第4話 夢を叶えよう
オレたちは、最初にいた氷の広間までやってきた。
もちろん、女の子もいっしょだ。彼女は不安そうに身をすくめながら、オレたちから少し離れたところで立ち止まっている。
「シルドラ、頼むぜ!」
「仕方ないなぁ」
シルドラが後ろ髪を掻きながら、広場の中心に立つ。身体が光に包まれ、次の瞬間には、人の三倍ほどある大きな銀竜となった。
「な……なに……あれ……?」
後ろにいる女の子から震える声があがる。怯えるように、胸の前で両手を握りながら、足を後退させる。
「大丈夫だぜ。シルドラは、オレの友だちだから」
安心させるように笑顔で言って、オレは前へ向き直った。滑らないように駆けだし、シルドラの足もとまで行って、女の子のもとへ振り返る。
「今からとびっきりのショーをやるから、見ててくれよな!」
ウインクをすると同時に、シルドラは天井へ向かって遠吠えをした。
オォ――――――ッ!!
銀竜の吐いた息が、氷の粒子となって舞い散る。氷の広間で反射する光が粒子に当たり、キラキラと銀色の輝きを放った。辺り一面を氷の粒子が埋め尽くすと、そこはまるで、宝石を散りばめたような光に満ちた空間となる。
「オレも行くぜ!」
手袋をはめた右手を頭上にあげ、指を弾く。
「〈
目の前にひとつの大きな箱が浮かび、そのふたが開く。箱の中からたくさんの星が飛び出した。星たちは頭上で一瞬震えると、金色に輝きながら四方八方へ飛び散る。銀の空間に、長い尾を引く金色が彩りを添えた。
「きれい……」
女の子の呟く声が聞こえた。顔を上に向けたまま、口を半分開けて、前を見つめている。さっきまで不安そうにうつむいていた表情は、ウキウキと楽しそうで、瞳はキラキラと輝いていた。
「ありがとう……」
女の子は、オレたちへと視線を向けると、かすかに唇を動かした。
ゆっくりと身体の輪郭がなくなっていく。透けていた身体がさらに見えなくなっていき、その姿は、そのまま消えていった。
「天国に行ったみたいだな。よかったぜ」
ほっと吐いた息が白く染まる。きらめく空間の中で、オレはずっと上のほうへ目を向け、彼女の冥福を祈った。
「……って」
今さらながら、周囲がダイヤモンドダストに包まれていることに気づく。
「さむーっ!?」
「キューンッ!?」
あまりの冷気に、オレは自分の身体を抱きながら固まってしまう。ずっとフードの中に隠れているクロウも、出てこられないまま震えているみたいだ。
「おや、凍死するのかい? だったら、その前に俺がいただくよ?」
シルドラが銀竜の姿のまま、口先でオレの頭を小突く。
ハッと我に返り、オレは腕をさすりながら、シルドラと向き合った。
「ありがとな、シルドラ」
「いいさ。侵入者はいなくなったからな。こちらこそ、礼を言うよ」
そう言って、アクアマリンの瞳を細める。
オレは肩に飛び乗ってきたクロウと目を合わせて、笑みを浮かべた。
「それじゃあ、お前さんはもう用済みだから、帰ってくれないかい?」
「えっ、帰り方、わかんないぜ?」
「ここから南東に一千キロほど進めば着くさ」
「無理だ!? 来た時みたいに送ってくれないのか?」
「そうだなぁ。お前さんのアイスケーキを食べる約束もしたから、行くとするか」
シルドラは軽く息を吐いて、オレに顔を寄せた。口を開けて、案の定、オレをくわえる。
「
シルドラは笑い声を響かせながら羽ばたき、飛んでいくのだった。
* * *
サンタさんの家に帰ったあと。
シルドラは人の姿になり、リビングで紅茶をたしなんでいた。
「うん、不味だなぁ。凍らせたほうが旨いかもしれない」
「シルドラ、アイスケーキができたぜ」
オレはシルドラのそばへ行き、アイスケーキののった皿をテーブルに置く。
向かい側のソファに腰を下ろすと、スノウが飛んできて、なぜか急にオレの頬をつねってきた。
「弟子っ! なんでこんなヤバいヤツをまた連れてくるのよ! こいつは他人のことを
そう言って、オレの頬をぐいぐい引っ張ってくる。
反対側の肩に乗るクロウが、心配そうに「キュンー?」と鳴いた。
「いててて!? シルドラはそんな悪いヤツじゃないぜ? オレのお菓子だって、いつも美味しそうに食べてくれるだろ?」
向かい側でシルドラは、左手にお皿を持ち、右手にフォークを持って、アイスケーキを切り取り、口に運んでいく。
「うん、不味だなぁ。もっとパチパチは多いほうがいい」
「ほらな?」
「不味いって、言ってるじゃない!?」
スノウのツッコミが響き、しまいには小さな拳で頬を殴られる。
騒がしいオレたちを真正面に見ながら、シルドラはニコニコとアイスケーキを食べ続けるのだった。
《おしまい》
銀竜の困り事 宮草はつか @miyakusa
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