第4話 異変と片鱗とチラ見せ

俺の言葉と同時に、化け物と恐らくそれを従えている人物が現れた。

ソイツは俺達を見ると口を開く。


「どんな戦技か知らないが、よく私達が来ると分かったな。だが、それだけだ。片方は戦闘向きではないと言うことだからな!」


そう言うと、急に笑い出す。


「アンタら何を企んでる?」


「見た所、作業員でもなさそうですし」


俺の問いに二月が合わせる。


何が目的なんだ?


俺の問いに男はニチャアって気色悪い笑みを浮かべた。


「まぁ、直ぐに殺すのもつまらないからな。少し教えて上げよう。」


男はそう言って話し始める。


「私はね。魔物の研究をしていたんだよ!どんな仕組みなのか、個体差はあるのか、意思があるのか、他にも多くの事を研究していた。しかし、中にはどうしても分からないことが幾つかあった。だが、そんなことは私にとってどうでもよかった。上司や世間はそうは思わなかったみたいだがな。」


「結局何が目的なんだ?」


話しが見えなくて思わず言葉が漏れた。

だが、男は機嫌がいいのかあまり気にしてはないようだ。


「まぁそう急ぐな。ここからダヨ!私はね、初めてこの目で魔物を見た時からその凶暴性、生に対する執着心、そして異常な程の強さに惹かれていたんだよ。そして、その時に私は造りたい!と思ったのさ!!!

誰も敵わない!!人も魔物も等しくただゴミになるような!!そんな最強の魔物を自分の手で創り出したいと!」


そう言い放つと狂気じみた笑みを浮かべた。

まぁ、終始狂気だったけど。


「それじゃあ、隣りのやつが、アンタが造った魔物ってことか?」


男は俺の問いに上機嫌になった。


「そうだよ!!まだ実験段階で不完全だが、ほぼ魔物と言ってもいい!!」



「人が魔物を造るなんて。。では貴方の目的は自らが生み出した魔物でこの世界を支配すると言う事ですか?」


二月がそう聞いた途端に、男の雰囲気が変わる。


「そうだよ。尤も支配するのは私ではなく私が造る魔物がだがね。今はまだこの一体だが、いずれは何千何万と増やして人も魔物も蹂躙するつもりさ!!まぁ、まだ課題が多くてね。。これは、魔力を自分で生み出せないし、維持もできなくて常に供給する必要があるんだよ。。困ったものだよ」


男の熱弁は俺達には何一つと理解できなかった。なぜそこまで、自分の造った魔物に固執してるのか。どうして支配するのが自分ではなく造った魔物にしたいのか、さっぱりわからない。が、分かったことが一つ。


「そうか。やっと繋がったぞ。作業員の魔力どころか、気配まで消えたと思ったらソイツの餌にしてたのか!!」


「では、もう。。」


俺の言葉に、一瞬二月は顔青くし、唇を噛んだ。その後鋭い眼光を男に向けた。


「そうだよ!!!!!!実に効率が良くてね魔力の持ちがいいんだ!おっと、怒らないでくれよ?どの道私達によって人は滅ぶんだ。それが彼らの場合は少し早かっただけに過ぎない。まぁ、運の無さには君らも嘆いていいと思うがね!さぁ、お話しはここまでだ!!

よし、喰って良いぞ!!01号!!」


男は狂ったような瞳を俺達に向けてきた。

そして、俺達を狙うよう化け物に指示した。


「グアァァァァ!!!!!!」


01号と呼ばれた化け物は、雄々しく咆哮を上げると共に、物凄いスピードで迫ってきた。


「クッ!?」


「結城先輩!?」


反応が遅れ、回避が間に合わないと咄嗟に判断し、魔力を纏い防御したが、その威力に耐え切れず、吹き飛ばされる。

だが、何とか威力を殺して、すぐさま反撃に転じる。


「オラァ!!」


拳に魔力を集中させた一撃を化け物の顔面に叩き込む。


「オォォォォォ!?」


相当の威力だったためか、苦しそうな雄叫びを上げて化け物は後退した。その隙を見逃す俺ではない。更に追い討ちをかける為、距離を詰めラッシュを叩き込む!


