追放されたエンチャンター
「ジルもうお前は用済みだ。「黄金の槍」から抜けろ」
「えっ、冗談だよね。ハロソン」
「バーカ、もう君はいらないのよ。ね」
「馬鹿じゃないよ、大馬鹿だよ、うぷっ」
「えっ、私聞いていないです」
僕達「黄金の槍」は
そして
「Sランクに上がるのに、戦っていないお前はいらないんだよ」
「そうよ、邪魔なの」
「うぷっ、みてみてー、ジルの顔、素っ頓狂な顔で面白いよー」
ヒーラーのステラだけは俯き、黙っている。
「お前の代わりはな、タンクのグッチなんだよ、もう諦めろ」
(グッチさんか……前線を強化していくのか)
「わかった。辞めさせてもらう」
「そうだ宿屋にはもう来るな。お前が貯めたパーティーの金は俺達で有効利用してやる」
(マジかぁ、金もかぁ)
四人はギルドを後にしていく。ステラだけ振り返り、申し訳なさそうな顔をしてた。
所持金を確認すると銅貨六十枚、一発で宿代が吹き飛ぶ。
(はぁー、どうすればいいんだよ。これから)
一人で呆然としていると、隣からミーティングをしている声が聞こえる。声の様子からどうやら三人で、話し合っているようだ。
◇
「どうすんだよ。神官、引き抜かれてさ」
「回復職の奴を他に探すしかないな」
「でもよぅ、そんな簡単にみつかるか?」
「おいらの、水魔法でも、精々ヒールまでだぜ」
「はぁ、どうすっかなぁ。せっかくAランクが見えてきたのに」
「ジョブがたいしたことない「黄金の槍」でさえSが見えてるみたいだし」
「あっ! おい、マーリン、ジェフォード、チャンスだ」
「どういうことだ、ニック」
「まぁ、見てなって」
◆
「よう、オレ、ニックっていうんだ、落ち込んでいるようだけど大丈夫か?」
「だ、ダイジョブです」
「名前教えてくんねぇかな?」
「ジルです」
「ジョブは?」
「エンチャンターです」
ニックと名乗った短髪の男は、目を見開き、
「オレんとこのパーティーにこねぇか? 金に困っているようだし」
僕は突然の出来事で困惑した。
「ちっと、隣こいよ」
「えっ、ちょっと、ちょっと」
そういわれて、四人がけのテーブルに移動させられた。
「自己紹介するぜ、俺はジェフォード、
(えっ、騎士って剣士の上級職じゃん!)
「おいらはマーリン、ジョブは
(えーーっ、魔法使いの上級職じゃん!)
「ニックだ、
(この人達、とんでもない)
「ジルです。エンチャンターです」
「じゃっ、新メンバー加入という事で、乾杯しますか!」
(あのー、僕まだ入るとは言っていないんですけど)
「ほらほらジル、グラス持って、エールでいいか?」
「あ、できれば、ジュースで」
「おいらが注ぐよ」
「誰が乾杯の音頭とる?」
「じゃあ、オレが代表して。宴もたけなわですが、これより乾杯といたします」
(ニックさん。初っ端から盛り上がりMAXってどういうことですか?)
