カオス・イン・ザ・ボックス ～サブイベ体質のお人好し吟遊詩人が癖つよキャラたちに振り回されるお話～

第52話

『はああああああ！！』

『おおおおおおお！！』

　殴りかかってくる巨大ゴーレム『最終決闘兵器カオスティック・ギルティアス』を前に、ドラゴンに乗った『メタトロン・MIXデュエリスト・アームズ』が軌道を描いて回避していく。

「あわわわわわわ！！？」

「よ、酔うんだぜ……！」

「ですわですわですわああああ！？」

　：デュエルってなんだっけ

　：信じる心さ！

　：おいデュエルしろよ

　両者との間にある体格差は歴然としている。

　メタトロンを基準にして、相手の巨大ゴーレムはメタトロンより腰一つ分の大きさを誇っていた。

　一撃を貰えば即ゲームオーバーとまではいかなくとも、確実に深刻なダメージを受けることは想像に容易いだろう。

「セ、センリィ！？　俺たちはいったいどうすればいいんだぜ！？」

「そ、そうですわっ！」

「何か考えがあるんだよね！？」

　おっとデュエルそっちのけで放置してた。

「大丈夫！」

「ほ、本当だぜ！？」

「だから君たちは好きに展開して！」

『え！？』

　考えがあると言いながらその実、みんなに一任するという作戦にみんなが抗議の顔を浮かべる。

「好きに展開って……何言ってんの！？」

「作戦がおありなら何故好きに行動しろと仰るのですわ！？　寧ろ下手すればセンリ様が計画している作戦に支障を来たすと思いますがっ！」

「そうだぜ！」

　でもそれを含めて作戦なんだ。

　ジャッジ君はジャッジメントディザスターを中心としたビートダウン（殴り勝つ）デッキ。

　そこにキャラの属性で盤面を掌握するコントロールも混在しているデッキだ。

　エーシスはカードの設定によって直接相手のメンタルを削るバーンデッキ。

　リンちゃんのデッキは、本人曰く合作デュエル用に構築したサポートデッキらしい。双極の一人であり兄でもあるシン君を支えるために構築されたデッキという。

　そして僕はビートダウン、ミッドレンジ、コントロールが混在しているコンボ中心のデッキ。TCG用語で言うと、相手の展開や勝利条件によって戦法を切り替えるシルバーバレットタイプのデッキだ。

　全員別々のデッキタイプを使うが故に、相手はそれぞれのデッキに対応をしなくちゃいけない。

　みんなが全力で戦えば相手も全力で戦うことだろう。僕はそんな彼らの後ろで仲間を支え、気付かれないように盤面を整えていけばいい。

　そして相手は最後の最後に自分が詰んでいることに気付くのだ。

　それが僕が考えたこのデュエルの結末。

　だから――。

「――安心して」

『っ！』

「僕がみんなを勝利へと導く。だからみんなは僕を信じて、全力で好きに動いていいよ！」

　僕の言葉に一瞬目を丸くさせるみんな。だけど、すぐにみんなの顔が切り替わる。僕を信じて立ち向かう眼差しを浮かべる！

「そう言われたら！」

「こっちも頑張るしかないでしょ！」

「ですわ！」

　みんな……！

　：おっと俺らも忘れるなよ！

　：こっちもサポートするぜ！

　：泥船に乗った気持ちでな！

　：↑おいwwww

「行くよみんな！」

『了解！』

「僕はフラグカードを五枚立てる！」

『五枚……！』

　僕の行動に総帥から声が漏れ出る。

　この五枚のカードには当然アイテムの力によって総帥の手から奪ったカードも入っている。

　一見してバレバレで対策しやすいフラグカードの数々。だけど僕が立てたフラグカードをある程度把握しているからこそ、総帥はこの五枚のカードを警戒せざるを得なくなる！

「みんな！　今この状況におけるキャラの性能は五十倍になってるよ！　例えばジャッジメントディザスターの攻撃力が９６０なら、スケール補正で攻撃力４８０００になるといった感じに！」

　対する相手のメサイア・ロードは耐久力１５００。

　余裕で貫通できる数値差だけど、何も対策や準備もなく無策で突っ込めば手痛い仕返しが来る可能性がある。

　だからアンさんたちが脱落して、各種アーマーの力が消えた現状のジャッジメントディザスターで直接攻撃するのは非常に危険だと言わざるを得ない。

　だけどここには仲間がいる。

　共に戦う仲間たちがいるんだ！

「ここで私はジャッジメントディザスターを対象に手札からシチュエーションカード『ファッショナブル・オア・ダイ』をシーン展開！　相手がジャッジメントディザスターを対象にカードの設定が開示された場合、私はカードの種類を宣言してデッキからカードを一枚ドローする！」

