聖騎士の僕、もう冒険者を辞めたいです
フィステリアタナカ
聖騎士の僕、もう冒険者を辞めたいです。
「はぁ、どうやって仲間を探せばいいんだぁ。もう夕方だし」
僕はレミオ、聖騎士だ。今週、冒険者になったばかりの新米冒険者だ。
ギルドのカウンター席で額に手をやり一人溜息をついていると、上半身裸の男がこちらにやってきた。
「お前、ヒールは使えるか?」
(騎士の恰好のやつに、その質問は凄いな。まぁ、使えるけど)
「使えますよ」
「じゃあ来い」
着いた先には二人の男がいた。上半身裸で。
「みな、聞いてくれ。新加入だ」
(じゃあ来いって、ことは、入れって意味じゃないですよね?)
「わいは
(あぁ、自己紹介始まってるのね)
「
「そして、リーダーで侍のシノブだ。で、お前、誰?」
「おほん、レミオと言います」
「じゃあ、クエストへ行こう」
(ジョブ聞かなくていいんですか?)
三人についていく。というか無理矢理引っ張られていく。
◆
「クエストって、ここですか?」
「そうだ、中は戦場だ」
(なんだか煌びやかな建物ですけど?)
連れてこられた場所は検問所近くの場所だった。
「わいがノウハウ教えるから心配すんなって」
「じゃあ行こう、拙者について参れ」
「ニックさん、ここは何ですか? 教えてください、戦場は不安です」
「はあ? 何を言ってんだ、ここはエッチな店だぞ」
(シノブさん、何で今日会ったばかりの僕を連行したんですか? 逃げよう)
そして、僕は冒険者になったことを後悔した。
◆
逃げ切った僕は、翌日ギルドに行くのが不安だった。
(はぁ、大通りに来たものの……。うん、引き返せそう)
踵を返して歩くと、後ろから肩を掴まれた。
「クエストに行くぞ、レミオ」
(シノブさん、何で僕がここにいるの分かったんですか?)
「昨日は逃げたからな、逃げたら魔獣の前に放り投げるからな」
(魔獣がいるの、逃げるのと逆方向ですよね? アバンさん器用ですね)
「まっ、オレらはクエストをこなさないとな」
◆
「拙者はスライムをやる」
「わいはスライムをやる」
「オレはスライムをやる」
(言葉足りてないですよね、大丈夫ですか?)
「はっ」
「うりゃー」
「ふいっー」
(見事ですね。連携とれてますね。あと三匹です)
「あとは任せた」
(あのー、あなた達一匹ずつしかやっていないですよね?)
僕は残った三匹のスライムを難なく倒した。
「終わりました」
「じゃ、行くぞ」
◇
「拙者はホーンラビットをやる」
「わいはホーンラビットをやる」
「オレはホーンラビットをやる」
(この人達何なんだ、脳筋ですか?)
「はっ」
「うりゃー」
「ふいっー」
(見事ですね。連携とれてますね。三匹全部倒しましたよ)
「あとは任せた」
(ちょっと、何言ってるかわからない)
◇
「拙者はゴブリンをやる」
「わいはゴブリンをやる」
「オレはゴブリンをやる」
(あのー、ゴブリン二体なんですけど……)
「はっ」
「うりゃー」
「ふいっー」
(三人で一体なんですね)
「あとは任せた」
(ですよねぇ)
僕はゴブリンを難なく倒した。
◆
「あら、レミオじゃない?」
「セナ姉、どうして、ここに?」
「今日からギルドの受付で働くことになったの」
ギルドに戻ると幼馴染のセナ姉がいた。セナ姉は超お金持ちだ。代々魔法使いの家系で、なんでもセナ姉の父親であるセナパパが国王に気に入られたみたいで、富を得たそうだ。
「働いて、金銭の感覚を掴みなさいって言われて、受付をやることにしたの」
「へぇー、そうなんだ」
「レミオはどこのパーティーに入ったの?」
(そういえばパーティー名、聞いていなかった)
先輩方のいるテーブルへ、
「シノブさん、パーティー名ってなんですか?」
「知らん」
(あなたリーダーですよね?)
