第4話 勇者と魔王とお出かけ

「アスカ!ここに行きたい!」

「ん?」


 机に向き合って学生らしく勉強に勤しんでいると部屋の扉を蹴破る勢いで黒髪の少女が入ってきた。


 自称魔王様のギーネこと“ゲオルギーネ”がパンフレットを掲げながら目を光らせている。


「近くにできたショッピングモールだな」


 しかも大型だから中にはフードコートをはじめとして色々な店舗が構えているタイプのやつだ。


「私はこのゲームセンターに行ってみたい!」

「目当てがゲーセンなんだな」


 ギーネらしいと言えばらしいけど。


 本人曰く、彼女がこの世界に来てから一番興味を持ったものがゲーム全般らしい。


 ボードゲームやカードゲームに始まり、最近はオレのお金を使って勝手にPC設備やデジタルゲーム用のコントローラーも揃えているほどだ。


 コイツがゲームに使ったオレの金は絶対にいつか回収してやる。


「でも、今日は休日だから人が多いんだよな」


 ギーネは王族だという意識が強いらしく、あまり人混みを好まない。オレだってギーネを人が多い場所に連れて行くのは色々と問題が起きる可能性があるからできれば避けたい。


「だ、ダメなのか……?」


 しょんぼりとした顔でウルウルと瞳を向けて来る。その姿は親に出かけるのを断られた子供のようだ。


 アリスもそうだけど、コイツらは人に甘える才能が極まっているように思う。


 でもなー……。こんな話しをしてたら、絶対にアイツも行きたいって言うし——


「出かけるんですか?」


 ほら、面白そうな話題に釣られて娯楽に飢える少女がもう一人現れてしまった。


 アリスは家の中ではすごくラフな格好で過ごすことが多い。今だって白シャツに短パンを履いてるだけ。肩が見えてるし、足も隠す気がない。オレに見られてるのに気にならないのかな?


「えっ?!アスカがギーネを虐めて泣かせてる!?」


 そんなアリスはオレとギーネの姿を捉えてあらぬ誤解をしてしまった。


「イジメてないからな!!」

「私だって泣いてないし!!」


 ギーネも心外だと言うように怒り始める。


「はいはい、冗談ですよ。アスカが人を虐めるはずないじゃないですか」


 アリスも冗談を言うようになったんだな。


「それで、何の話しをしていたんですか?」

「これだ!」


 ギーネがアリスにさっきのパンフレットを見せる。


「あ!これ、テレビでもやってた場所ですね!」

「そうなのか?」

「はい!パンケーキが美味しいと噂の店が、期間限定で出張展開しているらしくて」



 へぇ、パンケーキ……。嫌な予感がする。



「もしかして、ここに出かけるのですか?」

「そうだ!」

「いや、まだオレは良いって言ってな——」

「すぐに支度してきます!」


 早っ?!行動力の塊すぎるだろ……。もう部屋を出て行ってしまった。


 この状態で「やっぱり行きません」なんて言ったら拗ねるよな、アリス……。


 これで行くことが確定してしまったわけだが、


「あっ、うっ、その、アスカ……?」


 ギーネはギーネで勝手にOKを出してしまった事に今更ながら罪悪感でも感じてるのか、隣でアセアセと慌てている。


「はぁー……」

「あ、アスカ?そ、その、私にも、悪気があったわけじゃなくて——」


 不安そうに言い訳を考えるギーネの頭をポンと撫でて気にしないでいいと言外に伝える。


「ギーネも用意してきて。電車の時間調べておくから」

「……!よし、待っていてくれ!」


 君もめちゃくちゃ嬉しそうだね。


 アリスに続いてギーネも部屋を出て行った途端にドタドタと騒がしい音が聞こえてくる。


 準備に時間もかかるだろうし、電車の時間でも調べておこう。



 ◇ ◇ ◇



「おぉー!」

「おぉぉ!!」

「田舎から出てきた少年みたいな反応」


 気持ちはわからないでもないけど。


 大型ショッピングモールを謳うだけあってかなり大きい。中にはフードコートやらゲームセンターやら映画館が詰まっていることだろう。朝早くだというのにカップルや家族連れの姿が見受けられる。


 そういえば、アリスとギーネがウチに来てから一ヶ月は経つのに一緒に出かける機会はほとんどなかったな。


 あっても近くのスーパーに買い物に行く程度だった。


 それを思えば、今日二人を連れて来れたのは良かったかもしれない。息抜きにもなるし、常識を知るいい機会にもなるだろう。


「よし、早速ゲームセンターに行くぞ!」

「アスカ!こっちからいい匂いがしますよ!」


 行き先で揉め始める前にさっさと先に進むとしよう。


「きゃっ?!」

「うわっ!?」

「ほらっ、行くよ二人とも」


 アリスの右手とギーネの左手を握って歩き出す。


 この二人に「まずはどこから行く?」なんて聞いても平行線で進まない。だからオレが率先して連れて行くしか無い。


「え、えっと、これでも私王族なので、殿方に手を握られた経験が無くて……べ、別に嫌ってわけじゃないんですよ?!」

「ふふふっ、女性のエスコートもできるようになったようだな。多少強引な気もするが加点してやろう。その調子で私を目的地まで連れて行け!」


 こんなこと言ってるけど二人ともすごい照れてるからね。なんならオレも恥ずかしい。


「見てあれ、仲良い!」

「男一人に女性二人ってどういう関係だろ」

「ていうかあの二人めちゃくちゃかわいくね?」


 ほらっ、視線が集まってるしコソコソと噂されてる。


 慣れないことはするもんじゃないなぁ……。

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現代魔術師のオレの家に勇者と魔王が居候しています 宮師スズ @Urasia

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