第51話

 更新再開です。


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 巨大ロボットであるメタトロンのスケールで登場した『TS - 性転のアキラ』の性能は十倍になった。攻撃力50、耐久力100の性能だ。

 色んなカードのコンボでようやくといった性能を簡単に出せている状況に、このルールの異常さがよく表れている。


 :言ったもん勝ちデュエル!?

 :だから毎回変なこと言ってたんだあの筋肉ムキムキ総帥!

 :ズルいだろ!?


『アキラには性別を変化させることで自身の攻撃力と耐久力を逆転させる設定が存在する! 更に僕は手札のキャラクターカード『TS - 性転のマスコット・ミタマ』を設定を開示! ミタマは場に性転と名の付いたカードが存在する時、自分をステージゾーンに特殊演出させる設定があるよ!』


 このカードは性転キャラの設定が開示された時に誘発して自身の設定を開示する設定を持つ!


『先ずはアキラの設定を開示!』


 TS - 性転のアキラ(女体化Ver.)。

 攻撃力100。

 耐久力50。


 :か、か――

 :変わんねぇ!

 :可愛い!

 :強いて言えば髪の長さが変わった?

 :どっちも可愛いので、ヨシ!


『アキラの設定を開示したことによりミタマの設定も開示される! もし性転カードの設定によってキャラクターカードの性能が入れ替わった場合、ミタマは相手キャラクター一人の性能を逆転させることができる!』


 :はぁ!?

 :おいおい対象を取る設定は……!

 :これプレミですか!?

 :センリちゃんがプレミ!?


「……分かっているのかい? 私のメサイア・ロードは自身を対象に設定を開示された場合、デッキからシチュエーションカードを直接シーン展開できるということを」

『できるならやって見せてよ』

「……なに?」

『僕はできるならやれって言ってるの』


 :正気かセンリちゃん!?

 :直接シーン展開だぞ!?

 :これがデッキから手札に加えるとかだったら『デコッパチ・ガール』で無効化できるけど、直接だよ!?


「……いや、そうか」

『……』

「恐らくメサイア・ロードの設定開示時に設定を無効にするカードを手にしているな? しかしそれで無効化しようとも無駄だ。このルール下で私の行動を止められると思わないことだな!」

『……!』


 メサイア・ロードの設定が開示される……!


「メサイア・ロードの設定によって私はデッキからシチュエーションカード『救道の信念・覇祇螺はしら』をシーン展開する!」

『そのタイミングで僕は手札からシチュエーションカードをシーン展開!』

「言っただろう、無駄であると! メサイア・ロードは救道の英雄! 救道のためにいかなる奇跡を起こし、全ての奇跡を手にして見せた英傑! たかが場面展開シチュエーション如きで揺らぐ力では――」


 総帥の言葉をぶった切ってシーン展開!


『シチュエーションカード『TS - 逆転する奇跡』!』

「なにぃ!?」


 僕が掲げたカードを見て総帥が驚きの声を上げる。それもそのはず……本来ならこのカードの設定はのカード!


 :おいそれってYO!?

 :TSカード限定で自分の場のTSカードの設定と、使用済み、没ゾーンのどちらかに存在するカード一枚の設定を入れ替わらせるカードじゃんか!?

 :アッアッアッ……


『だけど貴方は奇跡と言った』

「それは……!」

『それが奇跡ならこのカード奇跡の対象になれる!』


 :うーん?

 :何言ってんだセンリちゃん

 :どうかしてるよぉ!


『対象にするのはこれから貴方が使う奇跡シチュエーションと手札のこのカード! シチュエーションカード『TS - 鏡像のトリ子』!』

「むぅ……行動を、止められない!?」


 これから総帥が使おうとしていた『救道の信念・覇祇螺はしら』が『TS - 鏡像のトリ子』へと入れ替わる。メサイア・ロードによる強制開示だから、どれだけ足掻こうとも決して止められはしない!


『『TS - 鏡像のトリ子』はシチュエーションゾーンにセットされるシチュエーションカード! その設定は自身のキャラの前に鏡を設置すること!』

「メサイア・ロードの前に鏡が……!」

『TSキャラならデメリットのないサポートカードだけど、TS以外のキャラの場合デメリットが表に現れる!』




 TS - 鏡像のトリ子。

 自分ステージゾーンに存在するキャラを一人選ぶ。一ターンに一度そのキャラの性能が変化した時に、元々のカード名によって以下の設定を適用できる。

 ・TSと名の付いたキャラクターカード:変化した性能が相手のキャラクター一体の性能より攻撃力、耐久力どちらかでも上回っていた場合、対象にした相手のキャラクターの設定をこのターン無効にする。

 ・それ以外のキャラクターカード:自身の設定をこのターン無効にする。




『シチュエーションカードを使用した貴方のメサイア・ロードにタマリの神通力が訪れる! メサイア・ロードよ、性別を逆転させろ!』


 :メサイア・ロードが……

 :女騎士に!!