「凄い!」


未だ戦技を使わずに、魔力のみでの近接戦闘で圧倒してることに思わず声が漏れる。

人為的に造られた魔物であっても、その脅威性、異常性は目に見えて分かる。だと言うのに、戦技を使わずにここまでできるとは彼女の想定外だったのだ。

一瞬気を逸らしてしまった彼女だが、警戒は怠らない。鋭い眼光で男を見る。


「彼、非戦闘員ではなかったのですか?」


男は少し驚きつつも、冷静でいようとしていた。


「見れば分かると思いますよ」


答えてやる義理はない。と言う二月の態度に嫌悪の視線を向けるが、男は何もしない。


「助けなくて良いんですか?貴方の造った魔物、倒れされちゃいそうですけど」


その言葉におかしなところがあったのか、男はニンマリとした顔になった。


そして、


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」


突然、狂ったように笑い声を上げた。

余りにも気味が悪く、国家機関に所属し、それなりに訓練や経験を積んでいる彼女でさえ、顔を歪める程だった。


男は笑終わった後、呼吸を整え、彼女の目を見て口を開く。


「いやぁ。そうか。そうか。倒せると来たか!面白いジョークだね!でもそれは無理さ!!魔力を持つ限り、倒す事はできないのだからね!!!かと言って銃火器などの兵器も通じない。だから私はさっき言ったんだよ!!魔物も人間も等しくゴミになると!!!!!!助けた方がいいのは君の仲間の方じゃないかね?」


その言葉に、戦闘を繰り広げる方へと目を向ける。すると、視界には先程優勢だった桜火の姿はなかった。代わりに物凄い勢いでこちらに吹き飛ばされたのだ。幸い直ぐに立て直していて、また戦闘を仕掛けていた。


二月の目は焦りと動揺があった。

そして、すぐさま男の方に視線を戻し、鋭い眼光で射抜く。


「魔力を持っている限り倒せないとはどういうことですか?」


冷たい口調で問いただす。


すると男はその凍てつきそうな視線に怯えつつも、直ぐに先程の調子に戻る。


「どうも何も簡単な事だよ。それにヒントはさっき言ってたんだがね。まぁ言ったとこでどうもできないだろうし、どうせ君達は死ぬからね。教えて上げよう。アレはね。魔力を自分で生み出せないし、維持できない。常に供給する必要がある。一見するとこれはデリメリット若しくは失敗だと思うだろう。だがね、維持できないのは確かに失敗だったが、それ以外は想定していた事だったんだよ。もっと言うとね、そう言うふうに造ったってことさ。時に、君達はここ作業員の消えた魔力がどこに行ったと思う?」


長い話を聞いて、最後の問いでようやく理解したような反応と考え至った内容の驚愕さに、先程よりも更に動揺しているのか、瞳孔が揺れていた。


男はその反応を見て、ニチャアと言う気色悪い笑みを浮かべる。


「どうやら、ようやく理解したようだね。自分達の立場に!!」


「ですが、魔力の吸収にも限界容量があるんじゃないんですか?」


その瞳には少しの光が宿っている。

それもそのはず、未だ戦闘を繰り広げている彼の魔力量は膨大なのだから。

もしかしたらこの化け物をどうにかできるかもしれないと言う希望が脳裏に浮かべての問い。


しかし、その問いは、その光は無常にも消え去る事になる。


男は哀れみの目を二月に向けた。


「私もそう思ってたんだがね。意外にも失敗と思っていた要素が、こうも噛み合わさるとは思わなかった。まさに偶然の産物、神の奇跡と言っても良いほどにね。」


男の言葉にもしや、と焦りをジワリと覚える。

その瞳から光が徐々に消えゆこうとしていた。


「アレは、魔力を維持できず、魔力がなければ体の形状を維持することもできない。だから、魔力を吸収しても、常に消費されているんだよ。しかも、消費する速さは尋常じゃない!!それだじゃない!!アレは触れるだけで魔力を吸収するんだ!!魔力操作の練度がどれだけ高く!!魔力量がどれだけ膨大でも!!!アレをどうにかできることなんてあり得ない!!不可能だ!!大人しく諦めた方がいいんじゃないかい?諦めても死からは逃れることはできないけどね」


