。それが、私の……最後の……」


 そこまで話した瞬間、ユキナガは絶命した。


 そしてその瞬間にユキナガの身体は消滅し、その場にはミングルだけが残される。



「あれ……俺、何でこんな所にいるんだ? でも、俺はとんでもないことを……」

「大丈夫か、ミングル! 何か騒ぎがあったようだが、どうしてこんな所にいる」

「ノールズ先生! あの、俺はここに一人で来たんですか?」

「何を馬鹿なことを言っている。お前はさっき……ん? おかしいな、誰か連れて行ったような気がしたんだが。まあいい、物騒なことにならない内に帰るぞ。今からご両親を魔呪進館に呼んで面談をやるからな」


 集合墓地から聞こえてきた爆音に驚いて駆け付けたノールズは、卒業生でありエンペリアル魔術学院で留年を繰り返しているミングルを校舎へと連れて行った。


 ミングルは自暴自棄になって今日校舎までやって来たが、ノールズの計らいによりこれから卒業生を相手とする初の面談が執り行われることになっていた。




 魔術師であり中央ヤイラムの魔術兵団を退職して教育業界に転身したノールズはある日突然受験指導者としての才能に目覚め、異世界エデュケイオンに大陸初の魔術学院受験専門塾を成立させた。


 講師たちやチューターの尽力もあって「オイコット魔呪進館」はその後も魔術学院・呪術学院への合格率100%を維持し、競合他社が複数現れてもその地位は揺るがなかった。


 彼の栄光を支え続けた転生者ユキナガが存在した証拠は、既に大陸のどこにも残っていない。



 そして……

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大和田行長の無限転生記 ~異世界受験ゴールデンメソッド~ 輪島ライ @Blacken

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