 :うひょおおおおお!!

 :くっころだ!

 :くっころの刑に処す!


 メサイア・ロードの性別が反転し、性能も逆転する。


 救道の英雄メサイア・ロード(女体化Ver.)。

 攻撃力10。

 耐久力15。


『これが……我、なのか?』


 トリ子が見せる鏡に映し出された女体化メサイア・ロード。そのあまりの変わりっぷりにメサイア・ロードが虜になる!


 :くっころ……じゃない

 :でもTSした自分に見とれるシチュ、ヨシ!

 :これはこれで


『これでメサイア・ロードの設定はこのターン無効となる!』

「敢えて私にこのカードを使わせたのは、二度目の対象を取る設定を開示させないようにするためか……!」

『今の僕の場には十倍となった性能を持つキャラが二人。そして他の参加者が脱落して性能がダウンしたとはいえ、未だに攻撃力960を誇るジャッジ君のジャッジメントディザスターが一体』


 対する総帥は設定を開示できないメサイア・ロードと何もない手札。カードを創造する『RE:バースワールド』は使用済みで、カードを書き換える『RE:スタートワールド』は手札がないため使用できない。


 現状、僕ができる展開はここまで。


 それでも。


『これで貴方を追い詰めることができた』

「……よもや、ここまでとは」


 :さ、流石センリちゃんだ……

 :初見のルールをここまで

 :センリちゃん、お前がナンバーワンだ


「カードの性能もハンドアドバンテージも向こうにあり、か」

『これで貴方は終わり……何か言い残すことは?』

「終わり、終わりか……」


 終わりという言葉を反芻して総帥は目を閉じる。今現在圧倒的に不利なのは総帥の方だ。ここから逆転できる可能性は非常に乏しく、だからこそ総帥はこれまで暗躍してきた数々が今この場に至って無駄になるという感覚を抱いている。


 積み重ねてきた罪が。

 同胞たちの思いが。

 同志たちの願いが。


 自身の敗北という結末で終わりを迎える。


 その事実に彼はどう思っているのだろうか。例え勝っても負けても、どの道先なんてない彼の胸中はいったい。


 時間にして僅か一瞬。総帥はこの状況に至ってもなお、笑みを浮かばせていた。


「それでも、どうしても諦められないのが私だ」

『……っ!』

「選択肢がある限り、可能性がある限り、私はどうしても私自身を止められない。突き進めるのなら突き進むのが私のさがだ」


 総帥はまだ何かを残している。

 僕はそれを察していた。


「そんな私が、妻から別居の提案を受けて初めて我が身を振り返った。するとどうだ、私は家庭すら見ていない父親失格の存在だと分かってしまった。今の今まで子供たちとの繋がりを私は蔑ろにしていたのだ」


 クックックと、まるで呆れ返るように我が身を嘲笑う。


「だから探したのだ。失ってしまった繋がりを」

『……』

「歩んできた人生の中で、私と子供たちの間を繋げていた些細な思い出。それが混沌王だった。愚かな性を持つ私は思いついてしまった。混沌王による社会統一を私は考えてしまったのだ」


 それで可能性ができた。

 それで選択肢ができた。


 選べるのなら。

 突き進めるのなら。


 彼はもう、自分を止められない。


「こんな私が考えた危険なエクストラリワード相当の技術は、絶対にあの方たちは受け入れられないだろう。だから私はこの技術を提出せずにのだ」


 そしてそのタイミングで、長男から『長女がエクストラリワード』を見つけたという報せを受けた。それがただのリワードであることは明白だ。だがそんなものは関係ない。重要なのはそれできっかけが生まれたということ。


「最初で最後の裏切りだ」


 家族に対しても。

 会社に対しても。

 社長たちに対しても。


「例え私が勝ったとしても私に未来はない。だがそれでも、子供たちが愛する混沌王を日常とする世界の実現になれるのなら私は構わない」

『それは違う。それで家族が、リンちゃんが喜ぶと思ってるの?』

「無論思わない。だが結社を作り、同志を集め、自らの性に狂っている私は私を止められない! ならばどうするか!」


 拳を握り、声高らかに彼は宣言する。


「前に進むしかないのだ!!」

『……っ』

「止めたいのなら私に勝て! 私は絶対に諦めたりはしない! 例えこの手に僅かな可能性があったとしても! 砂粒のような選択肢があればこの手に手繰り寄せて、向かってくるものを倒して見せる!」


 :何主人公みたいなことを言ってんだ!?

