現代魔術師のオレの家に勇者と魔王が居候しています
宮師スズ
プロローグ
「アスカアスカ!今日の夕食はなんですか?」
「ハンバーグ。まだ時間かかるからおやつの残りのパンケーキでも食べてて」
「はちみつシロップとバターをたっぷり使ってもいいですか?!」
「いいけど、ほどほどにね」
「やったー!!」
金髪美少女が台所に現れたかと思うと、冷蔵庫から嬉しそうにパンケーキの乗った皿を持ってリビングへと走っていく。スカートを履いてるのを忘れてないかな?さっきからヒラヒラしてて見てられない。
「ふわぁ〜……」
それと入れ替わるように、今度は黒髪の美少女が眠そうな目を擦りながら姿を現した。寝起きなのか、服装が乱れに乱れまくっている。綺麗な肌が見えて物凄く目の毒だ。
「アスカー……今何時だ?」
「もう17時、今更起きてきたの?」
「この世界の“げーむ”とやらは活気的な発明だな。私を離してやまない異様な魔力が——」
「そんなの無いからさっさと顔でも洗ってきて。もう夕食にするから」
「むぅ、相変わらず冷たいなーアスカは。そんなんじゃ女の一人も抱けないぞ?」
「はいはい、余計なお世話だから」
ほんとうに余計なお世話だ。オレにだって女友達くらいはいるし!……十七歳にもなって彼女は一人もできたことがないけど。
あっ、ヤバい。考えたらちょっと悲しくなってきた。
「……さっさと作っちゃお」
こういう時は何か作業に没頭すれば忘れるだろう。
といっても料理はほぼ終わっていて、あとは形の出来上がったハンバーグをフライパンで焼けばいいだけだ。油を引いて熱したフライパンにハンバーグを置くとジュワァといい音を上げてくれる。
「ふわぁー!すごくいい匂いですね!」
「ほぅ、また美味しそうなものを作っているな」
「いつの間にいたんだよ」
この二人、気配の消し方とか近寄り方とかがもう人外のそれだ。いや、二人ともカテゴリ的にはマジで人外なんだけどさ。
二人は鼻をクンクン鳴らしながら目をキラキラさせてフライパンを眺めている。まるで犬みたいでちょっと可愛いなと思ったことは墓の中にまで持っていく。
「アスカ!私この一番大きいのがいいです!」
「それは私が先に目をつけていたからダメだ!お前は別のにしろ」
「なんでですか?!私から食事の自由を奪うなんて……全王国民が黙ってませんよ!」
「ふんっ!それを言うなら、私の食べ物を奪うなぞ、世界中の魔族から呪いをかけられるくらいの大罪だ!」
「全部大体同じ大きさに作ってるし頭が追いつかないから無駄にスケールの大きい話しはやめてくれない?」
なに?全王国民とか世界中の魔族とか、ほんとにやめてほしい。
出来上がったハンバーグをお皿に盛り付け、付け合わせにバターで炒めたジャガイモやニンジンを乗せておく。
「私は目玉焼きも欲しい!」
「チーズをかけておいてくれ、あのとろ〜っとしたやつ!」
「はいはい」
要望通りに作っていく。多分なにかしら言われるだろうと思ってたから用意は万全だ。
「よしっ、できた!二人とも、机に運んで——」
なんて言う必要もなかった。すでに出来上がった自分の分の皿を持って席についている。
ちゃっかりオレの分も机まで運んでくれているところが憎めない。
「じゃあ食べようか」
「「おー!」」
ご飯ってなると一気に元気になるじゃん。
三人席に座り「いただきます」の音頭を取ってから料理へとかぶりついていく。かぶりついているのは二人だけでオレはちびちびと切り分けてから食べるんだけど。
「むふぅ〜!おいひぃ!!王城で開かれたパーティで出される料理より美味しいです!」
「やはり魔王城の料理人が作るものより美味しいな。よしアスカ、お前を我が城の料理長に迎えてやろう!」
「うーん……一応悩んでみたけどやめとく」
さっきから変な単語が多くて混乱したことだろう。中には彼女らを厨二病と思った人もいるかもしれないが、何一つ妄想でもなくガチで言っている。
信じられないだろうけどこの二人、冗談抜きで本物の勇者と魔王なんだと。
「ねえアスカ、そのポテトちょっと貰ってもいいですか?ほら、世のため人のために尽くしてきた勇者への褒美として」
「ふふん!私は魔王。だから夕食のハンバーグと一緒にコーラを飲んじゃうもん!」
こんなに卑しくてレベルの低い事を言ってるけど、それでも勇者と魔王らしい。
我が家にこの二人が居候する事になったのは今から一ヶ月前に遡る。
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