「〔コンバットソルジャー〕だよ」
(ニックさん、ありがとうございます。パーティー名はまともなんですね)
「セナ姉〔コンバットソルジャー〕だって」
「ちょっと、待ってね。先輩、どこですかね?」
先輩がセナ姉に指導している。
「あれ? レミオ、登録されていないわよ」
「えっ」
「パーティーの加入申請用紙があるから」
(うーん、それなら)
「いらないです。大丈夫です。どこのパーティーにも所属していません。あっ、ちなみに〔コンバットソルジャー〕のランクってどうなってます?」
「えーっと、Eランクだわ」
「えっ、どうしてですかね?」
別の受付の方から、言われる。
「難易度の低い
(まあ、上半身裸ですから)
受付でそんなやり取りをしていると、先輩方がいるテーブルから何やら聞こえてくる。
「シノブ、お前
「どれ? ホントだ、ただれてる。こりゃ、四十ヘクトパスカルの熱湯がかかっただろ? わいのポーションやろうか?」
(アバンさん。熱の単位が間違っています。あと熱湯ってもっと温度が高いですよ)
「いや、大丈夫だ。拙者、侍だぞ。ポーションやヒールなんて、もってのほかだ」
(じゃあ、何で僕を誘ったんですか? シノブさん)
◆
僕は
そんなある日のこと。
「ただいま」
「おかえりなさい、レミオ」
「今日も無事に帰って来れたよ」
「そうなのね。そういえば、お客さん来てたわよ」
(ヤバいな、セナ姉のところに避難するか)
「おっ、久しぶり」
(捕まった)
「ニ、ニックさん、今日はどうしたんですか?」
「まぁな、いろいろあってな。来てみたよ」
「あれ? それ鎖帷子ですよね。どうしたんですか?」
「あぁ、死んだやつから拝借した」
(心臓強いなこの人)
「鎖帷子を誰が着るかでね」
「揉めたんですか?」
「シノブもアバンも軟弱者が着る物だって言ってな」
「そうなんですね」
「オレが着ることになったんだが、馬鹿された上に笑われてな。それで本題なんだが」
「?」
「シノブは火傷に雑菌が入り膿んで、アバンはホーンラビットにやられて上半身大怪我」
(やっぱり馬鹿なんですね)
「二人とも戦闘不能だから、どうしようかと思ってな」
「僕に、また入れと」
「うーん、それもあるっちゃあるけど、どこにも所属していない浮いているメンバーを集めようかと」
(危険です。かなり危険です)
「それで、ギルドで後衛を探すと?」
「いや、前衛だ」
(そうですよね。コンバットソルジャー、みんな前衛でしたものね)
「それでレミオ、オレと一緒にギルドに来てくれ」
「ちなみに、ニックさんランクは?」
「Cだぞ」
「へっ?」
「あの二人、FだからパーティーランクはEだけどな」
(ニックさん、それ早く抜けるのが正解でしたよ)
◆
「さてと、探しますかね」
「そんな簡単に見つかりますかね、ニックさん」
「あのー」
ギルドでニックさんと話をしていると、魔法使いの女の子が話しかけてきた。
「ん? 何か用?」
「私、新人なんですが……」
「まっ、ここじゃなんだから向こうのテーブルで話そう」
ニックさんは魔女っ子をギルド奥のテーブルへと案内する。
「それで、パーティーを組みたいと」
「はい」
「ジョブが魔法使いだろ? 後衛は少ないし、引く手あまたなんじゃないの?」
「それが……」
「それが?」
「私、火の魔法しか使えないんです」
「じゃあ、大丈夫じゃん」
「……」
(あぁあ、泣いちゃった)
魔女っ子は俯きながら泣いている。
「どうしたんだよ? ゆっくりでいいから話せよ」
「た、た、焚き木に、火を着けることしかできないんです」
(なるほどね、ファイヤーボールすら使えないんだ)
「オレはニック、槍士だ。よろしく」
(あっ、ニックさん、パーティーに入れるのね)
「ほらほら、レミオも挨拶」
「僕はレミオです。ヒール使えます」
(ニックさんにすらジョブ伝えてないからな)
「わ、私はローズと言います。魔法使いです」
「よろしく」
「よろしくお願いします。それで……お金ないので貸して欲しいのですが」
「いくらだ?」
「今日の宿代とご飯代です」
(うーん、それなら)
ニックさんとローズのやり取りを聞いて、僕はギルドの受付へ行き、セナ姉に話をする。
「セナ姉、一人お金無くて宿に泊まれない子がいるんだけど、セナ姉の――」
「おっけー、大丈夫よ。その子はどこに?」
「あそこのテーブルにいる」
僕は聞こえるように大きな声でローズに言う。
「ローズ! このお姉さんセナ姉って言うんだけど、泊めさせてもらえるんだって」
「ホントですか?」
ローズを呼び、セナ姉と話をしてもらう。
「大丈夫よ。仕事終わりまで待ってね」
「はい!」
僕はニックさんのもとへ行く。
「ニックさん、即決でしたね」
「駆け出しの頃、オレもあんな感じだったから」
「あー。だから、あの二人とも組んでいたんですね」
「あいつらに合わせる為に半裸に慣れるのには、時間かかったけど」
(ニックさん、そこは無理して合わせなくてもよかったのでは……)
この後、ローズの〔コンバットソルジャー〕への加入手続きをして解散となった。
(もちろん僕も手続きをしたよ)
◆
一週間後、ローズは満面の笑みでミーティングに参加した。
「ニックさん、レミオさん。聞いてください! 聞いてください!」
「「ん?」」
「ファイヤーボールが使えるようになったんです!」
「良かったじゃん」
「それで今日のクエストで、どのくらい大きい威力になるか試そうと」
どうやらセナ姉とセナパパの師事のもと、ファイヤーボールを覚えたようだ。
「じゃあ、クエスト行くか」
◇
「ファイヤーボール!!」
ドゴーーン!
