第10話 襲来する危機

 「三人ともお疲れでした~。それぞれ良い働きでしたよ。」


 穢れを祓う事に成功した三人にシャノンはまず労いの言葉をかけた。

 その事に喜ぶ三人であったが、次にシャノンが発したのは厳しい言葉であった。


 「けどまだまだですよ?あの穢れを一撃で払えるぐらいにならないと上には上がれませんからね。」

 「…はい、精進します。」


 代表してコレットがそう返すとシャノンは満足したのか笑顔を浮かべる。


 「よろしい♪では頑張った三人にレンさんから一言どうぞ!」

 「え?俺?」


 突然話を振られた漣は動揺しながらも三人に声をかける。


 「え、えっと。三人ともカッコ良かったです!」

 「フフ。素直なお言葉、ありがとうございますレンさま。」

 「ま、まあ俺がカッコいいのは当然だけどな!…でもサンキュー。」

 「…ありがとう。」


 褒められた事にそれぞれの反応を示す三人。

 コレットは軽い返事ではあったが、内心は飛び上がらんほど喜んでいた。

 一方で漣はクリスの言葉に引っかかりを感じていた。


 「あのクリス先輩?なんで様づけなんです。」

 「あら?いつか隣に立つかも知れない殿方ですもの。敬称で呼んだ方がいいかと思いまして。」

 「そ、そうですか。」


 クリスの言葉に何やら別の意味が込められているのを感じつつ、漣はクリスの魅惑的な視線にドキドキしていた。


 「ムッ。」

 「…。」


 それに対してルニはどこか不機嫌な声を出し、コレットは何とも思っていないように取り繕いながらも内心は動揺していた。


 「ほほう?」


 その一連の様子を見ていたシャノンは興味深いと言わんばかりに観察していたが、この空間を壊す存在、シンシアが声を出した。


 「漣さま、そろそろ馬車にお乗りください。これ以上この場にいる必要は無いと思われます。」


 全員がシンシアの方を見れば既に馬車の準備は出来ており、後は乗り込むだけとなっていた。


 「お、お待ちください!で、出来ればもう少しお話を…!」

 「そうだぜ!もうちょっと居たって。」


 クリスとルニが抗議の声を上げるが、シンシアは動揺する事も無く反論する。


 「お言葉ですが、漣さまは王より穢れ払いの見学という条件の元で王都を離れました。幾らあなた方が聖女の立場とは言えど話したいという理由で引き留められません。」

 「「うっ…。」」


 シンシアの言葉に何も言い返せない二人は、そのまま黙り込んでしまう。

 唯一何も言わないでいるコレットも顔には出さないでいるが、内心は泣きたいぐらいであった。


 「まあまあシンシア。そう目くじらを立てなくても。」


 そんな彼女たちの気持ちを知ってか知らずかシャノンがシンシアに呑気に話しかける。


 「別に怒っている訳ではありません。これ以上は必要の無い事だ、と申し上げているだけです。」

 「じゃあ必要がある事なら付き合ってくれる?」

 「…何かプランでもおありで?」


 諦めたようにシャノンに質問するシンシア。

 ここで話を聞かなければ長期に渡って駄々を捏ねられるのは分かり切っていたからだ。


 「実はこの近くに集落があって、穢れの被害を確認するためにも視察に行く予定なんですけど。一緒に来ません?」

 「それを漣さまが同行する理由が見当たらないのですが。」

 「漣さんの存在は知っていても顔は知らないという人は多いはずです。特に今から行くような小さな集落なら尚更でしょうね。」

 「…改めて顔見せしようと?」

 「人脈は力ですよ?例えか細く見える繋がりでも、それがいつかレンさんの役に立つかも知れませんよ?」

 「…。」


 シャノンの説明を受けてシンシアは考え込む。

 このまま帰るのと寄り道する事、どちらが漣のためになるかを考えていると本人から声がかかる。


 「シンシアさん。良ければ寄り道して貰えるかな?シャノンの言葉にも一理あるし、もう少し先輩たちと過ごしたいなって…ダメ?」

 「…分かりました。少しお待ちを、予定より遅れる事を城に伝えますので。」


 そう言うとシンシアはその場から離れて魔法で誰かと話始める。

 これによってもう少し漣は彼女たちと過ごす事になったのである。



 「ここが視察する集落?」

 「そうですよ。…思っていたより被害が大きそうですね。」


 数十分後、馬車に揺られながら目的地である集落に着いた漣たちが見たのは家が壊されボロボロな状態で歩く人々であった。


 「…。」

 「おい、大丈夫か?」

 「あ、う、うん。大丈夫、大丈夫。」


 顔面が青くなりつつある漣を心配するルニ、言葉にしなくともクリスとコレットも同様に心配していた。


 「漣さま。目を逸らさずによく見ておかれた方がよろしいかと。」

 「っ!すみませんが。顔を青くしている相手に掛ける言葉がそれですか!もっと他に言うべき言葉があるでしょう!」


 コレットがシンシアに対してそう怒るが、シンシアは漣の方を向いたまま答える。


 「これから漣さまは多くの困難と出会う事でしょう。このような場面とも多く出会うはずです。その時のためにも今こそ見ておけねば。」

 「彼の気持ちはどうなるんですか!彼は今!辛いんですよ!寄り添ってあげようとは思わないんですか!」

 「…。」

 「…。」


 二人の間に火花が散るような沈黙が続く。

 クリスもルニも恐ろしくて割って入れない。

 唯一止められそうなシャノンは集落の長を探しにどこかへ行ってしまった。

 嫌な沈黙が続く中、この空気を打ち壊したのは漣であった。


 「コレット先輩、心配してくれてありがとう。」

 「…。」

 「きっとどっちも正しいんだと思う。その上でまだ俺は目を逸らさないよ。シンシアさんの言う通り、乗り越えないといけない事だから。…だけど本当に限界だと思えたら、その時は止めてください先輩。」

 「…そう。」


 コレットはそう言うと再び黙り込む。

 内心は複雑なものが渦巻いていたが、名前を呼ばれた事で少しだけ喜びも混じっていた。


 「シンシアさんも、俺の事を考えて言ってくれてありがとう。」

 「仕事ですので。」


 シンシアはそう言って同じく黙り込む。

 二人とも黙り込んだため、漣はルニとクリスと話しながらシャノンが戻って来るのを待っていた、その時であった。


 「穢れだ!!穢れがやって来たぞ!!」


 集落の誰かが大声で穢れが来たのを知らせたのは。


 「穢れ!?」


 クリスがそう叫びながらも弓を準備しはじめる。

 他の二人もそれぞれの得物を構えながら状況を確認する。


 「ちっ!人込みで穢れがみえねぇ!」

 「人の流れから見て集落の反対側からやって来ているようね。まずは近づかない事には。」

 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 そう話合っていると後ろから叫び声が聞こえた。

 その瞬間、空から男が漣たちの近くの家に降り注いだ。

 後ろを振り返ってみると、そこには。


 グルルルルルルルル


 先ほど払った穢れが可愛く見えるほどの巨大なイノシシのような穢れがそこにいた。

 大型トラックも超えるような巨大な穢れが逃げて来た人々をその巨大な牙で弾き飛ばしていた。

 つまるところ現状は。


 「あれ?これって…ヤバい?」



 素人目でもピンチであった。

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聖女となって世界を救え? いやいや自分『男』ですけど!? 蒼色ノ狐 @aoirofox

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