　そしてそのドローしたカードが宣言した種類のカードと同じだった場合、手札に加えて相手の設定を無効化することができる！

『だが失敗すれば対象となったジャッジメントディザスターは失い、君のメンタルが半分になるぞ』

「私の存在を忘れていませんこと？」

『リン……！』

　ここでリンちゃんが力を見せる！

「私は手札からシチュエーションカード『覗き見勇士先遣隊』をシーン展開ですわ！　これによって私はデッキの上から三枚めくり、好きな順番を決めてデッキトップに戻しますわ！」

　対象は当然エーシス。参加者たちのデュエルが共通しているからこそできる展開の仕方だ！

　エーシスのデッキからめくられたのは以下の三枚。

　シチュエーションカード。

　キャラクターカード。

　フラグカード。

「順番はそのままにしますわ！」

「これで総帥がジャッジメントディザスターを対象にカードの設定を開示しても安全にカードを宣言できるようになったよ！」

　これでジャッジメントディザスターに対するケアができた。

　あとはジャッジ君の番だ！

「俺はジャッジメントディザスターの設定を開示！　ステージゾーンにいる属性：ドラゴン以外のカードを没ゾーンに送ることで手札もしくは使用済みゾーンからディザスタードラゴンを一体特殊演出させるぜ！」

　没ゾーンに送るのは僕の場にいるミタマだ。ミタマが没ゾーンに送られ、ジャッジ君の手札からディザスタードラゴンが一体、ステージゾーンに現れる。

「来るんだぜ！　ディザスタードラゴン・インビジブル！」

『同じ場所に他のディザスタードラゴンが存在する場合、ジャッジメントディザスターの性能は――！』

「――倍になる！　これで攻撃力９６０００だぜ！」

　：うおおおおおおお！！

　：いやインフレし過ぎやろwwww

　：オーバーキルで草

「これで終わりにしてやるぜ！　ジャッジメントディザスターでメサイア・ロードに攻撃だぜ！！」

『――……なるほど、確かにこれは厳しいものがある』

　手札はゼロ。

　メサイア・ロードの設定は使えず。

　覇龍の性能は限界を超え。

　複数のケアが用意されている。

『だが終わりという言葉にはまだ程遠い！』

　手札もキャラも使えないのなら、使える場から使うのが定石。つまり総帥がこれからすることと言えば……。

『私は使用済みゾーンからキャラクターカードの設定を開示！』

「使用済みゾーンから！？」

「やっぱりそう来るよね……！」

　混沌王と言うのは時代が進めば進むほど、カードの性能も盛られていくことになる。使用済みゾーンからも設定の開示ができるカードが増えてきた今、今や使用済みゾーンは『第二の手札』と言うべき存在になっていた。

『キャラクターカード『救道の天使・華割観（かわりみ）』！　このターン相手の攻撃宣言時に攻撃対象となった自分のキャラクターカードを使用済みゾーンに送り、華割観（かわりみ）をステージゾーンに特殊演出させる！』

　入れ替わるように現れた天使が覇龍の一撃によって飲み込まれる。

　だけど、攻撃が止んだタイミングで無傷のままの華割観が存在していた。

「なっ……！？」

『自身の設定で変わり身となった華割観は、このターンいかなるダメージを受けない！　よって覇龍の攻撃権はこれで終わりとなる！』

　この大無法エンターテインメント・デュエルでは確かに各フェイズ間の制限は取っ払われている。一見して自由に展開できるルールだけど、裏を返せばフェイズ以外のルールは変わっていないということ。

　行動権を失えば、それで何もできくなるのがキャラクターカードなんだ。

『さぁ他に攻撃してくるものはいないのか？』

　総帥の言葉に僕たちは押し黙る。

　はっきり言って、ジャッジメントディザスター以外のキャラたちは例えメタトロンスケールでドーピングされても性能は低いまま。元の数値が低ければ意味がないんだ。

　それでいて僕たちのキャラにこのターン無敵状態となっている華割観をぶち抜ける力は持っていない。だから僕たちはここでターンを終わらせるしかない。

「……センリ……っ」

「大丈夫だよジャッジ君」

　でもちゃんと想定通りに進んでいる。

　盤面が少しずつ揃えられていく。

『私のターン、ドロー！！』

　大丈夫。

『先ずは一発だ！』

　：一発（物理）やないかい！

　：ちょ、逃げてええええ！！

　：ルールは守って楽しく遊ぼうよぉ！

「ここでフラグカードを回収！」

『なっ、実力行使にフラグカードだと！？』

　さて、ここからだよ……総帥。