「ニックさん。森、吹っ飛ばしましたね」
「ああ、そうだな」
◆
さらに一週間後、
「昨日、ファイヤーアロー、覚えました!」
「じゃあ、クエスト行くか」
◇
「ファイヤーアロー!!」
ズドーン!
「ニックさん。山の岩肌崩れていますね」
「ああ、そうだな」
◆
そのまた一週間後、
「昨日、ファイヤーウェーブ、覚えました!」
◇
「ファイヤーウェーブ!!」
ブワーーーーボーーー!!
「草原、火の海ですね」
「ああ、そうだな」
◆
一週間後、
「あのー、お二人にご相談が……」
「ローズ、どうしたんだ?」
「実は――」
話を聞くと、パーティーにいられなくなった剣士の女の子がいて、ローズの魔法を見て、スカウトしにきたそうだ。
その剣士の女の子は、パーティーにいられなくなった女子を集めて、新しくパーティーを作りたいという構想を持っているとのこと。
「つまり、女性だけのパーティーに所属するか、現状維持でオレらと一緒にいるか悩んでいるってことか?」
「はい……」
「ニックさん、どうします?」
「そうだなぁ――実際のところ、オレらは何もやっていないし、育てたのは、あの受付嬢でしょ」
「……」
「まっ、その様子じゃ、結論出ているみたいだな。ローズの意志を尊重するよ」
ローズは泣いていた。
「あ、ありがとうございます」
◆
「そうかぁ、そうなっちゃったんだぁ」
「セナ姉は良いことしたんだから、いいんじゃない?」
「……、あのねレミオ」
「どうしたの、セナ姉」
「今日、うち来れる?」
「大丈夫だけど、ローズやらかしたの?」
「ううん、違う。ちょっとね」
「わかった。セナ姉の仕事が終わってから行くよ」
僕はギルドの受付でセナ姉と話をしたあと一度家に帰り、着替えてからセナ姉の家へ向かった。
「こんばんは」
「レミオ君、待っていたよ」
セナ姉の家に着く。セナパパが玄関の扉を開け出迎えてくれた。
「お邪魔します。セナ姉は?」
「部屋にいるよ。おーい、セナを呼んできてくれー」
(新しいメイドか。流石、お金持ち)
メイドに呼ばれ、セナ姉が現れる。
「お父様」
「セナも腰掛けて」
「はい、お父様」
「レミオ君、実はな」
「はい」
「君にセナの婚約者になってもらいたいんだ」
(えっ)
「セナがな、ギルドで働いて、どうしても君と結婚したいと、想いを募らせてな」
「はい」
「冒険者活動は危険を伴う」
「はい」
「セナも実力はあるが、命の危険にさらす必要はないと私は考えた」
「はい」
「同じように、君にもね」
「はい」
「結論をいうと、冒険者活動を辞めて、私の下で働いてほしい」
「……」
「そして、セナの傍にいてやって欲しいんだ」
僕はセナ姉をちらりと見たあと、セナパパに言う。
「僕は昔からセナ姉のことが好きです」
「レミオ……」
「だから、婚約者になるのは、とても嬉しいです。でも少し時間をください」
「わかった。ゆっくりでいいから考えてな」
セナパパが席を外した後、セナ姉と向き合った。
「あのね、レミオ。ニックさん、Cランクでしょ?」
「そうだよ」
「それで、もうレミオもCランクに上がるでしょ?」
「うん」
「クエストがEとかFとかなら怖くないんだけど、BやCになると、生存率が低くなるでしょ」
「そうだね」
「イヤなの、だからレミオに辞めてほしいの」
「うーん、セナ姉わかったよ。ニックさんに相談してみるよ」
◆
翌日。僕はニックさんに相談する為、ギルドへと向かう。
「よっ、待っていたぞ」
「拙者、待ちわびたぞ」
「シノブさん、アバンさん」
アバンさんが話を続ける。
「待たせたな。これで、コン何だっけ? 完全復活だな」
「今日はニックさんは?」
「いないぞ、あいつ臆病者だから、強いやつに守ってもらいたいみたいだ」
「どういう事ですか?」
「あいつCだろ? だからAとかBのやつに守ってもらいたくて、そっちのパーティーに行くらしい」
「へっ? それって」
「Bランクパーティーに誘われたんだってさ、あいつ弱虫なんだよ、ははは」
(決まりだな)
「シノブさん、アバンさん、今までお世話になりました。僕、冒険者辞めます」
「「はぁーーあ?」」
その後二時間ほど、三人で鬼ごっこをしたのは、また別のお話。
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