「「「「カンパーイ」」」」
「ジルさん!」
ステラは息を切らしている。
「これ、ジルさんの分のお金です」
「えっ」
(ステラ、だからあの三人についていったのか)
「ありがとう。ステラ」
「おっ、姉ちゃんも飲みなよ。新メンバーのお祝いしているんだ」
「えっ、ジルさん、「吟遊の翼」に加入するんですか?」
「いや、まだ入るとは……」
「まぁまぁ、固いことはいいから、飲もうぜ、ほら次のジュース」
(あの、まだ一口しか飲んでないんですけど)
「ステラ、ありがとうね、あいつらに見つかると大変だから」
「はい、戻ります。ジルさんもお元気で」
ステラはギルドを後にした。
「あの女の子、別嬪だな」
「おいジル、なんで止めなかったんだよ」
「おいら、わかったぜ。恥ずかしかったんだよな。好きな人の前では」
(マーリンさん、当たってます。でも言わないでもらえると助かったんですが)
「じゃあ、次のクエストはジルの告白ってことで」
「「さんせーい」」
(あのー、人をおもちゃにしないでください)
こうして、僕は無事に? 「吟遊の翼」に加入することとなった。
◆
翌日。僕は何とか説得して、
◇
「ファイルウォール!!」
(馬鹿なんですかマーリンさん。スライム相手にオーバーキルですよ)
少し離れたところでジェフォードさんとニックさんがゴブリンと、
「やーい、ここまでおいでーっと」
「へいへい、おしりペンペンーっと」
戯れていた。
(神官の人、引き抜かれたんじゃなくて、呆れて辞めたんじゃ……)
僕は何も付与することもなく、いつもどうり
◆
ゴブリンの巣に到着。
「ゴブリンアーチャーとゴブリンメイジはオレ達に任せてくれ」
(いやいや、前衛は間合いを考えてゴブリンでしょ)
「じゃあ、おいらはゴブリンいくね~」
(連携しているみたいだけど、逆な気がする)
ニックさん達はあっという間にゴブリン達を倒した。
「よし、外は終わりっと」
「じゃあ、岩で入り口、塞ぐね」
(マーリンさん。中に
「メテオ!!」
(マーリンさん。その魔法はボスに使うんですよ)
「じゃあ、ジル、帰っか」
(あのー、中確認しなくていいんですか?)
「ジェフォードさん、ニックさん、マーリンさん、中にお宝が」
「ジル、エンチャントしろ」
「オレも」
「おいらも」
(現金な人たちだ)
中には、ゴブリン達が持っていた、金貨や塩があり、奥の隙間には三人の女性冒険者が隠れていた。
「ありがとうございます。助かりました」
「いやいや、面白かったよ」
ジェフォードさんが、そう言いながら、ガンガン岩を切っていく。
ニックさんも穴をあけて、部屋が繋がらないかどうか、遊んでいた。
マーリンさんも魔法で天井を空けようとしていた。
帰りの送迎のとき、女性冒険者が僕のところに集まってきた。
理由は言うまでもない。
◆
タンクのグッチさんが「黄金の槍」に加入して数週間が経ったとき……。
「助けてください!」
「ステラ、どうしたの?」
彼女は号泣して泣き止まない。よく見るとローブの一部が切り裂かれている。後ろで「告白しちまえ」って言っていることは無視しよう。
「ステラ、ここじゃ、なんだからギルドの奥に行こう」
僕は受付の人にお願いして、仮眠スペースの一部屋を借りるようにした。後ろで「積極的だねぇ」って言っているのは無視しよう。
話を聞くとハロソンとグッチさんがステラに二人がかりで襲って来たそうだ。犯されそうになり、護身用の麻痺効果のある短剣を使って、逃げてきたそうだ。
「もう嫌です、あのパーティーにはいれません。助けてください……」
◆
「おう、ジルじゃないか」
「ハロソンどうした?」
「いやね、子猫が逃げ出したから探していてね、ギルドにいると思ったが」
「猫なら外じゃない、ギルド内で見たことないよ」
「そうか。ありがと、な!」
ハロソンは僕の腹に拳を入れる。内臓が破裂しそうだとばかりに、吐血する。
「ジルさん!」
ギルドの奥に隠れていたステラが飛び出してきて僕のもとへ。ハイヒールをかけてくれた。
「なんだ、いたじゃん、ギルドの中に。連れて帰っから」
ハロソンはステラの手首を掴む。ステラは逃げることができなくなった。
「麻痺させられたからな、今度は注意して、可愛がってやるからな」
ハロソンはギルドの入り口へ向かう、僕も追いかけようとするが、痛くて動けない。
