第2話 とりあえず連れ帰りました

「おぉー!貴族並みに大きな家ですね」

「そりゃどうも」


 彼女——アリスを放っておくことも出来なかったので一度家に連れて帰ることにした。


 高校生くらいの女の子を自分の家に入れるのは、ほんとうにいいのかと何度も自分の良心と相談したが……やっぱり放っとくわけにはいかなかった。


 決して彼女が絶世の美少女だからとか可愛いなとかちょっとラッキーな展開があるかもとか下心があったわけじゃない。


 決して違うから!


「軽く中を案内するから、着いてきて」

「はい!」


 さっきアリスが「貴族の家みたい」と言ったように我が家は大きい部類に入るだろう。


 これでも魔術師の家系だから家自体も住宅街から離れた場所に建っている。というか、ここら一帯は“橘家”の現当主——父さんの物だ。


 他の一軒家と比べて敷地面積も広く、造りが豪華なのは確かだが、しかしそれでも海外の豪華のスケールに敵わない。アメリカに行ってしまえば一般人だって馬鹿みたいにデカイ家に住むのだ。


 それに魔術師にとって金銭や土地は重要なものだ。魔術の媒体として使用する物品を用意するにも相応の資金力が必要になるし、儀式を行うのだって地形や土地柄の要素が大きく関わってくる。


 それゆえ土地の確保は最優先。そして必要な土地を手に入れるには金銭が……と言うわけで魔術師ってやたらとお金にガメツイ人が多い。


「おぉー!」


 中は主にアンティーク調の家具が置かれている。これは父さんの趣味だ。一階にはリビングやキッチンがあり、2階3階には寝室を含めた部屋がある。


「オシャレですね。悪くないセンスです」

「すごい上から目線で言うね」

「これでも王女ですので」



 そういえばそんなこと言ってたな。と言うことは、この家は城とでも比べられているんだろうか。


 ……そう考えれば、オシャレとか大きいという評価もかなりいい方じゃないか?。



「けっこう汚れてるし、先にお風呂でも入る?すぐに沸かすけど」

「お風呂?……あぁ、湯浴みのことですね。迷惑でなければ、お借りしたいです」

「いいよ。すぐに準備するから適当にソファで寛いで待ってて」


 浴室に向かいすぐに準備をする。今時の家具はかなりハイテクで温度と時間を設定すれば勝手にやってくれる。十分もすればお湯も溜まるだろう。


 やることはやったのでさっさとリビングに戻る。


「今沸かしたから、あと十分くらい待って」

「(モグモグ)…………ゴクンッ」

「えっ、まだ食べるの?」


 びっくりだ。もしかしたら今日一番びっくりしたかもしれない。


 たしかにソファで適当に寛いでって言ったし、机の上に置いていた茶菓子も来客用だから食べる分には全然いいんだけど、あれだけ食べてまだ食べられるんだ……。


「いえ、美味しそうなものが置いてあるなと思ったのですが、やはり人様の家の物を勝手に頂くのも失礼かと思い、でも置いていると言うことは食べてもいいという事だと考えて……本当に美味しいかったですよ!」

「そ、それは良かったですね……」


 色々言い訳を並べたのに最後はその一言になるのか。けどそんなにいい笑顔で言われたらもう何も言えない。机の上にはいつの間にかお菓子の空袋がいくつも出来上がってるけど、もう気にしない方向でいこう。



———ピピピッ


 そんなやり取りをしているうちにお風呂の準備ができたみたいだ。こういうのってラクでいいよね、現代技術バンザイ。


「お風呂沸いたから、入ってきていいよ。案内するから」


 アリスを連れて浴室へ向かう。一応異世界から来ましたみたいな設定があるし、シャワーとか簡単に使い方を説明しておく。


「じゃあゆっくりどうぞー」

「はい、色々とありがとうございます」


 頭を下げるアリスを浴室に残して僕は先にリビングに戻る。さすがに女性がお風呂から上がるのを浴室で待っているわけにもいかない。


「さてと、今の間にこの状況をどう説明するか……言い訳を考えないと」


 これでも魔術師の端くれ。今回の件に関しても報告義務がある。


 でも……


——異世界からやって来た勇者を発見しました



 なんて正直に言っても信じてもらえないどころか狂人バカと思われてしまう。


 協会の人たちって頭が硬いからなー。


 ウチ結社の人たちなら、


『異世界の住人?飛鳥くんも親父に似てやることが突飛だよねー』


『ほほう!やはり小生の期待を裏切らないイカれっぷり!さすがはアスカ君ですね!!』


『また少女ですか……ほんうとに救いようがない……』


 とか軽い感じで受け流されそう。最後のだけは無しの方向で。


「うーん……報告は適当に誤魔化して、先に結社の方へ——」


——きゃぁぁあ!?



 これはアリスの悲鳴。場所はお風呂場からだ。


「えっ……なになになに?!?!」


 まさか敵の急襲?いや、家の周りには何重にも侵入者対策の撃退魔術を敷いてある。


 しかも僕じゃなくて父さんが作ったやつ。だから侵入できるはずがないし、そもそもオレに気付かれないでというのも無理だ。


 とりあえず、考えるのはあとにしてすぐにお風呂場へと向かう。


「すごい悲鳴聞こえたけど、なにが——」


 咄嗟の事で扉を開けてしまったけど、女性が入っているお風呂場に入っていくのはものすごくマズイのではないだろうか?


 でも悲鳴が聞こえたのも確かだし、ここまで来ちゃったし……。



 すぅー……はぁー……。



「うん、やっぱり引き返そう」


 自分のことを“勇者”って言ってたくらいだし、もし侵入者だったとしてもどうにかなるでしょ。


 そんなことよりも美少女から「変態」のレッテルを貼られる方がオレの人生として嫌だ。


「うぇ〜ん、アスカー……!!」

「オレがせっかく戻ろうと思ってたのに自分から出てこないでくれる?!わぁー隠して隠して!!」


 急に浴室から裸で飛び出してきた。すぐに目を瞑ったから大事な場所は見ていない。


 ちょっとだけ瑞々しい肌とか華奢な身体の割に立派な胸とかチラッとだけ見えちゃったけどこれは不可抗力と思って許して欲しい。


「ぐすっ、さっきまでお湯だったのに、急に冷たい水が出てきました……」

「あ、あぁ……なるほど」


 よくあるやつだね。


「それは多分、捻る方を間違えたかどこか当たっちゃったんでしょ」


 浴室に失礼してハンドルを回すとすぐにお湯が出てくるようになった。


「はい、お湯にもどったよ」

「おぉー!あったかい……ありがとうございますアス——」

「………!」


 しまった、ハンドルを回すために目を開けたのが仇になった。


 今さらながらに自分が裸で男性の前に飛び出した事実に気付いたアリスが瞳に涙を溜めて顔を少しずつ赤く染めていく。そしていよいよ口元もあわあわと言い出し始めた。


「えっ、あっ、ふぇっ……」


 やばい、嫌な予感がする。


「きゃあぁぁぁぁ?!?!?!」


 今日二度目の悲鳴が我が家に響いた。

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