第13話 結界

 門を抜けると、目に前にはいくつかの壁で覆われた区域があった。恐らくヒカル達がいた場所と同じような奴隷を働かせている区域だろう。そして、その奥の方に薄っすらと青白い薄い光の膜のドームの様なものが見え、その中に一際大きな外壁で囲われた区域があった。あれが都市だろう。


 ヒカルはユースティティアに確認した。


 (これからどこへ行けばいい?)


『まずは、壁を右手に沿って回り込み北東の方向へ向かって下さい。先には平原が広がっていますが、そのまま結界を抜けて分体の小鳥が作製した安全地帯を目指します』


 (結界って向こうにあるドーム状の奴じゃないの? それに小鳥にそんなこと頼んでいたんだ。さすがに仕事が早いね!)


 『都市の結界は2重結界になっており、これから向かうのは外側の結界です。安全地帯の作製は、逃亡案を確定時に分体に指令を出しておきました。魔素とモンスターの侵入を防ぎ、周囲から隠蔽された空間を作り出す結界を設置しています』


 (な、なんか凄そうな結界だね……魔素は足りるの?)


 『はい。分体が日中に集めた魔素と周囲の高濃度の魔素を吸収する事で、結界は問題なく展開出来ました。しかし、隠蔽の機能をつけるのには足りていないため、隠蔽は不完全です。周囲の魔素を常時吸収しているため、時期完成するでしょう。想定される完成時刻は2時間26分17秒後です』


 (そ、そっか……ちなみに、その結界はどのくらいの期間保つの?)


『結界は周囲に魔素がある限り半永久的に展開可能です』


 ヒカルはユースティティアの言葉に絶句していた。確かユースティティアは都市の結界は魔人が展開していて、それを維持するために魔人は都市を離れられないと言っていた。しかし、ユースティティアは小鳥を使い、間接的に魔素がある限り半永久的に展開出来る結界を展開したと言っている。しかも隠蔽の機能まで付いている。結界の規模は違うだろうが、ユースティティアの規格外の能力には驚かされる。


 『そろそろ都市の結界を抜けます。結界を抜けると魔素濃度が濃くなるため、ヒカルの周囲にも魔素の侵入を防ぐ結界を展開し、結界内に疲労回復の効果を付与します。少女たちにヒカルから離れないように警告して下さい』


 (あ、うん。分かった……疲労回復の効果……?)


 ヒカルはその新たな情報に頭を抱える一方で、自分たちの安全を確保するユースティティアの行動に安心感を覚えていた。


「ねえ、君たち。これから僕の周囲に結界を展開して、都市の結界を抜けるから離れないように注意して!」


 ヒカルがふたりに向かって自分から離れないように注意を促すと、ツリ子が懸念と不安のこもった声を返してきた。


「そう言えば門を抜けてからの事をよく考えていませんでした。私の記憶はまだ曖昧ですが、都市の結界の外は危険なのではないですか?」


 彼女の透き通った瞳に陰る、一抹の不安をヒカルは感じ取ることができた。

 

「……でも、もう構いません。どうせ私たちはあなたと逃げなければ殺される運命だったのですから……」


 ツリ子の言葉は淡々としたものだったが、ヤケに悲壮感を漂わせている。

 そこで、ヒカルは彼女を安心させるために出来るだけ明るく言葉を発した。


「安心してよ! 実は結界の外に安全に暮らせる場所を用意してあるんだ、それに僕は魔法が使えるんだよ? 結界も張れるし。僕に任せてよ!」


「安全な場所……? それは……ここから近いのですか? それに……そうですね。あなたも魔法を初めて見る事が出来たでしょうから、次はもっと上手く扱える事でしょうね」

 


 ヒカルがなんとか安心させようと試みるが、あまり信用されていないらしい。ツリ子の疑念と皮肉を含む、どこかトゲのある声が聞こえてくる。


 

 そのまましばらく進むと正面に薄っすらと青白く光の膜のようなモノが見えてきた。


『結界を展開します』


 ユースティティアの言葉と同時にヒカルの周囲に結界が展開され、ヒカルと少女たちを包み込んだ。しかし、それは目で見る事はできず、魔法を感知する能力に長けた者以外には認識出来ないものだった。


 そのためヒカルには結界が認識出来なかったためユースティティアに確認する事にした。


 (結界は展開されているの?)


『はい、結界は展開済みです。前方の結界にように発光させることも可能ですが、魔素を若干多く消費し、やや視界が悪くなるため発光させていません。結界はヒカルを中心に直径5メール程のドーム状にしてあります。3人とも小柄なため手を繋いでいれば結界外に出ることはないと思いますが、結界に触れそうな場合は結界を拡大させて対応します』


 (そっか、最初に魔法を使った時みたいに光も出なかったけど、結界は大丈夫なんだね)


『はい。魔法使用時の発光は魔素をエネルギーに変換する際に、過剰なエネルギーが光として放たれます。これまでの行動により、魔素の変換効率を最適化したため、演出以外では今後発光しません』


 (演出って……それより、魔素は大丈夫? またスリープモードになったりしない?)


『はい、この先の逃亡ルートに必要な魔素は既に試算を終えており、不足は出ません』


 (そ、そうなんだ、ありがとう。もうすぐ都市の結界だけど、このまま突っ込んでいいの?)


『はい。問題ありません』



 ユースティティアに確認を取ったヒカルは、少女たちに結界をこのまま抜ける事を告げた。


「このまま都市の結界を抜けるよ」


 少女たちが頷くと次の瞬間には都市の結界を抜けていた。



「都市の結界を抜けたけど、ふたりとも体に異常はない?」


 ヒカルの問いに少女たちはお互い視線を交わすとツリ子が答えた。


「ええ問題ないわ。むしろ結界を抜ける少し前から、息がしやすくなった感じがするわ」


 ツリ子の答えにタレ子も頷いている。



『都市の結界内は低濃度の魔素が含まれていました。魔素は人体にとって異物であり、若干ながら拒絶反応が起こり、エネルギーが消費されます。しかし、現在は魔素の侵入を完全に防ぐ結界を展開しています。そのため、魔素に抵抗するエネルギー消費が減ったため体が楽になったのでしょう』


 (確かに僕も少し感じていたけど、そんなに変わるモノなの?)


『はい。体力のある大人なら気にならないレベルですが、小さな子供や老人には影響が大きくなります。例えるなら、気温35度の部屋から22度の部屋に移った感じです』


 (なるほど、それは分かりやすい)



「それはね。都市の結界内には魔素が含まれていたけど、僕の展開した結界内には魔素が含まれていないから体が楽になったんだよ」


 と、ヒカルは今ユースティティアに聞いた知識を少女たちに披露した。



 それを聞いたツリ子は胡散臭い者を見るような目で黙ってヒカルを見ていた。

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転生奴隷 せっかく異世界転生したのに呪われた奴隷ってどう言う事!? しかたがないからアシスタントのAIに無双してもらう 玄野紺 @chrono_conductor

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