𝆐𝆑

空には雲ひとつない

天頂てんちょうから空際そらぎわまですべて、

単色の青に染まっている

空のどこに目を向けても、

起点となる場所はない

完全にひとつになった空

切り取ることも、

かぞえることもできない空


限界まで晴れ渡っているにもかかわらず、

青空からは大粒の雨が降ってくる

青い空の向こうから、あたたかい雨が落ちてくる

絶えまなく降る雨は、体温のように理由なく熱を帯びている

ちょうど、だれかの胸に抱かれているときのように、

あたり一帯いったいから、理由という理由が抜け落ちていた


 だから あなたの視線は地上へと滑り落ちる


果てしなく広がる湿原しつげんは透明な泥とぬかるみに覆われていた


「目に映る景色をもてあますことは、

  だれのせいでもないのだと、

    はやく教えてほしかった」


「時間」は時計がないのをいいことに、

雨音に身をまかせ切っている


  だから


  あなたは


  足もとのぬかるみを少しだけ強く蹴りあげた

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魔法をかける、幻惑される 倉井さとり @sasugari

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