・・・ジジ・・・

五木史人

夏の日に

地上に、並び立つ人々の住む家々。


その建物群が、蝉の目にどう映っているのかは解らない。


蝉自身、自らに死が迫っている事は、重々承知している。


それは、覆すことが出来ない宿命。



・・・僕の死に場所・・・・


・・・最後の安住の地・・・


・・・死ぬ前に、あの建物の中に入りたい・・・


・・・夜になると、不思議な灯りを灯す、あの建物の中に入りたい・・・


・・・地上にそびえ立つ、山脈の様な、あの建物の中に入りたい・・・・



家の扉が開き、家の中から灯が漏れた。



・・・今だ!・・・



蝉は、扉を抜け、玄関の踊り場を飛び回った。



「蝉だ!捕まえて!」


人間たちの声が、玄関の踊り場に響いた。



蝉は、玄関に掛けてあった姿見の鏡の裏に飛び込んだ。



・・・・・ここだ・・・・僕の最後の場所・・・安住の地・・・



姿見の鏡の裏のその場所が、蝉を優しく受けとめてくれているように思えた。


そう思うと蝉の身体は、その場所に馴染んでいった。


・・・・・ここが・・・・僕の・・・・最後の安住の地・・・・


と蝉が思った時、姿見の鏡が取り外され、


人間が、蝉の身体を掴んで、「自由に飛びな!」と、窓の外へと蝉を放った。



・・・・・ジジ・・・・・・・



蝉は、そう音を立てながら、夏の夜空を飛んだ。 。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。





おしまい

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・・・ジジ・・・ 五木史人 @ituki-siso

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