「。。ッッ」


男の言葉に思わず息呑む。


「触れるだけ。。こんなのどうやっても。。!?」


そこで気付く。あの化け物は触れるだけで魔力を吸う。攻撃すればするほど、触れた分だけ魔力を吸収していく。だと言うのにだ。

今もなお、何回も吹き飛ばされてはいるものの、それでも魔力を纏い戦う彼は、確かに操作練度、魔力量共にあり得ない程のものを持っている。しかし、この男の言う通りなら、もうとっくに魔力は底を尽きていてもおかしくないはずなのだ。だが実際は、普通に何も気にせず戦闘を続けている。笑みを浮かべながら。。。


「「おかしい。。」」


その呟きは、重なった。


その主は、目の前の名も知らぬ男だった。


二月も男も、彼が何かをしていると言うことに考え至るのに、そう時間はかからない。


そして、今もなお辺りを滅茶苦茶にしながら互いに傷を付け、戦闘を続ける彼を見ていた男は、焦っているのか、或いは有り得ない現状に恐怖を感じているからか、先程見せた余裕のある顔が崩れていた。。。


「何故だ!何故君はまだ魔力が残っている!?一体何をした!!!」


「。。」


その叫び声にも似た問いに、彼は一瞬こちらを見たものの言葉で答えることはなかった。


「ふざけ!?」


男が苛立ちを隠せず、更に声を上げようとした時、開いていた口が動かなくなった。

別に誰かの戦技によるものでも、殺気や威圧の類いによるものでもない。


ただ、そこには、ありもしない桜の花びらが舞い散っていた。


あり得ない。


さっきまで、桜など散ってはいなかった。


この貨物特区に桜の木など一本も植わってなどいなかった。


そもそも、桜の木など辺りを見渡してもない。


この夜空に舞い散る桜は一体どこから来たのか。。。遠くから風で運ばれてきたのか?


否。


ヒラヒラと舞い、途端に消え、また現れ舞う。普通の桜ではないのは明白である。

その桜を二月は注視した。

眼に魔力を纏うことで、その正体がようやく分かった。


この突如として現れた桜は、普通の桜のようにピンク色ではない。


赤いのだ。烈火の如く燃える炎のように。

そして、眼に魔力を纏わせる事で判明した事は、この桜の花びら1枚1枚が、炎である事。更に、それは魔力が宿ってると言う事。

それも高純度で、濃い魔力で、だ。


つまり、この桜は戦技だ。


最初、新手の敵か機関の者、若しくは通報により軍が到着したかと思った。

だが、この桜を出現させたのが誰かなど、直ぐに分かった。


何故なら。。。


その桜は彼の周りで、最も多く舞っていて、


それを時には手足に、時には全身に、自由自在に操り、戦闘を繰り広げる姿を2人の目に映っていたのだから。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

危険人物候補者監視対象リストNo.666661


結城桜火 16歳


戦技:緋桜


桜の花びらの形をした炎を自在に操る事ができる。


理由:

血筋からの素質。

膨大な魔力量に常軌を逸した魔力操作練度の高さ。それらを踏まえて上での、急激な戦技の成長。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最初は、一年中花見が出来るだけ(実際はそんな事ないのだが、周りからそう言われてました。)の戦技だった。しかし、彼の類稀ぬ魔力量と魔力操作練度を、高2までの4年間更に鍛え上げた事で、自身の戦技の真価を理解した。


そして去年の冬、見た目だけのハズレ戦技と馬鹿にされ、好きな子に振られ、罵られ、後輩からは花咲兄さんと揶揄されていた彼は、飛躍的に進化させたのだった。


おい!?最後の言ったやつ誰だ!!

俺がブ『ピーーーーーーーーーーーー』














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戦技と魔物が存在する現代で国家機関の監視の下生活していたら色んな事件に巻き込まれたが、声を大にして言いたい『それでも俺はヤッテナイ』と。 名無氏乃御宅 @Tsunami35

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