―45― エピローグ
華山ハナと雨層カナタの激戦を観察している者がいた。
彩雲堂詩音である。
「お姉ちゃん、魔王の残滓らしき人物を見つけたのですが……」
手にしていたスマートフォンから妹の由紀の声が聞こえる。
「拘束できたのか?」
「すみません。拘束する前に自害させられてしまいました」
忍びなさそうに由紀が声を発した。
ちっ、と内心舌打ちをしてしまう。拘束すれば情報を引き出せると思っていたが、そう簡単には事が進まないか。
「その、そちらの状況はどんな感じですか?」
「あぁ、我が主がすべて片付けた」
「流石カナタ様です」
由紀は心底嬉しそうにそう告げる。
それを聞いて、これ以上報告はなさそうだと判断して通話を切る。
そして、前方を見た。激しい戦闘があったとはがりに原っぱのあちこちが陥没していた。その中央にいる人物へと話しかけるために歩みを進める。
「それで、貴様は誰なんだ?」
中央には一人の少女が立っていた。白い髪に陶器のような白い肌。着ている服も白かったようだが、それは赤く血塗られている。
敵なのか味方なのか判断つかない。
しかし、彼女の足下に弛緩した表情の自分の主、カナタが眠っているのを見て害意はなさそうだと判断した。
「ん……、わたくしはカナタの……なに?」
「なんで疑問形なんだ?」
少女のとぼけた答えに思わず突っ込んでしまった。
白髪の少女は少なくとも人間ではなさそうだが、しかし、他の何者なのかまったく見当がつかない。
「それをどうするつもりだ?」
少女は華山ハナを首元を雑に持ち上げていた。
華山ハナ。魔王の残滓が手駒にしようとしていた神。恐らく異世界の神なので、邪神と呼称される。
神は存在するだけで世界の法則に影響を及ぼす。この現実世界にダンジョンだったりスキルだったりと、元からなかった法則が生えてきたのは異界の神がこっちにやってきたことと影響しているのではないだろうか。
「神核を取り出します。じゃないとユニークモンスターが来てしまいますので」
少女は上を見上げながらそう告げた。
上空は巨大な魔法陣が未だに動いている。なんらかの転移魔法なのは把握できたが、あまりにも複雑すぎて詩音の実力をもってしても詳細はわからない。ただ、今の言葉から察するに、この魔法陣はユニークモンスターを召喚するものなんだろう。
「貴様ならユニークモンスターぐらい倒せるんじゃないのか?」
確かに、七体存在するユニークモンスターは強力だ。けれど、目の前の少女ならユニークモンスターぐらい容易に倒せるんじゃないだろうか。
「まだ時流ではありませんので」
少女の言葉に詩音は首を傾げた。どういう意味だかわからなかった。
ふと、彼女は華山ハナの体内からなにかを取り出していた。それは透明な正方形のような形をしている。
初めて見たがあれが神核なのだろう。
途端、上空にあった魔法陣が瓦解した。神核の持ち主がいなくなったことで、魔法陣を維持するだけの神の権能も消えてしまったのだろう。
それを確認すると彼女は用が済んだとばかりにどこかへ走り去ろうとする。
「おい、どこに行くつもりだ?」
もう少し彼女から情報を引き出さなければ。そう思って、詩音はそう尋ねた。すると、彼女はこっちに振り向いて、
「まだわたくしにはやらなきゃいけないことがありますので」
とだけ言って、姿を消した。
まるで幽霊みたいなやつだな、とそんな感想を彼女に対して抱いた。
◆
「あ……」
と、声を発する。
どうやらさっきまでオレは寝ていたようだ。自室の天井が視界に入る。しばらく、なにか大事なことを忘れているようなと思考をして気がつく。
そうだ、戦いの最中にオレは気絶したんだ。
「あ、カナタ様! 目が覚めたんですね!!」
丁度扉を開けて彩雲堂由紀が入ってきた。タオルを手にしているし、きっと看病してくれていたに違いない。
「なぁ、戦いはどうなったんだ!?」
反射的には声を荒げていた。
結局のところ華山ハナによって作られたあのユニークモンスターを召喚する魔法陣はどうなっんだ?