 :ここから逆転するところがあるんですか!?

 :うおおおおおお!!

 :総帥! 総帥! 総帥!

 :勝ってください総帥!

 :↑おいおい、結社の奴らが書き込んでるぞ!

 :カリスマは伊達じゃないってか

 :そもそもなんでセンリちゃんの配信で書き込んでるんやこいつら


『でもここからどう逆転を――』

「私は! 私を対象にカオスティック・ギルティア城と合体する!」

「!?」


 :!?

 :!?

 :!?


 今、なんて!?


「まさか私以外にその方法を思いつき、実行に移す者がいたとは想定外だ。だが君が思いつけるようにこのルールを作った私にも思いついていたこと!」


 総帥を中心に結社のアジトだったお城が集まり、巨大な何かへと形成されていく。


『っ、コード:レイジングストリーム!』


 危機感を抱いた僕は咄嗟の判断でロケランをぶっ放す。だけど全モード中最高の火力を誇るロケットランチャーのモードでも削り出せたのは僅か。正確には削った矢先に素材が補われ、修復されていく。


「これが私の本気だ」


 僕が乗るメタトロンよりも遥かに巨大な人型。

 これが、総帥の本気……!




『最終決闘兵器カオスティック・ギルティアス……ここに推参』




『――……ちょっと、これは想定外』


 :センリちゃん!?

 :センリちゃんが想定外!?

 :……いや、いつものことだな

 :まぁ毎回センリちゃん驚かされてるよね

 :大体他の変態共のせい


『何かあるとまでは想定してたけど、あの巨大ゴーレムみたいな姿は誰が想像できるのさ……』

『この姿は君のロボットと同じ理屈さ』


 だけど、メタトロンよりも遥かに巨大なスケールを誇るカオスティック・ギルティアスはその能力までもが規格外。


『この姿によるキャラクターカードの性能は――』


 ――元の百倍になる。


『……はは』


 その言葉に、僕は顔を引き攣らせる。

 やっぱり、なんでもありすぎるなぁ。


『つまり今のメサイア・ロードは……』


 攻撃力1000。

 耐久力1500。


『君たちのキャラ全ての性能を上回った!』


 :あばばばばばばば

 :ど、どうするセンリちゃん!?

 :ここから入れる保険がありますか!?


『……まだまだ総帥には手がありそうだけど』


 でも大体分かったよ。

 なら僕も本気を入れないといけない。


 そんな時に。


《遅れたデス》

『マナナン!』


 タイミングよく、マナナンが僕のいるコクピット席に転移してくる。


 :マナナン!?

 :どうしてここに!?

 :総帥の攻撃にやられたんじゃ

 :残念だったなぁトリックだよ

 :あ、もしかして参加者としてのマナナンは消えたけど、仲間NPCとしてのマナナンはまた別ってこと!?


 そう、マナナンはあくまでデュエルに脱落したのであって死んだわけじゃない。このデュエルにはもう参加できないけど、元から僕と共にいる仲間だからこそマナナンはこうしてやってこれた!


『ジャッジ君! エーシス! リンちゃん!』


 次は大声で残った三人を呼ぶ。

 そして暫くすると、巨大なドラゴンに乗ったジャッジ君とキャンピングカーの屋根にエーシスとリンちゃんが立ちながら滑空してくるキャンピングカーがやってくる。


 いや絵面ヤバいな。


「ど、どうしたんだぜセンリ!」

「……お兄ちゃん、何か考えがあるんだね?」

「そうなんですの!?」


 各々の言葉に僕は頷く。

 ちょっとだけ足りないのかもしれないけど、それでもこの勝負、僕たちの力を合わせないといけないのは確かだ。


 だから――!!


をやるよ!!』

『……アレ!?』


 当然……!!




『合体だあああああああ!!』

『うわあああああああ!!?』

《行くデス!》




 ――システムMIX、起動。




 キャンピングカーがメタトロンと合体していき、巨大化したメタトロンがドラゴンの背に乗る。そして僕が乗るメタトロンに新たに三人が乗り込んでくる。


『これぞメタトロン――』


 秘密結社カオスティック・ギルティアと戦う最後の巨人デュエリスト


『これぞMIXデュエリスト・アームズ――』


 選択肢や可能性がある限り、その歩みを止められないのなら僕にだって考えがある。これまでは単なる小手調べ。追い詰めて本音を聞くための展開。


 次からは本気で行く。

 巨大なゴーレムを前に僕は宣言する。




『――貴方に相応しい結末は決まった!』

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