「おい、そこの馬鹿ランサー」
ニックさんがハロソンに言った。
「誰が馬鹿なんだって殺すぞ」
「やれるもんならやってみな」
「へー、Bランクごときになめられたもんだな、表に出ろ!」
ニックさんは僕に耳打ちする「槍にエンチャントかけろ」と。
◆
ランサーと槍士の闘い。野次馬が集まってくる。
始まった。
「まったく、隙だらけじゃねぇか、Sランクにもっとも近い俺に喧嘩売ったの後悔しろよ」
ニックさんは無言で槍をさばく。
勝負は数分でついた。ハロソンの槍が折れたからだ。ニックさんはハロソンの喉元に槍を突きつけ。
「お前にチャンスをやる。あのヒーラーをパーティーから外せ、でなければ殺す」
周りは驚いている。下級職の槍士がランサーに勝ったからだ。ハロソンはステラが脱退することを認めた。
「ニックさん、ありがとうございました」
「ジル、貸しにしと……」
「?」
「貸しにしないから、ギルド内で公開告白しろ」
(それなら、貸しにしといてください)
◆
「じゃあ、新メンバーの加入を祝して」
「誰が新メンバーなんですか?」
「ステラ、驚かないで聞いてくれ。君だ」
「えっーー」
(まあ、驚くわな)
「ほらほら、ぐびーといっちゃって」
「私、ジュースでお願いします」
「おいらが注ぐよ」
「誰が乾杯の音頭とる?」
「じゃあ、オレが代表して。これにて結びになります、では乾杯を」
(ニックさん、借りがあるので言えませんが)
「「「「「カンパーイ」」」」」
僕達は楽しく食事をし、ジェフォードさんもニックさんもいい感じに酔ってきた。
「おい、ジル。お前いつも、つまんねぇから、全部脱げ」
「「「脱げ、脱げ、脱げ」」」
「絶対にやりません。絶対に。他のならやります」
「「「こーくはく、こーくはく」」」
(ハメられた)
◆
新メンバーを祝した飲み会が無事に? 終わって。
「そういえば、ジルさん」
「ん?」
「告白って、ジルさん、好きな人いるんですか?」
(ステラ……、言えないよ。言えない)
「そういえば、この前、ジルがギルド内で公開告白しますって言っていたぞ」
(ニックさん、殴っていいですかね)
「そうなんですね。そのお相手の方、羨ましいです」
(ステラ、君なんだよ。君)
◆
こうして「吟遊の翼」は五人になり、パーティーの構成もバランス良くなった。
前衛の攻撃、タイミングの良い回復魔法。そして、
「コールドブレス!!」
(マーリンさん、オーバーキルなんですよ。オーバーキル)
地道にクエストをこなし「吟遊の翼」は、ついにAランクへと。
そして今、僕は
(マジっすか。僕、泣きますよ)
野次馬は楽しそうにエールを飲んでいる。
「おい、ジル、男ならもっとシャキッとせんかい」
「騎士道のあるべき姿を、ここで見せてくれ」
「おいら、エール準備しとくね。はい、クラッカー」
「マーリン、お前分ないけど」
「大丈夫。ライトニング使うから」
「えっ、何で私の分のクラッカー、無いんですか?」
「「「それでいいんだよ!」」」
私は今、ドキドキしている。ジルさんが公開告白をするからだ。ジルさんは「黄金の槍」にいたときから、いつも優しくしてくれた。
私が「吟遊の翼」に加入するときの飲み会で、ジルさんに好きな人がいることを知った。私はとぼけていたが、辛かった。
正直、聞くのが怖い。私のジルさんへの想いをずっと閉じ込めなくてはならないからだ。
ジルさんと目が合う、「あぁホントに好きなのに」耳を塞ぎたくなったが、ジルさんはそれ以上に頑張ろうとしている。だから私はジルさんの姿をずっと見た。
私はジルさんに駆け寄り、胸に飛び込む。小さい声だったけど「私もです」と言えた。
ジルさんは私のことを抱きしめてくれて、泣いている。私も想いが実り、嬉しくて泣いた。
「パンッ」「パンッ」「パンッ」
「よっしゃ! 飲むぞ」
「マスターじゃんじゃん持ってきてくれ」
◆
「おう、ジル。良かったな」
『捨てる神あれば拾う神あり』
「吟遊の翼」のメンバーと同じテーブルに座り、僕の口角は自然と上がっていた。
聖騎士の僕、もう冒険者を辞めたいです フィステリアタナカ @info_dhalsim
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます