5時24分。
Renon
消えた夕日の影
彼女は夕日に落ちた。
5時24分。
染まりゆく朱の世界。なびく鱗雲。
澄んだ空気は空を一層高くする。
美しいそれらを背景に微笑む彼女。
黒髪は光を纏い、茶となり揺らぐ。
どこか儚さを持った制服。
広がるスカート。 音を鳴らすローファー。
秋風は彼女の影を攫う。
「ごめんね」そう一言、私に言い残して。
彼女はとても明るい人だった。
眩しい笑顔は私にだけじゃない。周りの人、皆を照らした。共に過ごした時間の中で、暗い裏側を見ることはなかったほどに、彼女はずっと明るかった。
だからこそ、2人きりの昼食。
空き教室で窓の外を眺めながら
「もう、終わりにしたいよね」と呟く彼女を鮮明に覚えている。
「でも…」
返す言葉を失った。そう簡単に現状は変えられない。暗い顔をした私を見て、ただ彼女はふふっと微笑むだけだった。
彼女が消える必要などどこにもない。
そんな私の意思は届かない。
彼女は死んだ。その重すぎる現実を目の当たりにした私へ、周りは多くの言葉をかけた。
しかし、私の中で彼女のへ喪失感が薄れることはなかった。降りかかる言葉を飲み込めど、飲み込めど、彼女のように明るく振る舞うのは容易ではない。
明るさが消えた私の世界は暗く、暗く、辿るべきものを失った。
はずだった。
バカだよなぁ……
辿るべきじゃないのに……
染まりゆく朱の世界。なびく鱗雲。
あの日と同じ、美しい世界。
来るべきじゃない。わかっているけど……彼女は眩しすぎた。
5時24分。
スカートは揺れ、ローファーが音を鳴らす。
秋風は私を彼女の元へと導く。
「ごめんね、助けてくれた命を無駄にして。」
5時24分。 Renon @renon_nemu
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