「えっと、大丈夫ですよ。カナタ様が全部解決してくれましたので」
ということはあの魔法陣が発動することはなかったというわけで、つもり華山ハナは殺害されたということか。
マジか……。
ぐったりと体から力が抜けていく。悲しいというよりか喪失感のほうが真っ先に感情としてこみ上げてきた。
オレの青春は華山ハナだった。
どれだけ彼女に元気をのもらったことか。初めて彼女のライブに行った日の興奮や受験勉強のときエンドレスで彼女の曲を聴きながら勉強したことなど、彼女に対する思い出が走馬灯のように頭の中を流れていく。
その彼女がもういないんだと思うと、自然と涙がこみ上げてくる。
「ごめん……すこし一人にしてくれないか」
そう言うと、由紀はなにも聞かずにただ頷いて部屋からそっと出て行く。傍から見ても、今のオレはひどく落ち込んでいるんだろう。
彼女が部屋を出て行ったのを契機に涙がボロボロと零れ始める。しばらくの間、布団に顔を押しつけては声が漏れないように泣き続けた。
オレにもっと力があれば違った未来があったのかもしれない。そう思うといくら後悔してもしたりない。
もっと強くなりたい。そう思うが、Fランクのオレにそんな思い不相応なんだろうか。
『ピコン』とスマートフォンの通知音が聞こえた。
無意識のうちにポケットからスマートフォンを取り出して、失敗したと感じた。
華山ハナに関する記事が更新された際に、通知音が鳴る設定にしてあったのを思い出したのだ。
どんな内容でも現在の心境では受け止めきれる気がしない。そう思いつつ、自然の記事を読んでしまった。
『本日をもって華山ハナは、アイドルに復帰しまーす!!』
画面の向こう側の動画の中で華山ハナが元気に両手をあげて宣言していた。
ん?????
『婚約発表したとか変な記事を書かれましたけど、全部誤報でーす! いやー、ファンのみんなには心配かけてごめんねー!!』
あれ? なんで生きているの? 昔の記事かもしれないと日付を見るがさっき更新されたばかりの記事だ。
「目を覚ましたようだな」
ふと、詩音が扉を開けて入ってくる。
「えっと、ユニークモンスターを召喚する魔法陣ってどうなったんだ?」
詩音なら知ってそうだと思いそう尋ねる。
「あぁ、あの魔法陣なら起動する前に破壊されたよ。華山ハナから神核を取り出したことでな」
神核ってのがなにかわからないが、殺害する以外にも魔法陣をとめる方法はあったというわけか。
「そういえば、華山ハナは無事アイドルに復帰できたみたいだな。神じゃなくなったことで、魔王側が彼女に圧力をかける必要がなくなったというわけだな」
詩音が華山ハナの復帰動画を観てそう口にする。神やら魔王やら相変わらず彼女は妄想の世界に生きているようだ。
(なぁ、鑑定スキル。これはどういうことなんだ?)
ふと、オレは咎めるように心の中でそう呟いた。
華山ハナが殺害されたと勘違いしたのは、鑑定スキルが殺害以外に魔法陣をとめる方法がないと断言していたせいだ。
『ご主人様、申し訳ございません。どうやらのわたくしの言葉足らずだったようです。別に殺害せずとも彼女を倒すことができれば、魔法陣をとめるには十分だったようです』
(おい、どうなってんだよ!? 鑑定スキルって正しいことしか言わないんじゃねぇのかよ!)
思わず声を荒げてしまう。
だって、オレはこの完璧な鑑定スキルを絶対的に信頼していたんだぜ。なのに、これはその信頼を揺るがす大事件ではなかろうか。
『鑑定スキルも間違うことがあるというわけですね』
なんだよそれ! と、思わずオレは叫んでいた。
どうやらオレの鑑定スキルは嘘をついていたようだ。
◆
「なるほど、つまり何者かがわたしの神核をあなたたちに渡したというわけね。そのおかげで、わたしはアイドルに復帰できた、と」
華山ハナは動画にて復帰の告知をしたあと撮影場所のアイドル事務所の廊下で、スーツを着た特徴のない男と会話をしていた。
「あぁ、我々としては貴様の神核を手に入れさえすれば目的を果たしたも同然だからな。今後我々から貴様に余計な干渉はしないと約束しよう」
スーツの男は魔王の残滓と呼ばれる謎の存在だ。彼らのせいで華山ハナはアイドル活動を引退まで追い込まれてしまった。
「そう」
と頷きつつ、考える。
神核の奪われたせいで神の権限を失ってしまった。けど、それと引き換えにアイドル活動ができるならば、結果オーライといったところか。
「誰があなたに神核を渡したの?」
「調査中だ」
スーツの男はそう告げる。
十中八九あの場にいた白髪の少女が神核をこいつらに渡したのだろう、と結論づける。結局、あの白髪の少女が何者なのか最後までわからなかったが。
「そういえば、神核を渡した者が興味深いをことを言っていたそうだ。元々華山ハナを殺害するつもりだったが気が変わった、とな。その者に感謝するんだな」
はいはい、と華山ハナは投げやりに返事する。スーツの男の上から目線の言い方が気に入らなかった。
けど、スーツの男の話が本当ならば、なんで少女は考えを変えたのだろうか? と、華山ハナは思考を巡らせる。
そして、一つの結論に至った。
もしかしたら、カナタくんの思いが少女の思いを変えたのかもしれない。
その予想が当たっているならば、感謝すべきはカナタのほうだ。
「今度カナタくんにお礼しに行こ」
そんなことを決意する。
きっと彼も推しに会えたら喜んでくれるに違いない。
第一章 ―完―
実は最強の探索者、嘘ばかりつく鑑定スキルにまんまと騙されて、自分を最弱だと思い込む〜SSS級モンスターをF級だと言い張るんじゃねぇ! 北川ニキタ @kamon
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